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ゴラリ・エージェント  作者: Adrashika
第五章:血の起源 — ゴラリ
26/36

パート26

雪が降り始めようとしていた。祖母が言った言葉は、確かに真実であろう。人の心を理解することは、それほどまでに困難なのだ。ここでは、たった一度の小さな過ちが、即座に「死」へと繋がる。カメズはなぜ名を隠しているのか? フラダの真の目的は何なのか?

— 信 頼 (Trust / Shinkai)

冷たい風が吹き抜け、空は茜色に染まり、鳥たちが巣へと帰っていく。

ユリナは家の縁側えんがわで、静かだが心の奥に悲しみを抱えて座っていた。

「今年の木曽谷きそだには雪が深くなりそうですよ。村の衆は、家や蓄えをいつも以上に気にかけるべきだと言っております。」

ユリナの祖母が、彼女の母と話し終えてユリナの隣に腰を下ろした。その瞬間、ユリナの心の曇りが少しだけ晴れた。

「おばあ様、いついらしたのですか?」

「今、お前の父上と一緒に戻ったところだよ。仕事帰りの道でちょうど鉢合わせてね。」

ユリナは立ち上がり、祖母のために茶菓子なみがしの用意を始めた。

祖母は、どこか違和感を覚えた。ユリナが何も言わずに席を立ち、台所へ向かうのは初めてのことだったからだ。

「何かあったのかい?」

祖母が母に尋ねると、母は答えた。

「実は、ユリナの縁談の話をしておるのです。話を持ち出すと、あの子は少し時間が欲しいと言い、それからずっと黙り込んでしまいまして…。」

「なるほど。急にそんな話をされたから、戸惑っているだけだよ。

女子おなごにはよくあることさ。

女というものは、信じた相手には突然すべてを捧げてしまうもの。一度信頼を置けば、その人のためなら何だってできる。

ユリナは今、その旅の途中で少し迷子になっているだけさ。でも、必ず戻ってくるよ。」

母は祖母の言葉に深く頷いた。

「左様でございますね。私が気に病みすぎていたのかもしれません。」

そう思って、母は少し微笑み、会話を続けた。

その間、ユリナは茶菓子の準備を終え、祖母のもとへ運んでいった。彼女の頭の中では、間もなく大坂おおさかへ辿り着くであろうフラダのことで一杯だった。

そのフラダは、遥か遠くで大坂の巨大な城壁を見上げていた。

— 日本、大坂、城下町 (Castle Town, Osaka, Japan)

そこは、米や木材の取引が盛んに行われる商いの中心地だった。

フラダとカメズが到着すると、そこでは一人の男が盗みの罰を受けている最中だった。

男は地面に組み伏せられ、両手を広げて縛り付けられていた。

その背中には容赦なくむちが振り下ろされ、フラダはその男の苦しみを自分のことのように感じていた。

(また一人か…。カメズの次はこの男のようになるのか。いや、私の受ける難儀はもっと深いものになるだろう。だが、やらねばならぬ。)

フラダはしばらく立ち止まり、その光景をじっと見つめていた。カメズにはその意図が理解できない。

(一体、何をしているんだ?聞いたところで本当のことは言わないだろうが。今は耐えるしかない。大坂に着いた今、もはや恐れることはないのだ。)

罰が終わると、役人が男に言い放った。

「盗みが少な量であったため、百五十回の叩き(たたき)で済んだのだ。次は命がないと思え。」

そう言って男を解放した。男は息を切らし、震えながら立ち上がった。腕は硬直して曲げることすらできない。

フラダは周囲を警戒しながら、その男の方へ歩み寄ろうとした。

「待て!貴様らは何者だ?許可なくどこへ入ろうとしている?」

番所の門番が呼び止めたが、フラダの視線はまだ去りゆく男に向けられていた。

(いけない、今あの男を止めなければ機を逃す。だが今は、中に入る口実を見つけねば。)

「…近隣の村から、大坂へ向かうために参りました。」

フラダは静かに答えた。

「ならばなぜ、街道かいどうを通らぬ?」

フラダは一瞬言葉に詰まった。カメズは思わず一歩後ずさる。

(まずい、罠にはまったか…。適当な言い訳は通じない。もっともらしい理由が必要だ。)

フラダは覚悟を決めて答えた。

「私たちは…長い旅の途中でして。故郷の村がこの近くにあり、ここを通るのが近道だと思った次第です。」

門番たちはフラダとカメズを鋭い目で見定めたが、やがて通行の許可を出した。

「まさか、あんな嘘が通じるとはな…。」

カメズは心の中で呟き、フラダの背中を追った。二人は木材が積み上げられた商いの区画へと消えていった。

「急ごう、一刻の猶予もない。」

フラダがカメズを促す。

だが、その後ろ姿を見つめる影があった。二人の会話を聞いていたその人物は、ある商人に問いかけていた。

江戸えどからここへ来た者はいないか?」

商人は少し考え、「いや、見ておりませんな」と言って仕事に戻った。

問いかけていたのは、役人の**景政かげまさ**だった。

運良く、彼の目はまだカメズを捉えていなかった。

(一体どこへ消えた?古い記録には『カメズ』とあるが、別の書には『カザチマ』の名がある。貴様の真の名は何だ…?)

景政はそう独りごちると、大坂の奥へと馬を進めた。

二人が**さかいへと向かう中、景政は書類を読み込み、馬に跨って河内かわち**へと走り去っていった。

お時間をいただき、ありがとうございました。もしこの物語を気に入っていただけたなら、ぜひこれからもお付き合いください。

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