新作のチョコレートは?
シャーロット女官が、渡したチョコレートを銀の皿に飾って、王妃様、ベネッセ侯爵夫人、私の前にお茶と一緒に出す。
「ペイシェンス、これが新作のチョコレートですか?」
「ええ、マーガレット王女の花が可愛いと思いましたが……如何でしょう?」
一番目立つ、マーガレットの花のチョコレート。三人で摘む。
「まぁ、この黄色い部分は爽やかな酸味がとても良いわ! これを手土産にするのは、良いアイデアだと思いますが、モライヤ様はどう考えられますか?」
義理の姉上になるベネッセ侯爵夫人と王妃様は仲良しみたい。つい、若い頃の呼び名で話しかけた。
「ええ、ソニア王国の貴族にマーガレット王女を宣伝するのに、とても効果的ですわ! 可愛いし、美味しいですもの」
これは、増産決定だ! 頭にメモしよう。
「こちらは、婚約披露パーティー用のハートチョコレートです。ただ、少し甘いのです」
私は、ホワイトチョコレートも大好きだけど、お父様とか男性陣には、甘過ぎると不評なんだ。
「ええ、少し甘いですが……とても可愛いし、美味しいですわ!」
ベネッセ侯爵夫人は、私と同じ意見。
「確かに可愛いですが、殿方には甘過ぎるかもしれませんね」
王妃様には甘過ぎたみたい。
「ですから、殿方用にはブランデーチョコレートボンボンを用意しました」
こちらは大好評!
「王家の酒蔵から、上等なブランデーを届けます。これは、絶対に好評ですわ!」
ブランデーチョコレートボンボンに王家の紋章を付ける許可も得た。
「コインチョコレートは、マーガレットのお印とパリス王子のお印で良いでしょう。彼方の紋章を勝手に使うのは、遠慮しておいた方が良いと思いますわ」
さっと、シャーロット女官が渡してくれたパリス王子のお印は、雪だったけど、星にも見えるデザイン。
「ほほほほ……、エステナ聖皇国の血筋の星を思わせるお印ですわね」
トリュフチョコレートは、大絶賛だったけど、生クリームを沢山入れて日持ちがしないので、見送りになった。
「これは、国内だけで楽しみましょう」
「ほほほ、良い考えですわ」
王妃様とベネッセ侯爵夫人には、後でブランデーチョコレートボンボンと共にトリュフチョコレートの詰め合わせを贈るのを忘れないように頭にメモしておく。
そこからは、本格的にソニア王国での諸注意になった。
「基本的に、ベネッセ侯爵夫人の指示に従うのですよ。マーガレットにも言い聞かせておりますが、不注意に殿方と二人っきりになるのは厳禁です」
私もパーシバルと二人っきりになるのは駄目だとわかっているよ。でも、偶には良いじゃないの? と思ってしまう。
「特に、ソニア王国では気をつけて下さいね。ペイシェンスは、個人護衛を付き添わせるそうですから、同室に寝させても良いでしょう」
えっ、やはりドアの前で寝させるの? 貴族が宿に泊まる時は、従者に扉の前で寝させるのは常識だとか……知らなかったよ。
マーガレット王女のドアの外には女性騎士が立つそうだ。
「あのう……天狼星をどうしようかと迷っているのです」
王妃様の笑顔が深くなる。ベネッセ侯爵夫人も笑顔が固まっている。
二人が扇子の陰で、小声で話し合っている。聞こえているけど、聞こえていない振りをするのがマナー。
「ソニア王国にフェンリルを連れて行ってはいけませんわ」
「そうですが……ペイシェンス様と息子が留守なのに……王都に放置するのも問題では?」
「小さくなれば、大型犬並みなのですよね? 大きくならなければ、マーガレットとペイシェンスの番犬として最適なのですが」
こそこそと話し合った結果は、ゲイツ様と天狼星の帰国を待ってからと、先送りにされた。
「天狼星が賢く留守番ができるのなら、それが最適だと思います」
つまり、私がちゃんと言い聞かせられるかどうかに掛かっているみたい。
「彼方を威嚇するのは良くありませんが、安全を確保する方が重要だと陛下もお考えになるかもしれません。国内はいざ知らず、ソニア王国の旅は本当に気をつけなさい」
行く前から憂鬱な気分になるけど、初外国旅行なんだ!
「それと、ゲイツ様から王家にも奉納された馬車ですけど……ベネッセ侯爵夫人のとペイシェンスのとゲイツ様のと四台あるのですよね」
遠回しに、王妃様が言わんとする事は理解できた。
「ええ、私はマーガレット王女と一緒の馬車に乗せて頂きますから、一台はパリス王子とカレン王女にお貸ししますわ」
王妃様が満足そうに頷く。
「私と息子も同じ馬車に乗りますから、一台は外交官の方にお譲りできるでしょう」
それはどうかな? ゲイツ様は、お母様と一緒の馬車は嫌がりそう!
「それか、ゲイツ様の馬車にパーシバルや外交官を乗せても良いのですよ」
ほほほほ……と二人は笑うけど、そちらの問題もあったんだよね。
「あのう、馬の王と金の鬣を連れて行く予定なのですが……」
また、二人が扇子の後ろで話し合う。聞こえているけど、聞こえない設定なので、私は大人しく待っている。
「ソニア王国の冬は魔物討伐が必須みたいですわ。きっとマーガレット王女も参加を促されるでしょう」
「まぁ、あの子に魔物討伐などできるでしょうか?」
不安そうな王妃様。
「それは、私も一緒ですから、危険な目には遭わせません。それに、貴婦人達はテントで待っているそうですから」
それなら、参加しなくても良いじゃん! と内心で突っ込む。寒いのは苦手なんだよ!
「彼方の殿方は、貴婦人や令嬢の前で格好をつけたいのでしょう。大袈裟に褒め称えるように、マーガレット王女にも指導いたします」
「では、ペイシェンスもそれで良いのでは?」
うん、うん! と聞こえない振りを忘れて頷いちゃう。
「ですが……ペイシェンス様が魔物討伐で伯爵に陞爵したのは、彼方でも把握しているでしょうから……息子がいるので、傷一つつけませんよ」
二人の話が終わったので、王妃様から「馬の王と金の鬣については、陛下から連絡があるでしょう」と言われた。
こちらも、先送りだ。まぁ、パーシバルは魔物討伐に加わるのは、平気というか、喜んで参加しそうだから、スレイプニルが駄目でも自分の愛馬を連れて行くだけだ。
私は、馬の王を連れて行かないなら、馬車で行きマーガレット王女やベネッセ侯爵夫人とテントで待っていれば良いだけじゃないかな?
だって、パリス王子が冬の魔物討伐に初参加すると言った時、乗馬が苦手なら無理だと言っていたよね? 彼方の魔物討伐は、乗馬が必須みたいだもの。
私は、馬の王任せの乗馬だから、普通の馬では逸れちゃうし、足手纏いだよ。
「彼方でのパーティー用のドレスやアクセサリーは、もう発送済みですが、道中も豪華過ぎない華やかなドレスを選びなさい」
難しい! 豪華過ぎない華やかさ? これは、メアリーとマダム・マグノリアに要相談だね。
やっと、王妃様の面談を終えたけど『彼方で魔物討伐なんて、聞いていないよう!』と叫びたい気分。これは、パーシバルに尋ねよう。
今日は、パーシバルも外務省でソニア王国行きの諸注意を受けている筈だもの。




