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魔法獣オタク女と料理オタク男の辺境暮らし ~引退した最強魔法使いは、夢だった魔法獣医になって好きに生きる~  作者: コイル@オタク同僚発売中


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9/9

魚の中から見つけたものは

 平らな岩の上に、丈夫な植物の茎で編んだお手製のシートを敷いた。

 防護魔法《ぼうごまほう》と防水魔法《ぼうすいまほう》をかけてあるもので、馬小屋の手術室に使ってるのと同じ物だ。

 どこでも簡易解剖が出来るので家から持って来た。

 置いた魚をしっかりと見るが、


「やっぱり……元からある内臓には見えない」


 内臓複数に跨がって包むように黄色と紫の管が巻き付いている。

 癒着《ゆちゃく》に近い状態だが、こんな広範囲に……?


「海の魚とかでも見たこと無い。いやでも……魚系は正直自信ないな……」


 獣医として勉強したけど魚類はちょっと……もちろん言い訳だけど。

 でもミーアは海が近いし、魚類や両生類を、もう少し学ぶべきだろう。

 土地特有の知識こそ、開業した獣医に必要なものだ。


「この筋……細い」


 私は慎重に筋をピンセットで持ち上げる。

 ものすごく細くて簡単に千切れそうだ。

 剥がしていくとやはり血管に沿っているように見える。

 臓器を繭《まゆ》のように筋が包んでいる状態で、取るのが難しい。

 なんとか形を保った状態で取り、小皿に入れて観察する。

 その瞬間に風が吹いて、シートが動き、土ホコリが飛んでくる。


「! せめて岩陰でやるべきだったー」

 

 時すでに遅し。

 シートを押さえるように風上に座り、観察を再開する。

 小皿の中で筋をメスで慎重に開くと、中から黄色と紫の細かな粒がこぼれた。


「……これ……魔粒《まつぶ》じゃない?」


 大きさは魔粒。

 ピンセットで押してみる。

 割れない、潰れない、粒だ。

 私はその場で指先から小さな炎魔法を出して確認する。

 黄色と紫の細かな粒は、まず黒くなり、その後青色に変化した。

 そう、子白狼の身体から取りだした魔粒は黒かった。

 その後温度変化して「魔法反応あり」の青色になったのだ。


「魚の内臓に魔粒」


 顔を上げて周りを見渡すと、白狼たちは大きな魚を優先して食べている。

 でも、


「!」


 元気な子白狼がいるのだが、その子は小魚を丸呑みしていた。

 魚に付いている魔粒を丸呑みして摂取してるから、子白狼に症状が多いのか。

 そして馬小屋で見た……白狼は離乳時の子白狼に胃で半消化した食事を与えていた。

 この魔粒は温度で性質が変わる。

 親狼の胃の中で温められ、半消化された状態で吐き戻されるなら、子白狼が摂取する頃にはより反応しやすい状態になっている可能性がある。

 私はそれをビビに説明した。

 ビビは魚の内臓を見ながら、


「なるほど。でもな、この魚を白狼に喰うなというのは、無理だぞ。なぜならめっちゃ旨いからだ。さっきも言ったけど、味が深い。もうスープで煮たみたいな味がする。これ喰うなって伝えても無理。てか、お前が思ってるより言葉なんて理解しねーんだよ、動物は! 俺は魔法学校でバリバリ学んだスーパーエリート猫、こいつら野良狼!」


 ビビはそう言って再び打ち上げられた魚を食べ始めた。

 内臓にはやはり筋が見える。

 たしかに動物に美味しいものを食べるなと言っても無理がある。


「……でもこの魚だけ特別なんだよね? ミーアの魚が全部こう美味しいわけじゃないよね?」

「ミーアの魚は全部こんな旨くないぞ。でもこの川魚は旨い。いいもん喰ってるだろ、この魚。なんなら俺より良い物喰ってる可能性ある、グルメ魚」


 いいもの食べている。

 たしかに餌が違う可能性がある。

 その秘密は、この川のどこかにあるはずだ。


「この川の上流。行こう」


 私はシートと道具をカバンに入れて、魔法白狼の所にいき、身振り手振りで「この川を歩いて上までいきたい」と伝えた。

 するとなんとなく伝わったのか魔法白狼は私の前に座った。


 乗れ……と。


 いやちょっと待ってほしい。私は川をしっかり観察しながら歩きたい。

 どんな植物が生えているのか、どこで合流してるのか、なんなら途中の川でまた魚を打ち上げてほしい。

 そして魚を解剖したい。

 私の周りにジリ……ジリ……と20匹の白狼たちが集まっている。

 みんな「いくんやろ」「乗れや」「はよ」という顔をしている気がする。

 怖いっ……!


「ビビ!! 説明して」

「無理~~。でもまあ言ってみる。絶対伝わらないけど、魔法猫と、魔法白狼の謎会話見てろよ」


 そう言ってビビは「ニャオニャオ、シャー、ウニャニャニャ」と猫の鳴き声をはじめた。

 これで伝わるの……? わけがわからない。

 言葉が理解できて話せる魔法動物は、最初から魔法核原基のレベルが違う。

 もうこれは才能。

 生まれた時から決まっている。

 そこから魔法学校に入り(ここに来られる時点で動物として異次元)、学ばないと言語理解できるほど魔法核が磨かれない。ビビは言語特化型の魔法猫で、それこそ近隣国の言葉も理解できる。

 必死に勉強に付き合ったのは死んでしまった私の親友で……ビビがこうやって他の生物と会話してるのを見ると、彼女を思い出してどこか嬉しい。


「ウニャニャニャアアア~~~!」


 しかしこれで?

 猫の歌声披露会みたいになっているが、私を睨んでいた白狼たちがビビの周りに集まっているので、これは伝わったのでは……!

 ビビは歌声会を終えて私を見た。

 その表情は自信で満ちあふれている。

 伝わった?!

 ビビは真剣な表情で、


「無理。全然伝わらない。早く乗れって」

「ねーーーえーーーーーー!!」

「でもとにかくこの川の上流に行きたい、ゆっくり走れくらいは伝わったと思いたい!」

「本当に~~?!」


 さっきは本当に怖かった。

 私は半泣きになりながら、魔法白狼に再び跨がった。

 その瞬間に魔法白狼はビュンビュンと川の横を駆け上がりはじめた。

 ねーーーえーーーー?!

 文句言っても仕方ない。

 川から離れてないだけ伝わってるのを喜ぼう。

 私は必死に川を注視した。

 色も植物も普通に見えるけど……上流に向かってこれは、崖~~~?!


「いやああああ!!」

「上流そう遠くねーな。滝が見えたぞぉ~?」


 慣れたビビは飛んだ瞬間に遠くを見ながら言った。

 怖くて遠くなんて見られない!!


 


 


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