パート20
千の切り傷で血を流せ
深い青色の海が、太陽の光で緑色に輝いていた。
マヨラはその海の中に沈んでいた。目は開いているが、そこには奇妙な空虚さがある。髪、手、足が上に向かって漂い、まるで彼にふさわしい「その瞬間」を味わせているかのようだった。
その時、マヨラの目の前に泡の群れが現れた。何が起きたのか理解する間もなく、巨大な爆発が起きる。その光の中に、マヨラは母の面影を見た。
そして……あの「ゴラリ」の姿も。
それは彼に、残酷な現実という鏡を突きつけていた。
何かが壊れる音がした。マヨラは目を覚ます。自分のアパートの部屋だった。
彼はベッドから起き上がり、バスルームへ向かおうとした時、田ヶ谷さんからの着信が入る。マヨラはスマホをサイレントにして、そのまま中へ入った。戻って確認すると、膨大な数の不在着信。かけ直そうとした瞬間、再び電話が鳴る。
「マヨラ、どこにいる……? 何度もかけているんだぞ。いいか、今すぐ市の墓地に来い」
「どうしたんですか……? 何かあったんですか?」
「来ればわかる……」
田ヶ谷さんはそう言い残し、電話を切った。マヨラは嫌な予感を抱きながら準備を整え、墓地へと急いだ。
そこには多くの人が集まっていた。田ヶ谷さんや渋谷エージェンシーの面々も。日は沈み、風は止んでいた。マヨラが進むにつれ、棺が見えてくる。ガラス越しに見える遺体は、まるで体中の血が流れ出たかのように、血の海の中に浮いていた。
マヨラの脳裏に様々な顔が浮かぶが、確信は持てない。しかし、ある場所で彼は足を止めた。まるで自分が無力で、孤独になったかのように。
目の前にあったのは、無残にも数千回切り刻まれた「オカイラさん」の遺体だった……。
頭が真っ白になる。マヨラは田ヶ谷さんの隣に立った。
「さん……これは……?」
田ヶ谷さんは手で軽く「落ち着け」と合図する。
しばらくして、田ヶ谷さんに電話が入った。マヨラの目は、棺の中の遺体に釘付けだった。皮膚は剥がされ、肉は抉られ、切断された片足が遺体の横に無造作に置かれている。
マヨラの手が震え始め、鼓動が激しくなった。
田ヶ谷さんは少し離れて電話に出る。
「……なぜこんな時にかけてきた。状況はわかっているはずだ」
電話は田ヶ谷さんの妻からだった。
「ごめんなさい、でも今からクリニックに行くから伝えておきたくて……実はサイナの耳から血が出ていて、あの子すごく怖がっているの」
田ヶ谷さんは電話を切り、マヨラに「先に行く」と告げる。マヨラはそれを引き止めた。
「待ってください、伝えたいことがあります……。これ、あの『ブレード・ゴラリ』の仕業です。間違いない。耳の傷を見てください、奴らの印があるはずだ……」
田ヶ谷さんはその言葉を聞き、マヨラをじっと見つめる。
「たった一度の遭遇でそんな風に振る舞うとはな。……正直に言えば、今すぐお前を殴りたいところだが、お前は信頼できる男だ」
そう言い残し、田ヶ谷さんは去っていった。マヨラは葬儀に意識を戻す。
棺が下ろされ、墓が作られていく。マヨラは遠くからそれを見守っていた。
「手に入れば土、失えば金(宝)」
墓石にはオカイラの名前があり、花が供えられた。マヨラはそれを見て、小さく微笑んでいた。エージェンシーの若い男が隣に来て言った。
「オカイラさんは君をすごく信頼していたんだ。苦しみの中でも立ち上がる君の姿に、今の俺たちは救われているんだよ……」
マヨラは腕を組み、深く息を吐いた。
「……生きていた時に、誰か一輪でも花を贈ったか? 笑わせようとしたか?」
男は黙り込んだ。マヨラはその男を見つめる。マヨラが何を言いたいのか、男には伝わっていた。
「さんは言っていたんだ。……もし君が何度も自分を真っ先に立て直そうとするなら、それは自分勝手なんかじゃない。それは、次に倒れるのが自分だと分かっているからだ、とね」




