039 僕、異世界将棋を作る
「コウ、そう言えばこの世界って、トランプはあるけどボードゲームがないよね」
「ボードゲーム、ですか。それは一体どういったものなのでしょう?」
「例えばスゴロクっていうのがあるんだけど、スタートからゴールまでマスがあって、サイコロの目の分マスに駒を進めて、最初にゴールしたら勝ち。ただし、マスには何マス戻るとか、1回休み、とか逆に何マス進む、続けてもう1回振るとか指示が書いてある。みたいな感じ」
「単純ですが、面白そうですね」
「他には、よく元の世界の転生系の小説によく出て来てたのは、オセロかな」
「それはどういったもので?」
「これはもっと単純だよ。これは2人用何だけど、表が白で裏が黒の駒を使う。それぞれ、黒に別れて、相手の色を自分の色で挟んだら、ひっくり返して自分の色に出来る。最終的に自分の色が多い方の勝ち」
「なるほど、単純ですが奥が深そうですね」
「あとは、将棋とかチェスかな」
「それらは?」
「う〜ん、将棋やチェスは簡単には説明しづらいから、1回作ってみよっか」
「よろしいのですか?」
「いいよ。じゃあ、駒に文字書くだけだし将棋を作ろう」
僕は、自分で作ってもよかったんだけど、せっかくだしドワーフの親方に作ってもらおうと工房まで転移した。
「親方〜」
「お、魔王様。本日はどうされました。流石にまだ携帯電話の改良は進んでいませんぜ」
「いや、今日は別の物を作ってほしくて」
「ほう」
親方は僕が何を作るか言う前に、もう興味津々といった感じだ。
「将棋っていうんだけどさ」
僕は将棋について説明しだした。
「なるほど、そいつは面白そうですな。ヒト族にあるチェスに似てますな」
「あ、チェスはあるんだ」
欧米出身の召喚者が広めたのかな?
「まあ、元の世界でもルーツは同じみたい何だけどね。僕の国では将棋の方がメジャーだったかな」
「よっしゃ。いっちょ作ってみますか。盤と駒、それも文字を書くだけでいいならすぐですわ。こ1時間で終わらせますよ」
「ほんと? じゃあ待たせてもらうね」
僕は、工房の端っこでお弟子さんに淹れてもらったコーヒーを飲みながら待つことにした。
カーン、カーン。ギギギギギッ。とどこからともなく金属を叩く音や削る音がこだましている。
30分程だろうか。親方がやって来た。
「出来ましたぜ」
「もう!?」
「バッチリでさあ」
そう言う親方に連れられて親方の作業台に案内される。
そこには間違いなく将棋盤と駒があった。
総ミスリル製の。
「親方、気合い入れすぎだよ!?」
「そりゃ、魔王様への献上の品ですぜ。手は抜けません」
親方の職人気質が爆発していた。
「うん。そうだよね。でもまだ試作だからさ、次からはそこまで気合い入れるのは完成品だけでいいからね」
「そうなんですかい? わかりやした」
「でも、惚れ惚れするほどいい出来だよ」
「ありがとうございます。儂に掛かればこんなもんでさあ」
「じゃあ、親方。1局やってみようよ」
「儂がお相手してよろしいんで?」
「もちろん」
「では、お相手いたしますわ」
この1局はだいぶ白熱した。生前は知識として知っていても指してくれる相手がいなかったから、ゲームで何度かやったことあるレベルの僕は、まったくの初心者の親方と低いレベルで拮抗していた。
「親方、王手!」
「うわっ、しまった。……、参りました」
「いや〜楽しかったね。それで、やってみて気付いたことってある?」
「……、そうですね。1つはこの文字ですが、儂は自分で作ったので理解出来ますが、見たことがありませんからね。広める上では不都合だと思いますぜ」
「そっか、そういえばそうだよね」
そりゃそうだ。この世界に漢字ないもんね。
「あとは、裏にある龍ですがね、どうしても邪竜様を想像してしまいますんでね。戦場を模したゲームに邪竜様が登場すると言うのは特に魔族には受け入れにくい部分もあるんじゃないかと思いますぜ」
「なるほど」
やっぱ、地球の物をそのまま持って来てもダメだよね。
「じゃあ、文字じゃなくて絵にしたらどう?」
「それはいいですな。絵なら、その出来で価格を分ける事も出来ます」
「お、いいね!」
「では、それぞれの駒の役割を考えましょうや」
僕と親方は将棋の駒を異世界に合わせた役割を考え始めた。
「出来た。いいね」
「バッチリですぜ」
僕達は以下のように役割を変えた。
歩 →歩兵
香車→斥候
桂馬→魔術師
銀 →騎士
金 →近衛兵
飛車→隊長
角 →副長
王将→魔王
駒が裏返った場合
歩兵(歩) →英雄
斥候(香車) →暗殺者
魔術師(桂馬)→賢者
騎士(銀) →聖騎士
近衛兵(金) →無し
隊長(飛車) →大魔将軍
副長(角) →副魔将軍
魔王(王将) →無し
基本的な駒の動き方は将棋と同じにした。
しかし、これでは魔王が弱すぎると言う事で、1度だけ、大魔将軍+副魔将軍の動きが出来ることにした。
うん。いい感じだよね。
早速、僕用に1つ作ってもらうことにした。すると、
「今度こそ完成品ですんで、少し時間をくだせえ。絵も考える必要がありますんで。明日、いや明後日もう1度来てもらえますかい?」
「オッケー。よろしくね」
「任せてくだせえ」
僕は転移で執務室に戻った。
「ただいま。将棋なんだけど、ちょっとこっちの世界用に改良して、今親方に作ってもらってるよ。明後日には出来るからね」
「は。楽しみです」
2日後
「親方〜。出来てる〜?」
「バッチリですぜ!」
早速見せてもらった。
「お〜。カッコイイ!」
盤はミスリルにマス目が彫ってあり、彫り込みには金でコーティングが施されている。駒もミスリルで、日本の中世の絵画のような絵が彫り込んである。裏返すと同じようなタッチの絵が彫ってあり、こっちは金でコーティングされていた。
「すごいよ! 親方! バッチリだよ!」
「お褒めいただいて光栄ですぜ!」
親方はニヤリと笑った。
「それで、いくらになるの?」
「白金貨5枚って所ですな」
「オッケー」
日本円で5千万。でも、この出来ならそんなもんだろうと思う。一応、王様への品だしね。
僕はその場で支払おうとした。
「いや、これは魔王様への献上品ですんで、お代は結構ですぜ。」
「え? いいの?」
親方はまたニヤリと笑った。
「魔王様はこれを今後流行らせるつもりなんでしょう?」
「うん。そうだけど?」
「でしたらこっちも見てくだせえ」
そう言って親方はもう1つ将棋盤と駒を取り出した。
こっちは盤も駒も木製で、金のコーティングじゃなく黒のインク、裏は赤のインクで出来ていた。絵もかなりデフォルメされていて、子供でも真似して描けそうな感じだ。
「これは、一般に売り出す用に作ったものでさあ」
「親方!? 仕事が早すぎない!?」
「これは大銀貨1枚程度と考えてまさあ。この後、小金貨1枚、大金貨1枚の物も作るつもりでさあ。お金持ちやお貴族様にはこっちを買ってもらうってわけですわ」
「つまり」
「魔王様が流行らせてくれれば、儂らはガッポガポですわ」
うわ〜、商魂たくましい〜。
「ドワーフ屋、おぬしも悪よの〜」
「いえいえ、魔王様ほどでは」
「「がっはっはっはっは」」
「じゃあ、大金貨1枚の物を10個くらい作ってもらえる。こっちは支払うからさ。まずは魔族の上層部に流行らせるよ。やっぱ権威のある人が認めてる物って市民も欲しがるじゃん」
「魔王様は商売がお上手ですな」
「「がっはっはっはっは」」
この日はミスリル製を受け取って、執務室に戻った。
「ただいま〜。コウもらって来たよ〜」
「む。これは凄いですね。お高かったのでは?」
「親方がただにしてくれたけど、白金貨5枚だって」
「随分と太っ腹ですね」
「今後流行らして流通する分で儲けるらしいよ」
「なるほど。それで、これはどういったゲームなのですか」
僕はルールを説明して、早速やってみた。
結果、コウだけでなくシュンもサンもどハマりした。
「コウ。お茶が欲しいんだけど」
「主様、申し訳ありませんが、今手が離せません。しばらくお待ちください」
「あ、はい」
ハマりすぎだよ! 今までは僕が言わなくても察して紅茶を出してくれてたのに。
「じゃあ、僕はちょっと早いけど親方にアイルちゃん達に配る分を受け取って来るね」
「いってらっしゃいませ」
せめてこっち見て言えよ。
僕は親方から受け取ると早速アイルちゃんに持っていった。10セットまとめて渡して、残りを誰に配るかはアイルちゃんに任せた。
僕は仕事をサボってゲームを作っていたことをチクチク言われるのが嫌だったから、ルールだけ説明してとっとと執務室に戻って来た。
執務室に戻るとコウが珍しく不機嫌を顔に表していた。
あ、負けたな。
今はシュンとサンが遊んでて、コウが手が空いてるから紅茶を淹れてもらってティータイムを堪能していた。
コンコン
「え? アイルちゃん? 今日は会議ないよね? それともサボってた分の仕事をまとめて持って来たのかな?」
僕が勝手に焦っていると、アイルちゃんがかなり慌てた様子で入って来た。しかも、手には将棋盤を持っている。
「魔王様!」
「は、はいぃ」
「これは凄いです! 画期的です!」
「……」
「すぐに流行らせるべきです!」
「あ、はい」
ちょっと、この勢いは怖いんだけど。
「魔王様はサボられてばかりと思っていましたが、たまには良い事を行うのですね」
……、おい。
「これはどの程度の用意が出来ているのですか?」
「親方が一般用の大銀貨1枚のものと、それよりグレードが高い小金貨1枚のものと、最上級の大金貨1枚のもの、あ、これはアイルちゃん達にあげたヤツね。それをそれぞれ作ってもらってるけど、今の時点でいくつあるかはわかんないよ」
「では、私が行って話をして来ます!」
「……、どうぞ」
「では行って来ます!」
「……」
この後、アイルちゃんは親方に大量生産の約束を取り付けただけでなく、自らテレビ番組に出たり、雑誌に特集を組ませたりして大々的に売り出した。
結果、僕と親方の予想をはるかに超える勢いで大ヒットした。しかも、売り出す時に勝手に『魔王将棋』と名付けていた。
さらに、気付くとアイルちゃんは魔王将棋プロ連盟なる組織を作って、自ら会長に就任していた。スポンサーも随分付いているらしく、来月からプロリーグも開幕するらしい。
アイルちゃん何やってんの? 鬼のように忙しいはず何だけど。
さらにこの年の子供が憧れる職業ランキングの1位は魔王将棋のプロ棋士になった。
「……」
いいんだけど、いや、いいんだけどさあ。魔族大丈夫かなあ?
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