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全公演が終了してしばらく。
次の公演の演目を考える時期になった。
劇団デュオスでは演目を決める時、脚本家の持ち込みを選ぶか、流行っている小説を演劇化するかのいずれかにしている。前回のフォスター先生は後者だ。
演目を決めたら配役。演出が決めることがほとんどだけど、役によってはオーディションで決めることもある。
前回は残念だったけど、今回は何か役をもらえるといいな。
などと考えながら掃除をしていると、パタパタと足音が近づいてきた。
「ニナ!ここにいたのね!」
「レイラさん、どうしたんですか?」
「とにかく早く来て!」
先輩のレイラさんに手を取られ、走って連れて行かれる。
どこへ行くのかと思えば、今まさに演目について会議をしているであろう団長室だった。
「団長!連れて来ました!」
「…ああ、来たか」
団長がこちらを見る。
室内には団長、副団長、演出、舞台監督、部門リーダー等々、錚々たるメンバーが揃っていた。
私を連れて来たレイラさんも、女性役者を率いるリーダーの役割をしている。
もしかして私、何かとんでもないことをやらかしてしまったのだろうか。
「ニナ、そこに座りなさい」
「……はい」
手前の椅子を勧められ、そこに座る。
緊張で手が震える。
「実は次の演目なのだがね、作家から自分の本を舞台化してくれないかと打診があった」
作家から打診?
いつもは劇団側から作家へ話を持ちかけるのに、珍しい話だ。
「我々はその話をぜひ進めたいと考えているが、作家から一つ頼みごとをされてね」
「頼みごと、ですか?」
「そうだ。ある役を……ニナ。君にやってもらいたいと、そう言っている」
「え!?」
役を私に!?ありえない!
だって私は滅多に舞台に立たないし、立てても目立たない端役。
名前を出されるほど注目されることはないはず。
「光栄なお話ですが、本当に私でしょうか?どなたかと間違えているのでは…」
「我々も確認したが、間違いなく君をということだった。まだ舞台経験の浅い君に頼むのは酷な話かもしれないが……引き受けてくれないか?」
確かに私は端役ばかりで舞台経験がないに等しい。
作家直々に指名するのだから、いつものような役ではないだろう。責任も重くなる。
でも、これは考えようによってはいい機会だ。
何よりわざわざ私をと言ってくれた作家の意思に応えたい。
「わかりました。この話、お受けします!ご指導よろしくお願いします!」
私が頭を下げると、わっ!と室内が盛り上がった。
「やってくれるか!ニナ!ありがとう!」
「苦労をかけるかもしれないが、しっかりな」
「いやぁ、これでフォスター先生も喜んでくれるな!」
「フォスター先生?」
「おや、言い忘れていたか。話を持ち込んだ作家は前回やった演目の作者、アベラルト・フォスター先生だ。まだ出版前の本なんだが、宣伝を兼ねてお願いしたいとのことなんだよ」
「…え?」
フォスター先生が、私を…!?
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団長達はこれからさらに話を詰めるとのことで、レイラさんと一緒に団長室を出た。
「ニナ、よかったわね」
「でも私、上手くやれるかどうか」
「大丈夫。団長も他の方達もあなたのことは認めてるわ。だからこの話をニナに話したのよ。もしトラブルがあっても私が対処するから安心して」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
レイラさんは私とさほど年齢が変わらないのに抜群の演技力で、さすがこの若さでリーダーを任されるだけのことがある。
面倒見もよく、私のようになかなか役をもらえない見習いにも分け隔てなく接してくれている。
レイラさんが一緒なら安心だ。
「それにしても、あなたフォスター先生と面識があったのね。びっくりしたわ」
「いいえ、面識はありません」
「え?でもフォスター先生はニナをって…」
「たぶんですけど、ファンレターで知ったんじゃないかと思います。実は私、フォスター先生のファンで、ファンレターを何度も送ってるんです。中には先生の本を演じられたらと書いたものもあると思います」
「そうだったの……じゃあ、憧れの先生のご指名なのね。しっかり応えないとね?」
「う…は、はい、頑張ります…!」
レイラさんと話しながら歩いていると、メイジーがこちらにやって来るのが見えた。
表情が見たことがないくらい鋭い。
「ニナ、聞いたわよ。あなた次の演目でフォスター先生から役を指名されたんですって?」
「メイジー…」
「あなたみたいな端役ばかりの人のどこがよかったのかしらね。どうかしてるわ」
「メイジー、これは団長達も納得の上での話よ。ニナもそろそろステップアップするには良い時期だと話し合って決めたのよ」
「でも作家の希望だから決定だなんて納得できません!私は努力してるのに!」
「努力はニナもしてるわ。あなただけが頑張ってるんじゃないのよ」
「…っ!」
レイラさんにたしなめられ、メイジーが顔をしかめて私を睨む。
「…だったら、オーディションして下さい」
「え?」
「私とニナとどっちが優れているのかオーディションして下さい!絶対に私の方が良い演技ができます!」
「あなた何を言ってるの?そんなこと認められるわけがないでしょう」
「いいんですか?パパに言って援助を切り上げてもいいんですよ?」
「…っ」
「援助?」
「……私の一存では決められないわ」
「わかりました。では直接団長にお話しします」
メイジーは冷たい目で私を一瞥すると、団長室の方へ歩いて行った。
「ごめんなさい、ニナ…せっかくあなたの晴れ舞台になるかもしれなかったのに」
「いえ…あの、レイラさん、援助というのは…」
「ああ、あなたは知らなかったわよね…」
レイラさんの話によると、メイジーの家は裕福な資産家で、劇団デュオスのスポンサーになっているのだそうだ。
メイジーの『みんなから注目されるような役者になってスポットライトを浴びたい』との夢を叶えるため、娘可愛さに多少の圧力をかけてくることもあるらしい。
メイジーが早くに役をもらえたのもそういう事情があったからだそうだ。
「スポンサーはメイジーの家だけではないけど、それでも援助を切られると結構厳しいの」
「そうだったんですか…」
「大丈夫よ。団長達はニナの頑張りをしっかり見てるもの。あなたはいつも通りやればいい」
「レイラさん…」
レイラさんに励ましてもらってありがたかったけれど、不安は拭いきれなかった。
メイジーの家がスポンサー…。
役をもらえたのも圧力があったから…。
もし、今回も圧力がかかったら……?




