近づくもの
アヤカの気持ちは少し弾んでいた。
アカを狙うノライは一つだけになったらしい。
メアリの家の両隣で巣くっていた二つのノライは、それぞれ住み処にしていた家と共に燃えてしまったようだ。その理由はアヤカにはわからないが、とにかくアカを見つけて取り込もうとしているのはメアリのところにいるものだけになった。
──アヤカ。
「なあに、アカ」
夜、澄み切った星空を部屋の窓辺から見上げているアヤカは自分の胸元から呼ばれて返事をした。
──二つのノライが燃えたのは、それぞれの空き家が放火されたのでも自然発火したわけでもないの。
「えっ、どういうこと」
──おそらく、権力争いのようなのに負けたからだと思う。地球上の生物にもあるでしょう。例えば猿山のボスを決めるような行動。
「つまり、燃えた二つはメアリのところにいるノライと、何らかの闘いをして負けたから自らを燃やしたってことなの?」
──メアリのところのノライが、両隣のノライのあの太く巨大な白い根の水分を一気に吸い取って、二つとも干からびてしまった。その時抵抗をして暴れることで、やられたノライが高温になる。そして干からびた根が熱を帯びて発火する。その炎は乾いた根を伝って大元の蕾を焼き尽くす。そのせいで家が燃えたの。
「なんか、すっきりしない話だわ。だってアカだって、今は乾燥してこんなに小さくなっている。でも、決して炎が上がったり、私が火傷をするような熱は全くないよ」
アヤカは胸元の巾着袋をそっと握る。
──私は時間をかけて自主的に脱水したの。そして暴れることもしない。それにオスとメスでは体の状態に違いがあるんだと思う。
「そういえば、人間の女の人は冷え性よ」
──それとノライの体質は関係ない。
「そ、そうよね。それは別の話よね」
──私が気にしているのは、メアリのところのノライの根はどれだけ巨大化して強靱になっているのか想像がつかないこと。もう、すぐ近くまで伸びていいるかも知れない。最近、時々なんだけど何かの気配を感じる。
「メアリさんのノライが近づいているかも知れないの?」
──わからない。そこまで嫌な感じはしないんだけど。何かが近づいている。
アカの返事に、アヤカはこのまま居心地のいいこの場所に居続けていいのだろうかと考えるのであった。




