040 僕、異世界スポーツを流行らそうとする
「アイルちゃん。前に魔族ではスポーツが流行ってないって言ってたじゃん?」
「はい。そうですね」
「やっぱさ、僕は魔族でも流行らせたいんだよね」
「と、言いますと?」
「この国もさ、亜人を受け入れ始めて人口も増えて来たし、多様になって来たと思うんだ。だから、職業もより多様になるべきだし、エンターテイメントも多様になる必要があると思うんだよね」
「……、なるほど」
「僕が転生する前の世界でももちろん軍はあったよ。軍の人は一般人に比べたら遥かに高い身体能力と強さを持ってたと思う。一方で、スポーツ選手はその分野に特化していて、そのスポーツにおいては軍の人よりも強いんだよ」
「……、つまり?」
「戦いには向かなくても凄いポテンシャルを持っている人は絶対いると思うんだ」
「……、それはそうだと思います」
「僕は手始めに食文化をよくしようとした。その次に将棋を作った。これはどっちも戦いとは違う分野。でも、みんながこの分野で活躍できるわけじゃない。体を動かすのが好きでも戦いはって人もきっといっぱいいると思う」
「ですが、以前も申しました通り、ただの身体能力を競うだけでは、魔法に重きを置く魔族では流行らないのです」
「だから、魔法も使えるようなルールのスポーツを作ればいいんだよ」
「っ!!!」
生前に世界的に大ヒットしていた某魔法使いの物語でも、魔法を使ったスポーツが出て来てたしね。ただ、この世界では飛行魔法は一般的じゃないからそのままってわけには行かないけどね。
「だからさ、一緒に考えよう」
僕は、真っ先に思いついたのがテニスだった。ネットを挟んでいるから対人じゃないのも考えやすい。ボールを打つときにボールに魔法を使うのは有り。単純に身体強化も有り。
うん。いいんじゃないかな。ただ、某テニス漫画がさらにすごくなるような状態になりそうだと、1人で苦笑いしてしまった。
「早速やってみよう」
僕はコウとサンにやらせてみることにした。
ボールとラケットは僕が作った特別製。大抵の力には耐えられるはず。
コウのサーブから始まった。コウはフレイムバードの魔物が人化しているわけで、火魔法が得意だ。
凄まじい速さのサーブが炎を纏って相手のコートに突き刺さった。
そう、文字通り突き刺さったのだ。
「……、しまった。コートは強化してなかった」
それにボールが速すぎて、一般の人には絶対に見えない。これじゃ、エンターテイメントとして成り立たないよ。
だから、小さいボールの競技はボールが速すぎるからダメだね。だから野球はダメだ。
大きなボールを使うとすると、サッカーかラグビーか。どっちもバチバチに接触がある競技だけど大丈夫かな。
ひとまずサッカーを試してみる事にした。
魔法は身体強化とボールに対してのみ。これでもシュートがキャノン砲みたいになりそうだけど。
僕は、3執事と新加入のドラゴニュート、オーガ、オークを読んで11対11でやらせてみた。
今回はコートもバッチリ強化済み。
案の定、シュートがエゲツない。
デフェンダーのキーパーも吹っ飛んでいる。稲妻なんとかもビックリだよ。
「あ、やっぱダメかな」
ここでキーパーがオークに変わった。
オークにドラゴニュートのドラゴンシュートが突き刺さっ、
らない!!!
「お〜、止めた!!!」
なんか競技が違う気もするけど、ルールを守ってもらえば何とか出来そうだ。
そこで、軍に入っていないドラゴニュートとオーガ、オークから4チーム分、控えも含めて80人をスカウトした。
僕と3執事がそれぞれ監督を務める事にした。
そして僕は1か月程、みんなに練習させた。
そして、特に広報もしてなかったのに、試合当日は超満員になっていた。アイルちゃんが手を回したのかテレビも生放送するみたい。
「コウ、今日は勝てせてもらうよ」
「主様、いくら主様とはいえ勝つのは私のチームです」
「望むところだよ」
僕は、センターフォワードにポストプレーをしてもらうようにガタイのいいオーガ、左右のウイングにスピードのあるドラゴニュート。
中盤はオーガとドラゴニュート、アンカー(ボランチ)にオークを置いた。実はこのオークが1番ボールの扱いが上手かった。
センターフォワードはこれもガタイのいいオーガ、サイドバックはスピードのあるドラゴニュート。
そして、キーパーはオークだ。
うん、完璧だよね。
そしてホイッスルが鳴った。
コウのチームのボールからスタートした。
慎重にボールを回しているけど、地球では考えられない程早いパス回し。
ふふふ、甘いよ。どうせ最後は力任せのシュートだろ。それではうちのトータルフットボールは崩せないよ。
開幕からミドルシュートを打ってきた。速い。
でもそれじゃうちのキーパーは簡単に止めるよ。
『ゴ〜〜〜〜ル!!!!!』
実況が高々とゴールを宣言した。
「嘘でしょ!?」
余裕と思ってしっかり見てなかった。僕はリプレイを見る。
シュートはゴールの上隅に見事にコントロールされていた。
「あ、これはオークじゃムリだ。でも、うちにキーパーはオークしかいないんだよな」
結局、25-5というおよそサッカーとは思えないスコアで敗北した。
この日はトーナメントになっいて、次の試合の勝者とコウのチームが戦う事になっている。
結果は、シュンのチームが優勝した。ストームタイガーであるシュンが教えた雷魔法を応用した身体強化魔法のスピードに誰も付いていけなかった。
でも、催しとしては大成功と言っていいと思う。
いつしか、サッカー選手を夢見る少年が現れてくれたらいいな。
次の日、コウが昨日のサッカー大会が新聞に乗っていたと新聞を持ってきてくれた。
『魔王様発案の新パフォーマンスイベント大成功!!!』という見出しが踊っていた。
「いや、パフォーマンスじゃねぇよ!!!」
「主様、恐らく、出場選手のレベルが高過ぎた為に、一般の市民も行えるスポーツだとは認識されなかったのかと」
「え〜!? 嘘でしょ!?」
僕はガックリとうな垂れた。
コンコン
「失礼します」
アイルちゃんが入ってきた。
「魔王様、昨日のイベントは大好評です。またあのパフォーマンスを見たいという声が多数寄せられています」
「だからパフォーマンスじゃないよっ!!!」
「???」
アイルちゃんは首を傾げている。
ダメだ。次はちゃんと広報してからやろう。
「おもしろかった!」、「続きが気になる!」という方は、
下の☆☆☆☆☆を★★★★★に変えて行ってください。
おもしろくなかったという方は、★☆☆☆☆でお願いします。
ブックマークや感想もお待ちしています。
非常に励みになりますので、よろしくお願いいたします。