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つぼみ ──ノライ──  作者: モリサキ日トミ


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29/33

安寧を感じるもの

スーパーのバックヤードに連れて行かれた万引き男が事務所で店長と警察官からの事情聴取後に連行される時、店員がクレームですと手にしていた小松菜の白い根を見て、悲鳴と共に彼は気絶した。

「おい、どうした」

警察官が声をかける。

「ね…」

「何だ」

「根っこ…」

微かに目を開いた男が震える指で店員の持っている小松菜を差した。

「小松菜がどうしたって言うんだ」

警察官が男を起こして立ち上がらせようとするが、彼は腰が抜けて動けなかった。

そうこうしていると

「彼がこちらにご迷惑をおかけして申し訳ございません」

女が案内されて事務所に入ってきた。

万引き犯の唯一の知り合いらしく、店から連絡をもらって駆けつけたのだった。

「言い訳にしかなりませんが、彼は最近、隣の県の山に登ってその時に奇妙なものを見てしまったらしいんです。それから様子がおかしくなって…」

「奇妙なもの?」

店長が問う。

女は頷き

「はい。それは山の脇を流れる沢から突然現れた大きな白い根だと彼は震えながら言っていました。そしてその根が彼の目の前にいた人を絡め取り水の中に引きずり込んだと」

万引き男のおかしな言動を説明した。

「それとライターの万引きは関係ないと思いますが」

店長は突き放すように言った。

「もちろん、万引きは許されません。ただ、これもいけないことなのですが、その時彼だけが煙草を吸っていたそうです。そして彼だけが白い根に絡め取られなかった。きっと火を嫌ったんだと」

女の話を最後まで聞いていたが

「そうですか。それで炎が出るライターを万引きしたと」

店長の目は冷たかった。

そして男は警察官に連行され、女は事務所の中に一礼して事務所を出て行った。

事務所で一人になった店長は

「もっと上手い嘘をつけよ」

と言い捨てた。



買い出しを終え民宿に戻った可南子とアヤカは、買った物を二人で手分けして冷蔵庫や戸棚にしまった。

「可南子さん、ここの水は水道なんですか?」

アヤカの問いに

「そう。田舎なんだけど、この辺は井戸として使える水脈が無くてね。海水はいっぱいあるのにね。だから上下水道は整備されて通っているわ」

可南子がガスはプロパンだけどねと言った。

水脈が無くて水道だと聞いて、アヤカは少しホッとした。ただ、あの巨大な根なら地下の水道管を破壊して侵入する可能性もある。

胸元のアカは相変わらず沈黙を守っている。オスのノライの気配を感じないので何も言わないのか、それとも何か思うところがあって沈黙しているのかアヤカにはわからなかった。

夜、権三と可南子と三人で食卓を囲みアヤカはすっかり熱川家の家族同然に食事を楽しんだ。無口な権三にお喋りな可南子、それにアヤカは笑ったり突っ込んだりで彼女はずっとこうやって過ごせたらどんなに幸せだろうと思った。

食器の片づけを手伝い、入浴を済ませて部屋に戻ったアヤカは窓を開けて少し先にある海を見つめた。風はないが、空気はとても冷たい。窓を閉めてカーテンを引くと布団に入った。胸元の小さな巾着袋を両手でそっと包む。

「アカ」

呼びかけたが返事がない。

「私が可南子さんたちと仲良くなるのは嫌だよね」

やはりにアカは何も発しない。

アヤカは小さく息を吐き静かに瞼を閉じた。



時を同じくしてメアリの家の両隣から火の手が上がった。

冬の乾燥した空気は瞬く間に炎を大きくさせた。誰かが通報して消防車が到着した頃には建物が焼け落ちて手の施しようがなく、放水は延焼していたメアリの家に向けるしかなかった。

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