「まこと」って呼んでいい?
少し時間が経つと、男子たちによる緊急会議が始まった。
中心にいるのは、クラスのリーダー格である安田だ。その周りを囲むように男子たちが集まり、円陣のようなものができあがっている。
話題はもちろん、転校生の平井夏である。
教室には空いている席がいくつかある。だからこそ、彼女がどこに座るのか予想がつかず、議論は白熱していた。
男子たちがこうして好き勝手に盛り上がれるのは、担任の小川先生のおかげでもある。
いや、おかげと言うべきかは怪しい。
先生は自己紹介カードを書くためと用紙を取りに職員室へ向かったのだが、戻ってきたのは十五分も後だった。
しかも開口一番、
「コピー機が壊れてましてねえ」
などと言い訳を始めたものだから、クラス中が呆れ返っていた。
そんな中、僕の右斜め前の席の佐藤が手を挙げた。
「先生、そんなことより早く平井さんの席決めましょうよ」
その言葉は、クラスの総意だった。
「そうですね」
小川先生は一呼吸置くと、教室の一角を指差した。
「あそこにしましょう。席も空いていますし、窓側で景色も良いですから」
その瞬間、男子たちの顔から一斉に色が消えた。
どうやら彼らにとっては、最悪の結果だったらしい。
なぜなら――
先生が指差したのは、僕の隣の席だったからだ。
彼らの夢は断ち切られた。
教室中の視線が一斉に僕へ向いた。
その鋭さたるや、もはや殺気と言っていい。
僕はただ静かに恐怖するだけだった。
しかし僕が現実逃避を始めた頃には、平井はもう僕の隣に座っていた。
「よろしく。私、平井夏。君は名前なんていうの?」
突然話しかけられ、僕の思考は停止した。
「有間……真です」
彼女はぱっと笑った。
「ありままことね。じゃあー今度から「まこと」って呼んでいい?」
僕は驚いた。
転校初日なのに距離感が近い、とても近い。
いつもの苗字と「くん」ずけセットではなかった。
もっとも、そのときの僕はまだ気づいていなかった。彼女のおかしな距離感はこんなものではなかったことに⋯




