ラグーン地方へ
モラン領でお茶を飲みながら、クーパー氏にラグーン地方について質問する。
「領地は接していますが、ウッドストック伯爵家とは交流が無いので、情報は少ないです」
どうやら、領都は山沿いのラグーン地方とは違い海に近い場所にあるから、モラン領を通る事も無かったみたい。
やはり、ノースコートで休憩するのか、それとも貴族主義者の知り合いの領地で休憩して領地に行くのかもね。何となく、ホッとする。
「ただ、街道の整備も怠っているのは事実です。自分の領都から離れているから、手を抜いているのでしょうが、北部へ向かう貴族達も多く利用する街道なのに!」
うっ、それは早々に整備しなくてはいけない!
「ラグーン川はどうだろう? 下流はうちの寄子であるガードナー男爵領に流れていると思うのだが……管理されていないのだな!」
パーシバルは、ライナー川の浚渫工事を見ていたからね。肩を竦めるクーパー氏の態度で、酷い実情を察した。
温泉が湧き出しているのだから、それは何処かに流れるのは当たり前だ。その川の管理もしていないのは、本当に困るよ。
「ガードナー男爵領は、ちゃんとラグーン川の管理をされていますから、今のところは洪水被害も出ていませんが、これも早急に手を打たないといけません」
視察に行く前から、あれこれ問題点が浮かび上がる。若いガードナー男爵だけど、ちゃんと治水管理をしていて良かったよ。
「子爵領にも支流があったと思うが?」
「そちらもマイセン子爵がちゃんと管理されています。それに支流なので」
マイセン子爵領には、良い港があるんだよね。この前の婚約パーティには、王都に住んでいる子息夫妻が出席してくれていた。
「ペイシェンス、本当にやめておいた方が良いかもしれません。街道の整備、川の管理すらできていないのですから」
それは、ハープシャーもグレンジャーも同じだったけど、十数年、何十年も領主がいないで放置されていたからだ。
ウッドストック伯爵って、ラグーン地方を手放したの一年前だよね? つまり、領地だった頃から、何もしていなかったの?
「こんな貴族主義者ばかりではないと考えたいです!」
パーシバルは、怒りを抑えきれないと拳を握り込んでいる。
「パーシー様、それでも温泉は魅力的ですわ。それを生かさない方には豚に真珠ですけどね!」
ウッドストック伯爵が豚に似ている訳ではないと思う。キャサリンも顔は良いからね。根性は腐っているけどさ。
「パティ! やはり大好きです!」
クーパー氏がいなかったら、メアリーの監視がないからいちゃいちゃできるのに!
まぁ、カミュ先生が代わりに付き添っているから、真面目に視察の話を続けるよ。
「ラグーン地方を巡回管理されているのは、前にハープシャーやグレンジャーを管理されていたグレアム・カルディ様です」
カルディ氏は、もうモラン館に着いているけど、一応、お父様と一緒に視察する予定なので、馬車が着くまで待機して貰っている。
「早めのお昼を食べてから視察に向かった方が良いかもしれません。カルディ氏なら、色々と情報も持っているでしょうから」
そうなんだよね。気が焦っているけど、ラグーン地方を領地にする必要は無いんだ! と自分に言い聞かせる。
「ペイシェンス、少し休んだ方がいいでしょう。私は、クーパーから領地について報告を受けるから」
パーシバルも私の体力の無さを心配してくれている。
カミュ先生に付き添われて、用意されている客間で少し横になる。
「やはり、乗馬は苦手ですわ。カミュ先生は、ヘンリーの側にいて下さい。私は少し休みます」
気が急いて、馬の王で来たけど、結果疲れてしまった。自分の体力の無さが不甲斐ない! もっと考えて行動しなくては!
真剣に魔素を取り込む体操を続けよう……なんて思っているうちに寝てしまったみたい。
「お嬢様、起きて下さい」
メアリーに起こされた。馬車がついたみたい。
「寝過ぎたかしら?」と不安になったけど、まだ早いランチの時間にもなっていないと言われて、ホッとする。
「お顔を洗って下さい」
洗面器のお湯で顔を洗い、メアリーに手早く乗馬服からドレスに着替えさせられる。
「婚約者のパーシバル様がいらっしゃるのに、乗馬服のまま昼食を召し上がるつもりだったのですか?」
視察の途中だから、良いじゃん! なんて言わないよ。お説教されるより着替えた方が早い。
馬の王に乗るから、しっかりとした編み込みにしていたけど、ドレスにあった髪型に整えて貰う。
顔を洗い、着替えて、髪の毛も編み込み多めに結い上げて貰うと気分が一新したよ。
モラン館に二泊する予定なので、メアリーは荷物を解いている。
私は、下に降りてお父様とパーシバルとカルディ氏と話し合う。
ランチは、ヘンリーとカミュ先生も一緒に食べるつもり。
応接室には、パーシバル、お父様、クーパー氏、カルディ氏がいた。そして、予定に無かったけど、モンテス氏も!
「視察には、モンテス氏も同行された方が良いと思ったのだ」
モンテス氏は、ハープシャーで用事を済ませて、こちらに合流してくれたみたい。
「そうですわね! パーシバル様、ありがとうございます」
私も、王家の管理人のカルディ氏がいるので他所行きの顔だ。
「ハープシャー伯爵、陞爵おめでとうございます。それに、ハープシャーもグレンジャーも素晴らしい領地になりましたね!」
まだまだ領都しか開発できていないから、カルディ氏の褒め言葉が辛い。
「ライナー川の氾濫を心配しなくて良いのは、ありがたいです!」
パーシバルがラグーン地方の件について話を変えてくれた。
「ラグーン地方は……」と一旦、言葉を切って深呼吸する。怒りをおさめようとしているみたい。
「先ずは、川の浚渫工事をしなくてはいけません。それと北部に続く街道も! 魔物の討伐も急がないと、被害が出そうです!」
ふぅ、温泉どころではなさそう。パーシバルは、魔物の討伐も怠っていたのか! と怒り心頭みたい。
「パーシバル様、まだ領地にすると決めていませんわ」と言うけど、ではどうなるのか不安。
「ここら辺は、第五騎士団の守備範囲にギリギリですから、陛下に進言して討伐して貰う事もできますが……今年は、北部から魔物が流れ込んでいますから、後回しにされるかも……」
王都を護るのが第一騎士団。王都周辺が第二騎士団。今は、この二つの騎士団はシュヴァルツヴァルトで魔物討伐を続けている。
第三騎士団は、東部。第四騎士団が西部。第五騎士団が北部。第六騎士団がノースコートで海を中心に護っていると習ったけど……ラグーン地方って北部なの?
北部ってバーンズ公爵領やプリースト侯爵領辺りだと思う。
「第五騎士団もデーン王国から魔物が南下しているから、こちらまでは……冒険者ギルドはどうですか?」
パーシバルの方が騎士コースで、この件は詳しい。
「冒険者ギルドには、討伐依頼を出しています」
そこは、巡回管理人のカルディ氏がちゃんとしてくれているみたいだと、ホッとしたけど、違った!
「ただ、ラグーンの冒険者のレベルは低いので、アルミラージぐらいしか討伐できません」
えっ、ルーシーやアイラが小物だと文句を言っていたアルミラージ?
「もしかして、いっぱい湧いているのですか?」
パーシバルが不審に思って質問する。
「確かに、今年の冬は魔物が多いそうですが……レベルが高い冒険者は、ウッドストック領に引き抜かれたのでしょう」
グググ、腹立つ! 王立学園を卒業していて良かったよ! 新学期に顔を合わせたら、キャサリンに喧嘩をふっかけそう。
魔物の件は、キャサリンのせいではない! と自分に言い聞かせて、深呼吸をする。
「それと、もう一件……話し難いのですが、孤児院が満杯です。ラグーンの司祭は、ハロルド・ダーシー様ですが……かなりお年を召しておられるので、王都に交代の司祭を頼まれた方が良いかもしれません」
パーシバルと顔を見合わせる。モンタギュー司教が喜んでスパイを送り込みそう!
「それは、領地に決めてから考えます。先ずは、視察してからですわ」
「その通りです!」
パーシバルがギュッと手を握ってくれた。




