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その後、私とメイジーでオーディションをすることが正式に決まった。
やはりメイジー側がごねて避けられなかったようだ。
ただし、今回の配役にはフォスター先生の希望もある。
オーディションはあくまで私が指名で役をもらうことに対してメイジー側を納得させるためのもので、メイジーが選ばれた場合でも役を獲得できるわけではないらしい。
もしメイジーが選ばれたら、フォスター先生にはこちらの事情を含め詳しく説明した上で、今回は希望に添えないとのことで辞退するそうだ。
…私のせいで、フォスター先生の新作を上演できなくなるかもしれないんだ。
「はあ、プレッシャーだな…」
「何がだ?」
振り返るとルードさんが立っていた。
「ルードさん!お久しぶりです」
「ああ、久しぶりだな」
ルードさんは前回の公演中、私の特訓に付き合ってくれていた。
公演終了後はぱったりと来なくなったので、会うのは本当に久しぶりだ。
「ん?どうした。少し顔色が悪いようだが、大丈夫か?」
「いえ、これは、その…」
「何か悩みごとか?」
そういえばルードさんはどこかの劇団の関係者だったな、と思い出す。
何かいいアドバイスがもらえるだろうか。
「実は、次の演目で役がもらえるかもしれないんです」
「なんだ、それはよかったじゃないか」
「そうなんですけど…それが作家の先生から指名していただいたんですが、作家の指名で役をもらえるのは納得ができないと同期の役者と揉めてしまいまして」
「…揉めた?」
私は団長やレイラさんから言われたこと、メイジーの家からの援助の話なども全てルードさんに話した。
ルードさんは所々驚きを隠せないようだったが、それでも最後まで話を聞いてくれた。
「そうか、そんなことが…」
「ルードさんも劇団の関係者でしたよね?こういう揉めごとが起きた時、ルードさんのところではどのように対処してるんですか?」
「え?あ、いや…」
途端にルードさんが慌て出す。どうしたんだろう。
……こんな話をして迷惑だっただろうか。
「すみません、こんな込み入った話をしてしまって。迷惑でしたよね。忘れて下さい」
「いや、迷惑ではないが…」
「私、オーディションを受けるのも初めてなんです。悪く考えずに良い機会だと思うことにします」
「…そうか。ニナが合格できるよう、俺も応援している」
「ありがとうございます」
なんだろう。ルードさんと話すと不思議と落ち着く。
応援してくれると言ってくれるだけで力が湧いてくるような…。
「ルードさんはすごいですね」
「ん?」
「あんなに悩んでたのに、ルードさんと話してたら元気が出てきました。ルードさんの応援があったら百人力です。私、頑張りますね!」
「そうか、頑張れ」
ルードさんは笑いながら、私の頭をポンと撫でた。
「ルードさん…?」
「あっ…すまない!女性に対して失礼だった!」
「いえ、大丈夫です…」
びっくりした…頭を撫でられるなんて子供の頃以来だ。
ルードさんも自分で驚いたのかあたふたしている。
私は私でなんだか目を合わせられず、ついあちこち視線を彷徨わせてしまう。頬に手をやると少し熱い。
しばらくして、ルードさんが私に向き直った。
「一つ確認しておきたい」
「何ですか?」
「オーディションは何日後だろうか」
「五日後ですが…オーディションがどうかしましたか?」
「いや……上手くいくといいな」
「はい、ありがとうございます」
やっぱりルードさんはすごい。励ましてもらうだけで、微笑み一つで頑張ろうと思える。
(オーディション…頑張ろう)
私は心をぽかぽかとさせながらそう思った。
◇◇◇◇◇
(ルード視点)
俺はあの日、劇団デュオスの劇を観て、演出に憤慨しながら歩いていた。
あの妹はああいうすぐ熱くなるような人物ではない。もっと耐えて耐えて耐え抜いて、最後に耐えきれず爆発するような、そういう人物だ。
何故そう思うか。それは俺が書いたからだ。
アベラルト・フォスターは人嫌いで担当編集者としか会わない。
そのイメージを徹底したおかげでわずらわしい人付き合いをせずに済んでいるが、こういう時は自身の言い分を言えずもどかしい。
演劇としては満点かもしれないが、もっとストーリーを読み込んで俺の意図を汲んでもらいたいものだ。
苛立ちを抑えきれず、このまま帰っても仕事になりそうもない。少し頭を冷やそうと裏道へ入った。
「″ごめんなさい、お兄様。私、どうしてもあの人のところへ行きたいの…彼と生きていきたいの″」
(……ん?)
声が聞こえる。
その声は覚えのある言葉を言っていた。
声の方へ進んで行くと、女性が一人立っていた。よく見てみると、どうやら彼女は俺が見たデュオスの劇を再現しているらしい。
いや、正確には再現ではない。要所要所で違いが見え、彼女なりに演じているとわかった。
……おもしろい。
「″彼が犯罪を犯すわけがない。それは私が一番よくわかってるわ″」
「″お前の前ではそんな面を見せるわけがないだろうと何度言えば理解できる?″」
「!?」
興味を惹かれ割って入ると、彼女はよほど驚いたようで勢いよく振り返った。
彼女と目が合う。とても綺麗な瞳に一瞬魅入ってしまった。
「どうした?続きはやらないのか?」
「あの…あなたは?」
「そんなことはどうでもいい。これは劇団デュオスで上演中の演目の、第二幕中盤だな」
「そうですけど…」
「続きをやろう」
そのまま彼女と続きを演じた。
俺は演技などできないのでただの本読みのようなものだが、彼女は文句を言うことなく素人に付き合ってくれた。
終盤。俺が憤慨した例の場面に差し掛かった。
彼女は、全て俺の理想通りに演じてくれた。
その後、彼女…ニナが劇団デュオスの役者見習いであると知った。
デュオスの関係者と知ってつい本名を隠してしまったが、正解だった。
目の前の男がアベラルト・フォスターと知らないニナは、俺の本への想いを語ってくれた。もし名乗っていたらこうはいかなかっただろう。
俺を劇団関係者だと勘違いさせてしまったのは申し訳ないが、ファンだと言ってくれて嬉しかった。
それにしても、彼女ほどの実力を持って見習いとは。俺の本の演出といい、デュオスの連中は一体何を見ているのか。
そこで俺は、次回作をデュオスに持ち込んでニナを指名した。
彼女なら俺の理想通り演じてくれると期待を込めたのはもちろん、もっとニナに注目してほしいとの思いもあった。
俺の本を初めて読んだ時からファンで、大好きだと言ってくれたニナ。
ただ礼をしたかっただけだ。
それがこんなことになるとは……。
「俺のせいだな」
同期と揉めてしまったと言った時のニナの顔が離れない。
俺の思いつきのせいで彼女を苦しませてしまった。
「…五日後か」
人嫌いだなどと言っていられない。
俺の足は自然と出版社へ向かっていた。
つい頭を撫でてしまった時、彼女は嫌がるそぶりを見せなかった。
どうか、俺の次の行動も嫌がらずにいてくれるといいんだが。




