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つぼみ ──ノライ──  作者: モリサキ日トミ


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30/33

久しぶりに話すもの

冬の乾いた空気の中、火はあっという間に木造の家屋を灰にした。

翌日、メアリの家の両隣はどちらも空き家なので放火の可能性があるということで調査が入った。

「うっ、何だ、この臭い」

調査員が、焼け落ちた元は家だった部分に足を踏み入れると顔をしかめた。

様々な火災現場で調査に入ったが、初めて嗅ぐ臭いだった。

焦げた臭いはもちろんするが、それ以上に鉄のような血液の臭い、そして腐敗臭が漂っていた。こういった現場で生臭さを感じたのは初めてだったのだ。

奥に進むほどこの臭いが強く濃くなる。

浴室だったと思われるところに、コールタールのような黒くぐちゃぐちゃどろりとしたものが溜まっていた。

調査員はとりあえずその一部を採取した。

この状況はメアリの家を挟んでもう一軒の焼け落ちた家も同じで、そこの奥で発見された黒いどろりとしたものを採った。

そして、メアリの家は火の上がった両隣に面していた壁が煤けて黒くなっただけで、放水の水は被ったが奇跡的に大した被害はなかった。家主のメアリも外出中だったため無傷だった。

調査員たちが引き揚げた後、我が家に帰ってきたメアリは奥へと進み浴室のドアを開けた。

「根を家中に伸ばさなくて命拾いしたわね。あなたの仲間、いやメスを巡るライバルかしら、とにかくオスのノライがあなただけになってラッキーでしょう。きっと両隣は家の中に収まりきらなくなって僅かな隙間から外に乾いた根の先を伸ばしたんでしょうね。誰かが面白がってそれに火を着けた。そんなところね。あなたのライバルたちは黒くどろどろになって息絶えたわよ」

そして浴室のドアを閉めると

「あなた火にも弱かったのね」

なぁーんだ、メアリは笑みを浮かべた。

彼女は誰かが外から火を放ち、家中に伸ばし巡らした根が燃えたことで大きな火事になったと思ったようだ。

浴室の蕾はそんなメアリを嘲笑うように、ボウッと紫に光った。



「ねえ、アカ。今日のあなたは機嫌がいいみたい。どうしたの」

アヤカが、窓の外から見える午前中の太陽に照らされてキラキラ瞬く海の美しさにうっとりしながら話しかけた。

──二つのノライが死んだ。

久しぶりにアカの言葉が聞けた。

しかも想像もしていなかった言葉だ。

「そうなの!」

思わずアヤカが大声を上げる。

その声に可南子が様子を見に来た。

「アヤカちゃん、どうしたの」

「何でもないです。びっくりさせてしまってごめんなさい」

慌てて謝り、可南子は

「ならいいわ」

と言って部屋を出ていった。

──二つのノライは焼け死んだ。

「それじゃあと一つね」

──それにはメアリがついている。そのノライはとても厄介だよ。

「ねえ、彼女の両隣のノライは、どうやって焼け死んだの?」

──それは、恐らく……。

その時、階段下から可南子がアヤカを呼んだ。

「はーい」

アヤカは久しぶりに話してくれたアカと、もう少しここで海を眺めていたかったが、服の中に小さな巾着袋をしまって部屋を出た。

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