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「メ、メイジー…」
メイジーの気持ちを聞いて思うところがあったのか、リチャールさんが顔色を変えて近づいてきた。
心なしか手も震えているように見える。
「…来ないで!私、パパのやったことは許せない!軽蔑するわ!」
「そんな…お前のためを思ってのことだったのに…」
「私のため!?お金で役を買ってもらって喜ぶ役者がどこにいるのよ!」
「メイジー…」
メイジーに激しく拒否され、ショックを受けたリチャールさんが項垂れ膝をつく。
団長が近づき、「リチャールさん」と声をかけた。
「娘を想うあなたの気持ちはわかります。また、あなたに言われるままメイジーに役を与えた我々も同罪です」
「……」
「自分の実力ではなく、援助を盾に自分が役を得たと知った時にメイジーがどう思うか。もっと考えるべきでした」
「………!」
「そして我々も、舞台に携わる立場であるからこそ、リチャールさんの言うことを聞くべきではなかった。メイジー、すまなかった。この通りだ」
「団長!?」
団長がメイジーのそばに来て、頭を下げる。
そんな団長を見て、副団長やその場にいた団員達も一斉に頭を下げた。
「そんな、皆さん頭を上げて下さい!」
「許してくれるのか…?」
「許すも何も…失礼なことをしたのは父の方です。大変ご迷惑をおかけしました。どのような処分も受け入れます」
「君の役者としての尊厳を傷つけたのはこちらだ。処分などあり得ない。メイジーさえ良ければ、今後もデュオスで活躍してほしい」
「団長…」
メイジーが涙をこぼしながら「よろしくお願いします」と頭を下げる。
リチャールさんのやったことは許されることではないけど、メイジーは何も知らなかった。
何も知らなかったメイジーが処分されるようなことにならなくて本当に良かった…。
◇◇◇◇◇
メイジーとの和解を済ませ、改めて団長がリチャールさんに向き直った。
「リチャールさん。援助のことですが」
「……」
「こちらの勝手で恐縮ですが、今回のことを踏まえ、今後あなたからの援助は辞退したいと思います」
団長の言葉に、団員が一気にざわめいた。
「今まで劇団デュオスを支えていただき、ありがとうございました」
確か、レイラさんはリチャールさんの援助が切られると厳しいと言っていた。
辞退だなんて大丈夫なの?
副団長も知らなかったようで、団長に駆け寄った。
「団長、援助を辞退するって本気ですか?」
「勿論だ」
「そんな…大丈夫なのですか?今でもギリギリなのに…」
「あ、大丈夫ですよー。今後はセイカ出版が援助するので」
「え?」
「大船に乗ったつもりでいて下さい」とバートンさんが笑顔で胸を叩き、団長は「よろしくお願いします」と頭を下げる。
もう何がどうなってるのかわからない。
どうしてセイカ出版が援助してくれることになったのか。
この場にいる団員は混乱の色が隠せない。
「ええとですね、実はフォスター先生のお考えなんですよ」
「フォスター先生の?」
「はい」
バートンさんの話によると、前々からセイカ出版では新しい販促方法を模索していたらしい。
発売後すぐ、初動でもっと売り上げを伸ばす方法がないかと考えていたそうだ。
そこで今回のことに話が繋がる。
フォスター先生は、発売前に上演することで原作に興味を持ってもらえるし、劇団側も作者のファンが観劇に行くので、どちらも売り上げが伸びるのではと考えたらしい。
そのモデルケースとして自分の新刊を使ってもいいとフォスター先生からセイカ出版へ進言したそうだ。
そしてモデルケースになるのだから一度だけ自分の希望を言わせてほしいと、私の起用をお願いしたらしい。
デュオスも以前からリチャールさんの圧力に辟易していたが、何もできずにいた。
セイカ出版のモデルケースに賛同したところでの今回のオーディションの騒動だ。さすがに参ってしまっていたところ、今後セイカ出版がリチャールさんに代わって援助すると話を持ちかけられたそうだ。
うまくいけばリチャールさんの圧力から解放されて、メイジーとも対等な立場で適切な配役ができる。渡りに船とばかりに了承したらしい。
セイカ出版にとってもデュオスにとっても、どちらにも良い結果に結びつく話だった。
「僕の勘では絶対にうまくいきます。お互いに万々歳です。あ、僕の勘って結構当たるんですよー」
「はあ…」
「なんと言っても!フォスター先生を見出したのも僕ですから!初めてフォスター先生の原稿を読んだ時にビビッときたんですよねー。今ではフォスター先生もすっかり売れっ子です。我ながら自分の目の良さには感心しきりですよー」
「はあ……」
副団長はまだ戸惑っているようだったけど、私はそれどころではなかった。
バートンさんがフォスター先生を見出した…つまり、バートンさんのおかげで私は今フォスター先生の本が読めているということ!
フォスター先生のファンとしてはバートンさんには感謝しかない。ありがとう、バートンさん。
……こっそり拝んでおきましょう。
「…何をしているんだ?」
「え!?」
振り向くと私の隣にフォスター先生…ルードさんが立っていた。
バートンさんを拝むのに夢中で、ルードさんがすぐそばまで来ていることに全く気が付かなかった。
拝んでいる姿をしっかりと見られていたようで恥ずかしい。
「これは、その…なんでもないんです、気にしないで下さい」
「そうか?」
なんでもないと言うのは無理があったかなと思ったけれど、ルードさんは納得してくれたようだ。
……本当はまだ少し変な目で見られていたけれど。納得してくれたと無理やり思い込むことにしたい。
これ以上突っ込まれないように話を変えよう。
「あの、それより何かご用があったのでは?」
「あ、ああ……」
ルードさんは少しだけ視線を彷徨わせるも、意を決したように顔を上げて私を見た。
「少し二人で話したい。いいか?」
「はい。ちょっと確認してきます」
レイラさんにもう帰っても大丈夫だと言われたので、そのままルードさんと稽古場を後にした。
ルードさんと一緒にいるのは慣れていたはずなのに、何故か私はどきどきとしていた。




