第6章:想いを告げる -2
「ねえ、お姉様は昨日、ずっとあの洞窟の中にいたんでしょ? お姉様はさっき大丈夫だって言ってたけど、昨日の夜はすごく冷えていたし……ほんとに、風邪とか引いたりしてない? 具合が悪いとか……」
「本当に大丈夫よ。ダリルが火を焚いてくれたし、それに――」
言葉に詰まったのは、またもや昨夜のことを思い出してしまったからだ。
何度思い出しても、やはり顔が赤くなってしまう。その上急に惑うように視線をさまよわせたとあっては、鋭いプリシラが何も勘づかないはずもなく。
じっと目を細めて、プリシラが言った。
「……怪しい。絶対何かあったでしょ」
「な、何もなかったわ」
「それに――、何?」
「……っ、それは……」
言い淀むネリネに、プリシラは執拗な眼差しで続きを促してくる。
どんどん強さを増していく圧に、いつまでも耐えていることはできず……
「その……、昨日はずっと、ダリルがそばにいてくれて……だから、寒くなかったのよ」
「ふうん。そばにって、どんなふうに?」
「ど、どんなふうって、言われても。……も、もう、この話は終わりにしましょう?」
「お姉様。洗いざらい話しちゃった方がきっとすっきりするわ。ほら、早く?」
そう言って、プリシラはこれ以上ないくらいににっこりと微笑んでネリネを見つめてくる。彼女は何があろうと追及をやめるつもりはないらしい。
「…………~~っ」
こうなったらもう、破れかぶれだ。
「う、後ろから」
「後ろから?」
「……こ、こう……抱きしめられて……」
(も、もうだめ……、もう無理……!)
そこまで話すだけで、限界だった。
掛け布を引き寄せて顔を隠すと、その向こうから呆気に取られたらしいプリシラの声が聞こえてくる。
「うわあ。あの騎士、普段はあんまり喋らないくせに、やることは結構大胆なのね。面白いから、後でアドニスに言いつけておきましょうっと。……で、まさかずっとそんなふうにしていたってわけ?」
「それは……ダリルのせいじゃないわ。私がそのまま眠ってしまって、夜遅くまでダリルのことを離さなかったから……」
「それほんと? だったら、お姉様もずいぶん大胆なことしてたのね」
「む……無意識よ。そうじゃなかったら、そんなはしたないことはしないわ……!」
掛け布の向こう、堪えきれないというようにくすくすとプリシラが笑っているのがわかって、居たたまれなくなってしまう。
しばらく経ってようやく頬の火照りが収まって、ネリネがそっと掛け布から顔を出すと、プリシラはおもむろに尋ねてくる。
「あたしね、初めてダリルを見た時、そっくりだなって思ったの。お姉様が前にすごく気に入っていたお話に出てくる王子様に。話してみると、外見だけじゃなくて、性格までそっくりよね。お姉様だってそう思ったでしょ?」
「そうね。確かに……私もそう思ったわ」
ダリルと出会った、あの儀式の日。
あの日、ダリルを目の前にして得も言われず懐かしく思ったのは、もちろん彼と昔出会っていたからというのが大きな理由だ。
けれど、プリシラが今、口にしたこともまた事実だった。
大好きな物語に出てくる登場人物にダリルの姿が重なって見えた。
だからきっと、ネリネはますます彼と初めて会った気がしなくなって、より強い懐かしさを感じたに違いないのだ。
でも、とネリネは言葉を続ける。
「ダリルは、ダリルだわ。あの物語の王子様に似ているからではなくて、私は、いつもひたむきで、真っ直ぐで……迷いのないダリルのことを――」
ダリルのことを。
その先に続きそうになった言葉に、ネリネははっとして口を噤む。
(私は……今、何を言おうとしたの?)
そのまま不自然に黙り込むわけにもいかなくて、とっさにそれらしい言葉を言い繕う。
「信頼、しているの。ダリルとなら、これからも……私が女王になった後も、きっと一緒にこの国を守っていけるって」
「本当に?」
「え……?」
「本当に、信頼だけ? お姉様はダリルに、それ以上の気持ちはないの?」
(それ以上の……気持ち)
プリシラが何を問おうとしているのか。
本当は、わかっていた。
今まで、誰に対しても一度も感じたことのない気持ち。
ダリルのことを想うだけで、どういうわけか、温かな気持ちになる。それでいて、息をするのすらつらくなるほど、胸が苦しくもなる、この気持ちは――
喉の奥からしぼり出すように、ネリネは言った。
「……彼は騎士よ。主君としての私を、慕ってくれている。それなのに私が、こんな気持ちを抱いていい相手じゃない……」
「どうして?」
「え……?」
なのに、プリシラは問うのをやめようとはしなかった。
まるで、はっきりしないネリネを問い質すように、彼女は畳みかけてくる。




