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ルードさんに連れられた先は近くの公園だった。
普段は人出の多い場所だけれど、今はお昼が近いこともあってかあまり人がいない。
そのまま公園の奥へと向かい、ベンチに並んで座る。ベンチの周りはさらに人がおらず、ルードさんと私の二人だけだった。
「………」
「………」
沈黙が流れる。
嫌な沈黙ではなかったけれど、ずっとこのままでいるのも落ち着かない。
しばらくそうしていたら、ルードさんが口を開いた。
「俺がアベラルト・フォスターだと知って驚いたか?」
「それは……はい、驚きました」
「黙っていてすまなかった」
「いえ、私こそ。ルードさんがフォスター先生と知らなかったとは言え、ご本人を前にあんな熱く語ってしまって恥ずかしいです」
「構わない。むしろニナの口から直接聞けて嬉しかった」
ルードさんがふっと笑う。
優しい目に心臓がどきりと跳ねた。
「援助のこと、勝手にやってすまない」
「そんな、謝っていただくようなことではないですよ」
「バートンの言っていた通り、元々デュオスへ打診したのは舞台化の話だけだったんだ。だがあの日ニナの話を聞いて、金銭的なことを解決した方がいいと判断した。…あの男から援助を受け続けていれば、またこんなことが起こりかねないからな」
「そうだったんですか…」
「だが結局俺がやったことも、あの男と大差ないのかもしれないな」
ルードさんの懺悔のような言葉にびっくりする。
いつの間にかルードさんからは笑みが消えていた。
「リチャールさんと同じだなんて、そんなことないです」
「しかし援助を盾に君を指名してしまったことには変わりはない」
「セイカ出版にもデュオスにもどちらにもメリットのあることです。指名も作者として私の演技を評価してのことですし、それも一度だけの約束なんですよね?全然違います」
「……」
「私は、ルードさんがそこまでデュオスのことを考えて下さって嬉しかったです」
「……俺が指名しなければ揉めることもなかっただろう」
「ですけど、揉めたからこそメイジーと本音で話せましたし、和解もできました。ルードさんのおかげです」
私は本当に感謝しているのだと伝わるよう、ルードさんに笑いかける。
しばらくは表情は固いままだったけど、私の想いが伝わったのか、緊張が解けて表情が柔らかくなった。
「……ありがとう」
「お礼を言うのは私の方です。リチャールさんに色々言われている時は庇って下さってありがとうございました」
「当然のことをしたまでだ」
「それでも嬉しかったです。…でも、そのせいでルードさんまで、その…あんなことを言われてしまって」
「ああ…」
私の言葉にルードさんが遠くを見つめる。
「あの時はああ言ったが」
「はい」
「俺はニナに色目は使われていないが、魅了はされている」
「…はい?」
視線が私に戻り、ルードさんの瞳にもう一度私が映った。
「初めは君の演技に惹かれた。こんなに俺の思うままに演じる役者がいるのかと感動した。そんな君が俺のファンだと言ってくれて、震えるほど嬉しかった」
急な言葉に目を瞬かせる。
冗談なのかと思うも、ルードさんの表情が真剣さを物語っていた。
「それがいつの間にか役者としてではなく、ニナ自身に惹かれるようになった。ニナの練習に付き合っていたのも、誰よりも近くで君を見ていたかったからだ。二人で過ごす時間は何よりも楽しかった。ずっとこの時間が続けばいいとまで思った」
そこで一拍、ルードさんが緊張を逃がすように息を吐く。
私は何か言おうとするも、ただ口がぱくぱくと動くだけで言葉にならなくて、ひたすらルードさんを見つめた。
「君に俺の本を演じてもらうだけなら援助の話など必要なかった。でも俺はそうしなかった。ニナの不安を全て払いたかったからだ。…何故そんな風に思うのかわからなかったが、今はわかる」
そう言ってルードさんが私の手を包み込むように握る。
「俺はニナが好きだ」
頭の中でルードさんの言葉がこだまする。
ルードさんが、私を好き。
その意味を理解した途端、顔が一気に赤くなった。
顔はもちろん、全身が熱い。きっと目も潤んでいる。
「急にこんなことを言ってすまない。でもニナと、ただの小説家と役者だけの関係ではなく、先を見据えた関係になりたいと思った」
「先、ですか?」
「俺はニナと一生を添い遂げたい」
「ひぇ…っ」
怒涛の言葉の連続に情けない声が出る。
その声を否と受け取ったのか、ルードさんの表情がくもり、悲しげに目が伏せられた。
「…だめか?」
「だ、だめと言いますか…私、ルードさんがそんな風に想って下さってると考えたこともなくて、びっくりして」
「そうか。驚かせてしまってすまない」
「いえそんな!察せなかった私がよくなかったので!私が鈍感なだけなので、あの、全然おかまいなく!」
「落ち着け」
ふっとルードさんが笑い、私の頭をポンと撫でた。
「あ…」
その時、なんとも言えない感情で満たされた。
ずっとこうしていてほしいような、あたたかくて不思議な感覚。
その意味を考える前に、ルードさんの手が離れた。
……嫌だ。
「…ニナ?」
「え?」
ルードさんの声にはっとする。
目の前には驚いたルードさんの顔。気のせいだろうか。随分と距離が近くなった気がする。
はたと自分の姿を見回してみると、身を乗り出してルードさんの手を私の頭に押し当てていた。
まるで撫でるのを強要しているような…。
「え!?あれ!?すみません!」
ぱっとルードさんの手を離して距離を取ろうとする。
その手を改めてルードさんが握る。
「ニナ、すまない」
「え?」
次の瞬間。
ぐっと身体を引き寄せられ、私はルードさんの腕の中にいた。




