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煌びやかな世界。
それは虚構であり、現実でもある。
幕が上がれば、ある人は自らを偽って別人になりきり、ある人は音や光で彩りを与え、人々に素敵な夢を見せる。
それが舞台。
とある劇場で、私は客席から盛大な拍手を受けた。
……わけではなく。
「はぁ…今回も素敵だったなぁ…」
「ニナ!手が止まってるよ!」
「すみません!」
劇場裏で片付けをしていた。
私は劇団デュオスで役者見習いをしている。
デュオスの公演を見て感動し、たまたま団員を募集していたのを知って門を叩いた。
入団してから早や一年。
端役で舞台に立つことはあれど、名前のある役をもらったことはまだない。
「ニナ、これもお願いね」
「メイジー…これはあなたの分の仕事でしょう?」
「私は端役ばかりのあなたとは違って台本を覚えるので忙しいの。じゃ、頼んだわよ」
「あっちょっと!……もう」
メイジーは私と同期だけど、私とは違って早くから良い役をもらえるようになった。
デュオスでは裏方仕事を全員でやっているのに、ここのところ押し付けられることが多い。
台本を覚えなきゃいけないのは私も同じなのに…。
◇◇◇◇◇
「はぁ、やっと終わった…」
メイジーの分も全て終わらせた頃にはすっかりくたびれていた。
でもこれでやっと私だけの時間だ。
「よし、やりますか!」
私は上演後は毎日のように、その時の公演で気になった役を自分だったらどう演じるか考えている。
今回の公演は大好きな作家のアベラルト・フォスター先生の台本だったので、どうしても舞台に立ちたかったけれど端役すらもらえなかった。
もしまた先生の台本をやる時には今度こそ役をもらいたい。その為には努力あるのみ!
「“ごめんなさい、お兄様。私、どうしてもあの人のところへ行きたいの…彼と生きていきたいの″」
ここは主人公の妹が街を追われた恋人と結婚したいと言ってくる場面。
主人公から恋人との別れを迫られるも自分の意思を伝える場面で、この後の主人公の行動を決める大切な場面でもある。
初めて読んだ時には、このくだりで妹の気持ちを考えると胸がぎゅっとした。
「“彼が犯罪を犯すわけがない。それは私が一番よくわかってるわ″」
「“お前の前ではそんな面を見せるわけがないだろうと何度言えば理解できる?″」
「!?」
突然現れた相手役にびっくりして声の方を見ると、若い男性が立っていた。
身なりが良く、顔立ちも整っている。
見たことのない男性だった。
「どうした?続きはやらないのか?」
「あの…あなたは?」
「そんなことはどうでもいい。これは劇団デュオスで上演中の演目の、第二幕中盤だな」
「そうですけど…」
「続きをやろう」
・
・
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「お付き合いいただいてありがとうございました!」
「俺もいい時間を過ごせた。ありがとう」
あの後、私達は第二幕を最後まで演じた。
近くの階段に座り、よかったらどうぞ、と男性に水を入れたコップを手渡す。
「完璧にセリフを覚えてたのでびっくりしました。もしかして、どこかの劇団の方ですか?」
「まぁそんなところだ」
「やっぱり!…あ、私は劇団デュオスのニナといいます」
「俺は……ルードだ」
「ルードさんですね」
ルードさんは一口飲むと改めてこちらを見た。
「ニナは役者か?今回の公演には出演していないようだが」
「まだ見習いなんです」
「君が見習い?随分と役が馴染んでいたのに」
「それは台本のおかげです。今回の台本はアベラルト・フォスター先生だったので」
「っ……ゲホッゴホッ」
「大丈夫ですか!?」
変なところに入ってしまったのか、急にルードさんがむせた。
勝手に触れるのは失礼かなと思いながらもトントンと背中を叩く。
「…ありがとう。それより、ニナはアベラルト・フォスターに何か思い入れでも?」
「大好きなんです」
「!」
「フォスター先生の書く物語はどれも繊細で引き込まれるようなお話で、初めて読んだ時からファンなんです。だから今回はどうしても舞台に立ちたかったんですが…ダメでした」
「……」
「もしまたフォスター先生の台本をやる機会があったら、今度こそ役をもらいたくて。だから今は少しでも上手くなれるように特訓してるんです」
「…なるほど」
コップを横に置き、ルードさんがじっと見てくる。
何か不快感を与えてしまっただろうかと、少し居心地が悪い。
フォスター先生のファンだと言っただけなんだけどな…。
「少し聞きたいんだが、いいか?」
「何でしょう?」
「第二幕終盤、恋人を連れて来るよう言われた場面だ。公演で演じた者は興奮したように演じていたが、ニナはそうではなかったな。あれは何故だ?」
「それは…」
「ただ違いを出したかっただけか?」
「違います」
居住まいを正してはっきりと自分の考えを述べる。
「私には激しさを出す場面には思えませんでした」
「何故だ?」
「あそこで感情を出したら彼女らしくないと思ったんです。怒りを表すなら激しい方がわかりやすいですけど、私は彼女は怒りを耐えるような人物だと思います。だからあの場では感情を抑えました」
「演出家がそう思わなかったとしてもか?」
「はい」
「……そうか。参考になった。ありがとう」
そう言うとルードさんは立ち上がって帰って行った。
ふぅ、緊張した。ルードさんたら急に雰囲気が変わるんだもの。
参考になったって言ってたけど…ルードさん、もしかして演出の方なのかな?
だったらいい特訓になったな、と呑気に考えながら、空になったコップを片付けて帰路についた。




