ユリウス様が作るご飯うめー! そして始まる謎
「なるほど。鶏と魚と野菜が一緒に煮てあるんですね、あ……底から根菜が出てくる」
ユリウス様は私が作った『全部入れて煮たら楽だし旨いっしょ? 鍋』を見て絶句していた。
肉も魚も市場で買ってきた内臓なしのヤツをちゃんと使っている。
別々に煮ても良いけど、どうせ煮るなら一緒のが楽だと思う。
ここから適当に食べて最後は煮込みすぎて液体になったのを飲み干せば四日は食べられる。
料理してる暇があったら仕事したい、その一心だ。
鍋が入れてある箱を見て、
「魚の魔法核。なるほど、これを集めて水魔法をかけて入れてるんですね」
「簡易魔道具です。小さくて価値がない魔法核ですけど、まあ集めれば」
この世界の生き物はすべて、体内に魔法核の原基を持っている。
それが育つかどうかは個体差があり、訓練や環境によっても変わる。
魚も内臓横に魔法核の原基を持っていて、魔法魚もいる。
魚なので小さくて魔法核としては使い物にならないが、集めて水魔法をかければ冷却できる。
そこに鍋を入れて冷やし、限界まで中身を食べる、それが私の食生活だ。
机の上で呆れているビビは、
「アルディナは手術が一番好きで、飯はこんなんばっかだ」
「じゃあ僕がこのスープを使って、ご飯作っていいかな。香味野菜も買ってきたし」
ユリウス様はさっき市場で購入していたあれこれを机に並べた。
ビビはそれを見て、
「バターがある!」
「ミーアの山羊バターは美味しいよ。少し酸っぱくて芳醇な香りが……」
「うおおおお、はやく飯を食わせてくれ。王都出てからマジで干した魚と限界鍋しか食ってない!」
限界鍋って何よと思って少しむくれていると、ユリウス様は私を見て、
「ずっとミーアに新しい獣医さんが来てほしいと思ってました。それに魔法使いさんなんて、こんなに嬉しいことはない。頼みたいことがたくさんあります。だから『これからよろしくお願いします』という気持ちをこめて、料理を作らせてもらっていいですか? それを食べながらゆっくり話したいです」
「……はい」
そこまで言われて「鍋でいいじゃん」と言うのは違う気がして椅子に座った。
ユリウス様は台所で香味野菜を切りながら、
「きれいな台所ですね。ここはネルソン夫婦が住まれていたところですね」
「はい、先月まで翼馬を育てていた夫婦が住まわれていたと聞きました」
「ネルソン夫婦はご年配になって翼馬を見る体力が無くなって王都に引っ越したんです。僕はネルソン夫婦と翼馬大好き同盟だったから寂しかった。だから貴女がきて嬉しいです」
「翼馬大好き同盟……それは私も入れます」
「良かった! じゃあここから二人で始めましょう」
話しながらユリウス様はスープの中から鶏肉を出して丁寧に切りわけていく。
そしてむね肉の部分を薄切りにして、香味野菜を刻み、あれこれ混ぜて液体を作り、肉にかけて出してきた。
「どうぞ」
食べると、
「香味野菜がいいですね」
「この野菜はミーア特産のもので、苦みが特徴的で少し入れることで深みが出るんですよ。こっちは香り付けのハーブなんですけど、叩いて匂いを出すんです。こう両手で挟んでパンパンします。こっちの実は甘酸っぱくてシンプルなお肉によく合います。ナイフで潰すのがポイントです。こう横から体重をかけてパシンをやります」
「な、なるほど」
料理語りに少し驚くけど、まあ美味しいから良いか。
町では不機嫌だったビビは味付けされた肉を食べて、
「すげぇぇぇぇ、めっちゃうめえええ、すげえじゃん兄ちゃん!」
と、目を輝かせた。
現金な猫すぎる。
ユリウス様は、魚とスープを取りだして、ほぐしたパンを浸し、羊バターとチーズをのせてリゾット風にしてくれた。
ビビは一口食べて、
「うめぇよ……すげぇよ兄ちゃん……猫が喰うものになってるよ……クソくせぇスープがよ……」
酷い言い方!
次に市場で買ってきた豚肉も焼いて出してくれた。
ビビが、
「いつもアルディナが出す半分丸焦げで、半分生な肉と全然違う!」
「ビビ?」
「皮がパリパリして中が柔らけぇ。兄ちゃんやるねえ~」
「ありがとう、魔法猫ちゃん。ちょっと頼みたいことがあるんだけど、お願いできないかな」
「もっと何か出せ。そしたら話くらい聞いてやるよ」
「ありがとう。君の名前はビビ? そう呼んでもいいかな」
「許してやろう。おい、もっとこの香ばしい皮をよこせ。皮がいい」
「はい、どうぞ」
ビビはユリウス様が作る飯に魅了されて、仕事をさせられそうな事に気がついて無い。
でもまあ、限界鍋より間違いなく旨い。
領主の三男がここまで飯が作れるなんて聞いた事が無い。
良い場所に住んだかもしれない。
私は食べながら思った。
「最近、ミーアの白狼の子どもたちがみんな見たことない皮膚炎になっているんだ」
食事のあと、片付けながらユリウス様が話し始めた。
「狼の皮膚炎ですか。イヌ科の皮膚炎は原因が多く、特定はかなり難しいですよ」
私は食後のお茶を頂きながら言った。
ここに来る前にユリウス様が買ってきたものだけど、苦くて旨い。
王都にいた時に紅茶は飲んでいたけど、違う気がする。なんだか懐かしい味で旨い。
お茶をガブガブ飲みながら、皮膚炎について話す。
ユリウス様は、
「皮膚がかなり爛れる症状が出ている。一匹の魔法白狼の死体が先日見つかって、魔法核が濁っていたのが気になるんだ」
「濁った魔法核……?」
耳をピクリと動かしてすぐ反応したのはビビだ。
白狼の場合は腎臓の横に小さな魔法核の原基があり、それが十分に育てば魔法白狼になる。
魔法核と共に知能も上がるので、死亡率も低くなるはず。
それに濁るのは……。
ビビはユリウス様を見て、
「濁った魔法核は、毒の可能性があるぞ」
「見たことない状態で驚いた、そうなんだ、知らなかった」
私はそれを聞きながら、
「魔法白狼に素手で触れてないですよね?」
「いや……実は魔法核が見えるほど身体が損傷していて、あまりに可哀想だったから、お風呂に入れて手で洗ってしまった。お墓に綺麗な状態で入れてあげたくて」
「なるほど、手を見せてください」
それは動物好きとして間違った行動ではない。
でも、原因不明の皮膚炎……それに魔法核が濁る症状を持つ魔法白狼に触れるのは、良くないと私は思っている。
私は戦争中に、狂ったように暴れる敵側の翼馬を見た。
恐怖心をまったく持たずに突進し、自分の乗り手だった騎士を振り落として、踏み殺した。
その翼馬を私たちは四人がかりで仕留めた。取り出した魔法核は、濁っていた。
本来は心優しい翼馬の異常な行動と、怯えの欠片もない瞳。
私は何かしらの毒を疑った。
その後騎士団を通して各地に注意喚起を出してもらっていた。
でも十分には行き届いていないらしい。
私はユリウス様の手を取り、傷がないか確かめた。
傷口や、炎症を起こしている所は見当たらない。
私は少し安堵して、荷物入れからお手製の手袋を出した。
「これは?」
「豚の皮で作り、簡易な防護魔法をかけている魔道具の手袋です。これから動物の死骸に触れるときは、この手袋をしてください。使用後、薬草液でしっかり洗って干して油を付ければ、かなり長く使えます」
「こんなものが作れるのか。元とはいえ王立魔法騎士団の魔法使いさんはすごいな」
「騎士団にいた頃、死体を扱う人間のために作ったものです。魔法核を濁らせる原因は、まだはっきりと分かっていませんが、私は毒だと思っています。だから素手で触れない方がいい。基本的に原因不明の死に方をしている生き物に触れるときは、これを使ってください」
私に渡されて「そうか、ありがとう。ありがたく使わせてもらう」とユリウス様は受け取った。
そして明日の朝、一緒に皮膚炎をおこしている白狼の子どもが多くいる町外れに行こうと約束した。




