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ついに迎えたオーディション当日。

昨夜は緊張のためか、なかなか寝つけなかった。


オーディションはいつも劇団で使っている稽古場で行われる。

支度をして向かうと、入り口でレイラさんが準備をしていた。私に気づくと手を振りながらやって来た。


「おはよう、ニナ」

「レイラさん、おはようございます。今日はよろしくお願いします」

「いよいよね。でもあなたなら大丈夫。落ち着いて、しっかりね」

「はい、ありがとうございます」


レイラさんと話しているうちに少しずつ緊張がほぐれてくる。

オーディション前にレイラさんと話せて良かった。


「レイラさん、おはようございます」


レイラさんと話していると、メイジーが恰幅のいい男性と共にやって来た。


「メイジー、おはよう」

「あら、ニナもいたの。全然気づかなかったわ」


レイラさんのすぐ横にいる私に気づかないはずがないのに、あからさまに嘘をつかれる。

前から当たりが強いと感じていたけれど、今回のことで更に嫌われてしまったようだ。同期にこんな態度を取られるとさすがに悲しい。

すると、メイジーと一緒に来た男性がじろじろと私を見てきた。


「ほう、これが例の娘か。大したことないな。メイジーの方が華がある」


投げられた言葉に驚いて固まる。

一体どなただろう…初対面の相手に随分な言いようだ。

戸惑う私に気づいたのか、メイジーのお父様よ、とレイラさんがこっそり教えてくれた。


「リチャールさん、本日はご足労いただいてありがとうございます」

「くだらんやり取りが行われていると知れば当然だ。メイジーを差し置いてこの娘が指名など馬鹿げとる」

「この度のことはニナの頑張りの結果と認識しています。リチャールさんにもこれを機にご理解いただけると幸いです」


メイジーのお父様・リチャールさんは、とても高圧的な方らしい。

ここに立っているだけで足がすくみそうになる。

レイラさんは慣れているのか毅然とした態度で対応している。


「痴れ事を。メイジーの方が優れているに決まっとる」

「大切なのは優劣ではなく役に合っているかどうかです。フォスター先生もそう思ってニナをご指名なさったのでしょう。その点ご留意の上、どうぞ最後までご静観下さい」

「ふん、不正なぞしようものなら出資を止めるからな。……そろそろ時間か。メイジー、頑張るんだぞ」

「もちろんよ、パパ」


時計を確認し、リチャールさんがメイジーに声をかけて中へ入って行く。

メイジーも改めてレイラさんに向き直る。


「レイラさん。フォスター先生の希望だからとニナを贔屓することなく、公平な審査をお願いしますね?」

「もちろんよ。あなたのこともスポンサーの娘だからと贔屓はしないから、安心してちょうだい」

「…そのお言葉を聞けて安心しました。では後ほど」


メイジーはそうに答えると先に行ってしまった。

去り際に私をひと睨みすることも忘れていかなかった。


「全く…困った方達ね」

「レイラさん、あんな風に言って大丈夫なんですか?」

「いいのよ。私も劇団内で立場のある身だもの、言う時は言わなきゃ。それより時間よ。行きましょう」

「はい!」


レイラさんと一緒に、メイジーを追うように稽古場へと入った。

フォスター先生や応援してくれたルードさんのためにも、しっかり頑張ろうと力を入れた。



◇◇◇◇◇



稽古場の中は半分に仕切られていた。

片側が演技スペース、もう片側に机が並べられていて、そこに審査員が座っている。審査員は団長と副団長、演出や各部門リーダーとその他数名の団員である。

リチャールさんは審査は行わないが、見学という形で椅子についている。


「皆さんお揃いですね。ではこれより始めさせていただきます」


そう副団長が告げ、オーディションの進行予定を説明し始めた。

オーディションは台本の中から選んだ二ヶ所をレイラさんと読み合わせの形で進めるらしい。多少の動きをつけてもいいそうだ。

言われたシーンを確認すると、どちらも大切なシーンだとわかった。


まずはメイジーが呼ばれ、前へ出て演技をする。

さすがメイジー。場数を踏んでいる分、セリフの言い回しも動きも悩みがない。

レイラさんの演技にもしっかりとついていっているし、このまま稽古に入っても支障がないほどに見える。

例え役をもらうきっかけがリチャールさんからの圧力だったとしても、メイジー自身も見劣りしないよう努力しているのだ。その成果を目の前で見せられ、圧倒させられた。


メイジーの演技が終わり、隣に戻って来る。

目が合うと挑発的な笑顔を向けられた。

指名で役をもらえるのが納得できないのもわからなくはない。でも努力してきたのは私だって同じだ。負けられない。

笑顔を返すと少し驚いた顔をした。まさか私に返されるとは思っていなかったようだ。


「次、ニナさん。どうぞ」

「はい!」


名前を呼ばれ、前に出る。

ここまで来たらやれるだけのことをやるだけ。


「よろしくお願いします!」



ーパンッ!

「そこまで!」


団長が手を叩くのを合図に演技を止める。


「ありがとうございました!」


今の私にできる全てを注ぎ込んだ。例えこれで残念な結果になったとしても悔いはない。

メイジーの隣に戻ると視線を強く感じるも、顔を向けると逸らされた。一体何だと言うのか。


机の前に椅子が用意され、並んで座る。


「それでは講評に入ります。お二人とも、お疲れ様でした」

「「ありがとうございます!」」

「まずはメイジーさん。中盤のこの台詞ですが………」


静かに講評が進んでいく。

メイジーも私も、聞かれたことに対してどのような気持ちで演技したのかを伝えていく。

時々自分の未熟さを突かれるが、自分では気づけないことなのでありがたい。


突然、ガタンと大きな音が響いた。

音の方を見ると、リチャールさんが顔を歪めてワナワナと立っている。

大きな音はどうやら椅子が倒れた音のようだ。


「リチャールさん、どうなさいました?」

「どうしたもこうしたもない!結果はメイジーの勝利だ!こんな茶番は必要ない!」

「パパ?」


メイジーも驚いている。

ずんずんとリチャールさんがこちらに向かって来たので、すかさずレイラさんや他の団員が止めに入る。


「メイジーとこの娘のどちらがいいかなんぞはっきりしとるだろう!メイジーの方が優れている!」

「先ほどもお伝えしましたが、大切なのは役に合っているかどうかです。このオーディションではそれを見極めています」

「生意気な女め!どけ!」


なだめるレイラさんを押し退け、リチャールさんが私の目の前に立つ。

睨みながら見下ろされ、威圧感に萎縮してしまう。


「パパ!落ち着いて!」

「お前の演技にケチをつけられたんだぞ!?落ち着いていられるか!」

「ケチじゃないわ、これは私の成長にも必要なことなのよ!」

「黙れ!そもそもこいつが指名を受けること自体がおかしい!…そうだ。お前、フォスターとやらに色目を使ったんじゃないか?」


…色目!?


「パパ!いくらなんでも言っていいことと悪いことがあるわ!」

「いいやそうに決まっとる!家にこもってこそこそ物書きしとるような奴だ。女に慣れてはおらんだろうから、こいつ程度でも簡単に手玉に取れるんだろう。女を使ってまで役を得た気分はどうだ?ん?」

「パパ!いい加減にしてよ!」


全身を舐めるように見られ、罵倒され、私は恐怖を感じて動けなくなった。

メイジーが間に入ってもリチャールさんに落ち着く気配が全くない。

他の団員も止めに入ろうと次々と席を立つ。

すると。



「それ以上の侮辱はやめてもらおうか」



聞き覚えのある声に入口へ目を向けると、そこにはルードさんが立っていた。


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