ラグーン地方へ視察
グレンジャーホテルでゆっくりと過ごしたいけど、今回の目的はラグーン地方の視察だ。
夜は、やはりヘンリーは部屋でカミュ先生と食べた。ルッツがお世話をしてくれるし、食事はボーイが運んでくれる。
それをワイヤットがチェックしてくれた。チップを渡す遣り方とかも要相談だ。
これまで、グレンジャー家の使用人達は給金と服などの支給だけだったからね。
ホテルは、制服は貸与しているし、給金は支給するけど、服とかのご褒美は無いんだ。
これは、アダムとモンテス氏がバーンズ商会の給与システムとホテルの給与システムを調べたけど、どうするか悩んでいるみたい。
「ホテルの場合、チップをどうするのか? 客と接し易い仕事と裏の仕事がありますからね。私は、チップは箱に入れて、平等に分ける遣り方が良いと思うのですが……」
モンテス氏の意見も分かるよ!
「それは、その通りなのですが、サービス向上の為には、ボーイやメイドへのチップが励みになるのは確かですし……悩んでいます」
アダムは、サービス精神を叩き込むには、チップを与えた方が良いって考えみたい。
「パーシー様、どうお考えですか?」
パーシバルもホテルに泊まる事は無い。でも、私より外での食事の経験はあるから、チップを渡した事はある。
ただし、そのチップをどうしているのかは知らないみたい。
「私は、平等に与える方が良いと思うけど……チップを貰った人が不満に思わないのだろうか?」
チップ箱に入れずに誤魔化したりしたら、余計ややこしいかも。
「私は、サービス料を頂いて、チップは本当に何か特別なサービスの時だけにしたらどうかと思っているのですが、如何でしょう?」
前世で日本はチップ制などなかったから、外国旅行した時に面倒くさい! と思ったんだよね。勿論、日本でも格式の高い旅館とかで仲居さんに心付けを渡す場合もあるそうだけどさぁ。
「サービス料ですか? サザビーホテルはサービス料を取っていると聞きました! もっと詳しく調べてみます」
食事は、新鮮な海の幸が美味しかったけど……やはり、エバの料理に慣れているから、もう少し洗練された味にしたいと感じちゃう。
今は、エバはソニア王国へ派遣される料理人の指導をしているけど、私たちが王都に帰る頃には、終わっていると思う。
夕食のダイニング会場からは、掃き出し窓から庭が見えるようになっていて、魔導灯の灯が幻想的で美しかった。
寒い季節でなければ、パーシバルと散策したいよ。
「ダイニングに個室が必要かもしれませんわ」
今は、大きなダイニングに机が設置されているけど、プライベートな空間も良いんじゃないかな? 恋人と二人で食べるとか。
「衝立で仕切っても良いですが……折角の風景の邪魔になりませんか?」
今は、夜だけど……それでも浅いプールに篝火が揺れているのとか素敵だ。
「それは、もっとよく考えてみましょう」
サービスする給仕は、かなり緊張していた。ワイヤットみたいに、ゲームパイをお客様の前でスマートに切り分けるなんて、まだできそうにないよ。
私達が、ラグーン地方へ視察する間、ワイヤットはここに残って、給仕達の指導を手伝ってくれるそうだ。
お父様の側を離れる事ができるのも、ジョージを従者として信頼しているからだよね。
「ダイニングには、音楽も必要だわ。オルゴールとディスクを王都から運ばせます」
本当は、楽師を雇いたいけど、そこまでは無理。
でも、リゾートホテルなら『音楽の夕』とかダンスイベントとかも良いんじゃないかな?
夏場なら、テラス席でバーベキューも楽しそう!
次の日は、朝早くからモラン館へ移動して、昼をそこで食べてから、ラグーン地方の視察だ。
部屋に戻ったら、メアリーがいた。ドレスの後始末は任せる。明日は、朝早くから移動だからね。
「早くお休み下さい」と身体の弱いペイシェンスが心配みたい。
「ええ、明日はラグーン地方の視察ですもの」
どんな所なのか、期待と不安でなかなか寝付けない。
温泉は、ポイントが高い! ライナス卿の資料では、湯量もたっぷりあるし、源泉によって効能も違うみたい。
私的には、美人の湯が興味ある。これってアルカリ性で肌がツルツルになるんだよね!
温泉を飲むのは、あまりした事がなかったけど、胃腸に良いとか?
ただし、寂れているって報告が気になる。不潔な温泉は駄目だからね。
それと、炭酸水素塩泉(重曹泉)も出るんだよ! 炭酸水があれば、サイダーができる。レモンスカッシュ、飲みたいな。
重曹が領地で取れるなら、ふくらし粉も作れそう! 重曹って掃除にも使えるし、万能だよね。
「地熱で南国フルーツが栽培できると良いな……バナナも温室を作れば……」
夢の中で、ナシウスとヘンリーがバナナを取ろうと騒いでいた。
「気をつけてね!」と注意していた筈なのに、いつの間にかパーシバルとパイナップルの小さな実を見つけて笑っている。
「こんな風になるのですね!」
パイナップルって、本当に変な感じに実がなるよね! 二人で笑い合っているのに、ゲイツ様に邪魔された。
「新しいスイーツを! ドラゴンの肉で料理を!」と煩い。
折角、弟達とパーシバルと南国フルーツを食べているのに!
「人の恋路を邪魔するなんて!」と怒って目覚めた。
メアリーが目覚めの紅茶を運んできて、驚いている。
「そろそろ、ゲイツ様も帰国される頃だわ」と誤魔化したけどね。
ラグーン地方の視察を急ぐのは、王立学園が冬休みになったら、ソニア王国へ出発するからだ。
朝早くから、モラン館に向かう。私はヘンリーと馬の王に二人乗り。パーシバルは、金の鬣に乗って貰う。
エルビス卿とベリンダとカミュ先生、それと護衛の兵とサンダーとジニーが馬の先発組。
お父様とジョージ、メアリーとルッツは、馬車二台に分かれてモラン館に向かう。グレアムは、勿論、メアリーの乗った馬車の御者だ。
「モラン館にラグーンを管理している役人に来て貰っています」
それと、モラン伯爵領の管理人のアダムス・クーパー氏にも話を聞きたいので、馬で先発したんだ。
ハープシャーも気になるけど、休憩は短時間に済ませる。
お父様は、研修所の教授達と少し話をされたみたいだから、今夜、ゆっくりと聞きたいな。
「ペイシェンス、体力温存でいきましょう!」
パーシバルは、モラン館からは、馬車を勧めている。
「馬の王と金の鬣は、留守番してくれるかしら?」
視察なら、馬の方が機動性は高い。でも、体力は温存したい。
「今日は、馬車にします」明日は、明日考えよう!
ハープシャーから、ローラン卿が領兵を数人連れて合流した。
「ハープシャー伯爵、馬の王も素晴らしいですが、金の鬣も素晴らしいスレイプニルですね!」
奥様のベリンダよりも馬が好きだなんて公言するローラン卿、理解不能だ。でも、ベリンダが笑っているので良いのかな?
モラン館に着いた頃には、私は乗馬はもう十分な気分になっていた。
自分とヘンリーとパーシバル、そして馬の王と金の鬣に「綺麗になれ!」と掛けておく。
そうしないと、パーシバルに抱き下ろして貰っても、膝がガクガクしそうだったから。
モラン館で、ラグーン地方の管理人と顔合わせしてから、視察だけど、馬車が到着するまで待たなきゃね。
馬の王と金の鬣の世話は、サンダーとジニーに任せておこう。




