ぶっとんで、空
「ビビ……私が死んだら……子白狼をよろしくね……」
「お前冷静に考えてみろ。お前が生かしてるのに、お前を白狼が殺すわけねーだろ。安心して乗ってみろって」
「ビビはピョンと飛びおりて余裕だろうけどさあ」
「その前に俺がマントに入った状態で乗せてもらえるのかな。走ってついていくの絶対無理だぞ」
「ねえ……すっごく速いっていう事しか知らないけど……」
「乗れ」と言われてから、あれこれ準備して魔法白狼の横。
たぶん魔法白狼は私を「怪しいと思っている場所」に連れて行ってくれるのだろう。
背中に乗せて。
「怖いよお……」
「お前が準備してる間に山降りてユリウスどうなってんのか見てきたけど、荷物整頓してあれこれ頑張ってたけど、徒歩だと半日、今からだと来られるとしても夜だろ」
「はー……、馬はもう無理だよ。ていうか白狼に囲まれた家に居られるビビとトールが偉いんだ」
「それはそう。俺は最悪全力で全てを捨てて爆逃げすれば、なんとかなるか……くらいの気持ちでいる。トールはああ見えてガチでキレてるよ」
「うう……トールに嫌われる日がくるなんて。もうもう原因を突き止めて、根絶しないとダメだ。行くしかない、よし。えっと……乗るってどんな風に……でしょうか……?」
私は魔法白狼の横に立って遠慮がちに聞いた。
馬には子どもの頃から乗ってきた。
空を飛ぶ翼馬には専用の鞍と、踏ん張りが効くように専用のあぶみが付いている。
でも当然魔法白狼には何も無い。
巨大な狼、ふさふさ、大きい、あと全部筋肉、重心低い。
魔法白狼は無言で私の方を見て、前を見た。
えーんヒントもなし。もう乗っかるしかない!
私は覚悟を決めて胸元にビビを押し込んでリュックを背負って魔法白狼の背中にエショとくっ付いていた。
「失礼します……最近ご飯美味しくて少し体重が増えてるから重いかも知れなくてすいません……うわあ……ふわふわ……すごい……柔らかく……ない、そっか背中辺りの毛は強いのか、うおおおお、もう走るんですか?!」
「やばい、初手加速がすごいぞ、アルディナ」
「ヤバいヤバいちょっとやっぱ視界が低いのが圧倒的に怖いっ……!!」
背中に跨がった瞬間、魔法白狼は立ち上がり加速しはじめた。
魔法白狼は大きいけど、当然馬より視界が低い。そしてもう初手加速。
そして必死に掴んだタテガミのように強い毛の下に、隆起する筋肉。
筋肉で走る生物にしがみ付いた感じがすごい!
やっぱりこんなの手と足で挟むだけで乗れるものじゃないっ……と思ったけど、加速がはじめた瞬間に私は白狼の身体に自然と「しがみ付かされている」ことに気がついた。
とんでもない速さなのに、風をほとんど感じない。
身体が浮かないどころか、むしろ貼り付けられている
胸元に居るビビを見ると、耳が暴れない、ヒゲも動いてない。
「風が……コントロールされて、る?」
「コイツ風魔法を使ってる。すげぇ、白狼の風魔法使いだ。魔法白狼が何の魔法使うんだろうと思ったけど、風か!」
胸元でビビが叫んでいる。
ほぼ無風なのに視界だけとんでもない速度で……、
「いやああああ!!」
「飛んでる。うお、着地する時も風魔法でコントロールしてる、着地衝撃を風で無効化してる」
「これ後ろとか左右からも風送って、身体コントロールしてるってことだよね。すごい、騎士団の魔法使いが空を飛ぶときに使うのと同じやつだ!」
「魔法学校でお前が練習中に地面にたたき付けられたやつな」
「なんで覚えてるの?!」
「顔ぶつけて鼻血出したやつ。傑作だった」
「空中で制御不可能になって落ちたんだよ、だから狼なんて乗りたくなかったの!」
私は魔法白狼にギュウとしがみ付いた。
周りを見ているビビが、
「やべえ、もう家が遙か彼方。うおおお前見ないほうがいい。木をビュンビュン避けて走ってるぞ」
「! ちょっと左右にめちゃくちゃ白狼いるよ」
「群れの先頭走ってるのか、これ。どこに連れて行かれるんだよ、家まで戻してくれるんだよなああ?!」
ビビが半泣きで、でも興奮しながら言った。
全く知らない、馬は絶対入れない所を走っていると分かる。
木々を抜けて獣道を走り、崖を飛び下りる。
「いやああああああ!!」
視界の向こうに空しか見えない。
「いやっふぉおおおおお!! 慣れてきた。これマジで風でフルコントロールされてる、絶対落とされないぞ、きもちいい!」
ビビは慣れて楽しくなってきてるけど、私は心の奥底から無理。
もうはやく到着してほしくて、鼻水と涙が止まらない。
私の顔を見てビビが「最近みた顔の中で一番不細工」と爆笑する。
帰ったらこの生意気なクソ猫を丸洗いしてやる!!
「ぐええええ……いやあああもう無理、本当に本当に、本当に無理ぃぃぃ」
「いやっほおおお、楽しかったよ、魔法白狼。なあ俺と友だちになろうぜ、お前風魔法ここまで使えるなら、言葉勉強したらイケるって! 教えるから、この超加速、たまに俺も乗せてくれよ」
どれだけ走ったのか分からない。
突然川沿いで止まった白狼から投げ飛ばされて落とされた。
酷い、落とすときは風でコントロールしてくれない、どこなのここ、痛い!
鼻水と涙をマントで拭いていると、
「おいアルディナ見ろよ。漁がはじまった。やべえ」
「えええ……もう情報量が多すぎるよ……」
私は川沿いに座ってぽかんと口を開けた。
川幅は5mほどだろうか。あまり深くないのだろう。白狼たちが川の中に入っている。
そして川岸に立った魔法白狼が、風魔法で川底から水を巻き上げ、魚ごと空中に浮かせている。
ビチビチと上がってくる魚を白狼たちが咥えて食事をはじめた。
ビビも魚を咥えて、
「めっちゃ新鮮な魚うおおおおお!!」
そう言って魚をムシャムシャ食べ始めた。
魔法白狼が私の前にも一匹魚を置いた。「お前もくえ」みたいな顔だ。
……いや、人間ってね、魚をこのまま食べられない貧弱な生き物なの。
あなたたちみたいにその場でムシャムシャいけないの。
火をおこして焼いて食べる時間ある? 待ってくれないよね?
私の炎魔法、めちゃくちゃ小さいの。薪が必要なの。一瞬で丸焼き出来ないの。
私の周りで20匹の白狼たちがムシャムシャ魚を食べている。
無力、カオス。
そしてここが終着点ではないと分かって脱力して倒れた。
まだここから走るってこと?!
転がった視界に、ビビが食べ終わった魚が落ちている。
種類までは分からないけど、見た目はどこにでもいる川魚だ。
「……? 魚の内臓……こんな色だっけな……?」
ビビが残した魚の内臓に黄色と紫の帯状の何かが巻き付いている。
「……血管……?」
内臓全体に巻き付いているみたい。
異常に大きい魚。こんなに太った魚、みたことない。
そして思い出す。
家を出る直前、魔法白狼が連れてきた子白狼③が、ポロリと糞をした。
状態の良い糞を見られたのは、はじめてだった。
その中に、黄色と紫の粒があった気がする。
私は慌てて白狼たちが食べている魚を確認する。
どれもありふれた川魚だが、異常に大きい。
そしてどの魚にも、内臓に黄色と紫の筋状のものが巻き付いている。
動物の本は山ほど読んできたけど、魚を治療したことはない。
でも魚の魔法核を取り出すときに内臓は何度も見てきたけど、こんな帯は見たことがない
「ビビ。魚の内臓、絶対食べないで」
「おう? なんだヤバいヤツか」
「身から変な生気を感じない?」
「ない。毒でもねえ。むしろ妙に味が濃い。魚って次元じゃねー。だからこの魚くってるんだろ白狼」
「……じゃあ異常が集中してるのは内臓?」
私は治療具を差した腰ベルトからお手製の手袋を出して装着、魚の内臓を解剖しはじめた。
これはなんだ?




