パート19
— Optional Human (選ばれし人間)
「マヨラ・ジカシ……法を軽んじ、自ら裁きを下したことで、お前は自分自身の人生だけでなく、姉の人生までも犠牲にしたのだ」
裁判長が判決を下していく。マヨラはただ立っていた。彼の中にはもう、怒りも喜びも、誰かに寄り添ってほしいという期待も残っていなかった。
「正義の観点から言えば、両者とも過ちを犯した。クローチとその仲間たちの所業は、あまりにも重い罪だ……。そしてマヨラ、お前もまた、道を踏み外した。お前が望むような言い訳など存在しないが、慣習に従い、両者に最後の一言を許す……」
遺族を代表し、クローチの母親が前に出た。彼女はマヨラを指差し、罵声を浴びせながら罪をなじった。裁判所は発言を許したが、指を差すことや声を荒らげることは厳しく禁じた。裁判長は彼女の言葉を記録し、そしてマヨラの番が来た……。
「ジカシ、弁明があれば聞き届けよう。お前の最後の言葉を……」
一瞬、シンがマヨラの方を見た。だが、マヨラは項垂れたまま、顔を上げることはなかった。誰もが、マヨラが何を語り出すのかと息を呑んで待っていた。
「……水を一杯、頂けますか」
その場にいた全員が耳を疑った。弁護士も傍聴人も、衝撃に包まれた。法廷という場所で、裁きや許しではなく「水」を求めた者など、前代未聞だったからだ。
水が運ばれてきた。シンの視線も含め、すべての目がマヨラに注がれる。後方に座っていたタガヤ氏だけが、微かに口角を上げた。
「俺が全員殺した。外から銃を持ち込み、すべて俺がやった……」
積み上げられた弁護書類も、捜査記録も、その一言ですべてが空虚なものとなった。裁判長は眼鏡を外し、ペンを置いた。マヨラは静かに言葉を継いだ。
「もう……何も聞きたくないし、何も言うことはない」
マヨラの最後の望みは聞き入れられた。審理は引き延ばされることなく、彼に刑が言い渡された。
皆の視線が刺さる中、マヨラは連行されていく。シンの傍を通り過ぎる瞬間、彼女の微かな啜り泣きが聞こえ、マヨラは一瞬だけ足を止めた。だが、背後から突き飛ばされるように促され、彼は護送車へと押し込まれた。
— The Hazy Expectation (霞む期待)
護送車が刑務所へと向かっていた。だが、あるカーブに差し掛かった時、数台の黒塗りの車が道を塞いでいた。
「報告します……マヨラ・ジカシはこの車両に」
警官たちはマヨラの身柄を「彼ら」に引き渡し、護送車は走り去った。マヨラは黒い車の中へと移される。
頭に被せられていた布が剥ぎ取られた。突き刺さるような強い光に、マヨラの目は赤く染まる。彼は汚れ果てた自分の服を眺め、静かに土を払った。隣に目を向けると、ゴラリ・エージェンシー(Gorari Agency)のタガヤが、煙草を燻らせながら座っていた。
「急げ、本物の警官が来る前にな……」
車が加速する。
「傷ついているからこそ、お前は致命的だ……ジカシ」
タガヤはそう告げた。車はそのままエージェンシーの深部へと滑り込む。そこでマヨラに組織の全容が語られた。
その日から、マヨラ・ジカシは東京エージェンシーの「メインリード」となり、タガヤはその背後で糸を引く指揮官となった。




