パート33
— 色褪せた記憶。
東京の穏やかな朝と共に、孤児院では子供たちの賑やかな一日が始まっていた……。
その孤児院は一人の老婦人が経営しており、今日は娘のムズハが世話をしていた。
その日、一人の少年が孤児院へやって来た。少し怯えた様子で、身体を縮こませたシャイな少年だった。
「君の名前は?」
オーナーの娘が彼に名前を尋ねる。少年は少し沈んだ表情を見せ、視線を地面へ落とした。ムズハはどこか奇妙な違和感を覚えた。
しかし少年は、疲れ切った声で答えた。
「ジカシ・マヨラ……」
— 数十年前。
「今日はマヨラの番だ。部屋の掃除はマヨラがやるんだぞ。」
孤児院では毎日の決まりとして、一人の子供に部屋掃除を任せていた。清潔さを大切にし、綺麗に暮らすことを学ばせるためだった……。
だがそのルールには一つだけ例外もあった。もし誰かが望むなら、他の子を手伝っても良いということだ。
「ごめん、でも手伝ってくれないかな……? 前は僕が君を手伝ったよね。」
マヨラは一人の少年に助けを求める。
「悪いなマヨラ。でも友達が待ってるんだ。俺がいないと遊び始めないから……。一人でやってくれ。」
そう言い残して少年は去っていった。マヨラはそのまま掃除を始める……。
しばらくして、ムズハがやって来てマヨラを手伝い始めた。
「ここにいたんですか? でもこれはあなたの仕事じゃありません。僕一人でできます……。」
ムズハは笑いながら答える。
「そんなことないわ、マヨラ……。この孤児院は私の場所でもあるもの。私はただ、誰にも辛い思いをしてほしくないだけよ……。」
マヨラはその言葉を聞いて少し嬉しくなった。
掃除が終わった後、マヨラはバルコニーから遊ぶ子供たちを静かに眺めていた。
しばらくして、マヨラはムズハの元へ行き、外出の許可をもらう。ムズハはマヨラがどこへ向かうのか知っていたため、そのまま送り出した。
マヨラは孤児院を出ると、近くの高校へ向かって歩いていった。そして学校が終わる頃、妹のシンと合流する。マヨラはシンに、教師と一緒に待っているよう伝えていた。
その頃のマヨラは十三歳ほどだった。彼が八歳の時、母親は裁判を抱えており、それ以来マヨラとシンは家を離れ、ここへ来ていた……。
シンは教師と共に去っていき、マヨラは再び孤児院へ戻っていった。
— 五年後。
マヨラは孤児院を出て、街側に家を借り、シンと二人で暮らし始めた。
そして時代が移り変わる中、タカオにとって今日は学校の初日だった。彼は少し緊張していた。
「今日は新しいクラスメイトを紹介します。ジカシ・タカオ君です。タカオ君、みんなに挨拶してください。」
「こんにちは、ジカシ・タカオです。皆さんに会えて嬉しいです……。」
恥ずかしさのあまり、それ以上言葉が続かず、そのまま自分の席へ座ってしまった。
休み時間になっても、タカオは一人ベンチに座り、グラウンドで遊ぶ男子たちを眺めていた。
その時、一人の少年が教室へ入ってくる。
「なんで一人で座ってるんだ?」
タカオは少し間を置いて答えた。
「別に……。」
「俺と来いよ。外で遊ぼうぜ。まだ時間あるし。」
そう言って、その少年はタカオを外へ連れ出した。
「おーいみんな! こいつも入れていいか?」
皆が集まり、少し戸惑いながらも受け入れた。彼らはサッカーをしていた。
タカオはまだ少し恥ずかしそうにしていた。
試合が始まり、最初のゴールはタカオが決めた。そのことで少し気分が良くなった。
しかし次のラウンドで、サッカーボールがタカオの顔に直撃する。彼は仰向けに倒れ、鼻血を流し始めた。
皆が彼を囲み始める。
「さっきまで普通に上手かったのに……」
「どうした?」
「大丈夫か?」
周囲でクラスメイトたちが騒いでいた。
タカオは立ち上がり、鼻血を拭う。そのせいでシャツにも血が付いてしまっていた。
それでもタカオは笑いながら皆に言った。
「大丈夫だよ……。ちょっと疲れただけ。みんなは続けてて、僕はあそこで座ってるから……。」
そう言って、タカオは端のベンチへ座った。
頭に手を当てた瞬間、激しい痛みが走る。
その時、誰かがハンカチを差し出した。
それは、タカオをグラウンドへ連れて来たあの少年だった。
「俺はニキン。会えて嬉しかったよ……。大丈夫か?」
「うん、大丈夫……。僕はジカシ・タカオ。」
タカオは笑顔で答えた。
夕方になり学校が終わると、皆それぞれ家へ帰っていった。
校門を出たタカオは、自分の母親が外で待っているのを見つける。タカオは嬉しそうに駆け寄り、そのまま母親に抱きついた。
「今日はどうだった? その服の汚れは何? 初日からこんなに汚して。」
そう言いながら、ミス・ジカシはタカオの耳を軽く引っ張った。
タカオは今日あったことを全部話し、二人は一緒に家へ帰っていった。
その数時間後――東京の別の場所で、マヨラは妹の失踪届を提出していた……。
彼の手は震えていた。何も考えがまとまらなかった。
「少し前に妹のシンが言ってたんです。クラスメイトの一人が付きまとってきて、嫌がらせをしてくるって……。」
マヨラは警察を信じようとしていた。
それでも……。




