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魔法獣オタク女と料理オタク男の辺境暮らし ~引退した最強魔法使いは、夢だった魔法獣医になって好きに生きる~  作者: コイル@オタク同僚発売中


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初仕事と、出会い

「翼馬《よくば》……いた」


 私……アルディナ・ヘイスティンは、ゆっくりと川沿いを進んだ。

 柔らかい日差しが降りそそぎ、川面がキラキラと輝いて眩しい。

 鳥の囀りが響き、山から涼しい風が吹き、肌を撫でる。

 そんなのどかな景色の中……翼に矢が刺さった翼馬が水を飲んでいた。

 翼から流れた血が、白い翼馬の身体に痛々しい。


「……可哀想に。今、治してあげる」


 私は長い髪をしっかりと縛り、気配を消す魔法陣を出して、静かに翼馬に近づいた。

 翼馬は翼がついた馬で空が飛べる。

 伝令や物資運び、人を乗せて戦うことも可能で、戦場での出番も多く、怪我をしやすい。

 私は真横まで近づいて手を伸ばし、翼馬に従魔法をかけて家まで連れ帰った。


 

「大丈夫、怖くないよ」


 私は馬小屋にシートを敷いた所に翼馬を連れてきた。

 私が使える従魔法はかなり弱く「怪我して弱っている獣を暴れさせない」……その最低限のことしかできない。

 でもここまで連れて来れたらそれだけで良い。


「麻酔かけるね」


 麻酔魔法をかけると、翼馬の力がゆっくりと抜けていく。

 私は身体を支えながら、シートの上に横たえた。

 王立魔法騎士団の魔法使いを辞め、一週間馬を走らせて、ここ……ミーアという町に来た。

 山の中腹に家を買い、魔法獣診療所《まほうじゅうしんりょうじょ》を開業したのは2日前。

 そして今日、役場から依頼がきた。

 それが『川沿いにいる怪我した翼馬を治療してほしい』だった。


 これが私の獣医人生、はじめての仕事だ。


 治療具を差した腰ベルトからお手製の手袋を出して装着、翼馬に触れて傷口を確認する。

 どこまで矢が刺さっているのか、そして翼をどこまで戻せるか。


「……矢が面倒な刺さり方しちゃってるね。取ろうとして暴れたのね」


 私は矢が刺さっている翼の付け根をメスで切開する。

 出血を止血魔法で抑え、見やすくする。


「(この魔法が使える状態で良かった)」


 私は2年前の大きな戦争で、腎臓横の魔法核《まほうかく》……つまり魔法を使う臓器を損傷した。

 そして王立魔法騎士団の前線で戦うことができなくなった。

 戦えるほどの大きな出力は、もう出せない。

 使えるのは出力の低い魔法だけで、手術に使えるのは麻酔と、この止血くらいだ。

 それでもこの2つが残ってくれたことに、心の奥底から感謝している。

 これだけ使えれば、多くの動物の手術が可能だ。


「腱を繋ぐね。少し翼がいびつになるけど、たぶん飛べる、大丈夫だよ」


 傷んだ部分を少し整え、残った腱同士を縫い合わせていく。


「頑張れ」


 手術を終えて3日、翼馬は翼を動かした。 

 矢が刺さっていた右側の翼の向きが変わり、最大加速は出ない状態になったが、飛べる。

 私は翼馬を役場に連れて行き、治療報酬を受け取った。





「ビビ、初収入だよ! 銀貨五枚! 魔道具屋さんでランプ買えるよ」


 私は胸元にいる話す魔法猫……ビビを呼んだ。

 ビビは不満げに胸元から顔を出した。

 そして真っ黒な身体をしならせて、グリーンの目を三角にして、


「なあ、気がついてるか? ここに来てから、俺たちまともな飯全然食べてないってこと!」

「開業したらすぐに依頼あって夢中になっちゃった。昨日適当に煮た鶏食べよっか」

「あれ旨くねーんだよなー……」

「そう言わず!」


 ビビと話しながら歩いていると、役場から出てきた男性に呼び止められた。


「そこのお嬢さん、今治療した翼馬を連れてきた?」

「……ええ」

「翼馬の治療ができるんですか?」

「もうコイツに治療の話をするな、俺は腹減ってるの!」


 胸元でビビが叫び私は笑ってしまった。

 男性はすぐに頭を下げて、


「すまない、お腹が空いている所を呼び止めてしまって。僕はユリウス・グレイヴ。役場に行ったら治療済の翼馬がいて驚いたんだ」


 男性は私より少し若いだろうか……30代前半に見える。

 美しい栗色の髪に、澄んだアイスブルーの瞳が美しく、身なりからそれなりの地位の人間に見える。

 私は頭を下げて、


「はじめまして、アルディナ・ヘイスティンと申します。元王立魔法騎士団の魔法使いです」

「! それはすごいですね」

「いえ、もう騎士団を退いておりますので。5日前に山の麓で魔法獣診療所を開業しました。ミーアは翼馬の一大生息地で、ここで開業するのが夢でした」

「翼馬が好きなんですか?! 僕も大好きなんだ」


 そう言って男性は目を細めて微笑んだ。

 翼馬好き……、ええ、分かります。

 私はこの世界で翼馬が一番好き。

 普通の馬より足が長くスラリとした身体に大きな翼、THE・美人。

 どういう進化をすればこんな姿になるのか、考え始めると止まらない。

 ドラゴンとの混血だという説もあるが、先祖については分からないことばかりだ。


「あはは! 本当に翼馬が好きなんですね」

「……声に出てましたか」

「すごくペラペラ話してました。あ、ルイードさん、おはようございます」

「ユリウス坊ちゃま。またお散歩ですか。領主さまに怒られますよ」

「いいんだよ、僕は翼馬専門なんだから」


 年配の男性が話しかけている。

 ユリウス坊ちゃま……領主さま……そして気がついた……ここはグレイヴ領、この人は領主の息子の可能性が高い。

 私は先週ここに引っ越してきたので、事情が何も分からない。

 私は頭を下げて、


「領主さまのご子息ですか。何も知らず失礼な口をききました」

「いえ、全然フランクに接してもらいたいです。僕はグレイヴ子爵家の三男で、兄さんたちがしっかりしてるから、翼馬の生産管理が主な仕事なんです」


 私は領主の息子だと知り姿勢を正したが、子爵家三男……しかも町人たちに好かれている所を見ると悪い人では無さそうだ。

 ユリウス様は私を見て、


「それで、翼馬を治したんですか? 翼馬は帰巣本能があって、ここで育った馬のほとんどは戻る。でも怪我した馬が多くて僕としては獣医を何より求めていたんです。だからさっき役場で治療済の翼馬を見て、すごく嬉しかったんだ」


 そう言ってパアアと笑顔を見せた。

 翼馬好きの領主の息子……しかも怪我した翼馬を大切に思っている。

 この人……良い人だぞ。

 私は頷き、


「素晴らしいです。私も戦場で怪我した翼馬がひっそりと飛んで消えて行く姿を見て、常に心を痛めていました」

「そうなんだよ、絶対ここに戻るって必死に飛ぶ姿が愛おしいよね!」

「わかります!!」


 そこを良いと思えるなんて!

 私は、


「怪我した翼馬を多く診たいと思い、ここで診療所をはじめました。よろしくお願いします」


 すると視界に大きな手が入ってきて、


「僕より貴女のほうが、この町では求められている人材だと思う。ミーアに来てくれてありがとう。歓迎します」


 領主の息子と握手……一瞬戸惑ったが、差し出された手は顔の幼さとは違い、ゴツゴツとして大きかった。

 それに指先にタコがある。

 これは翼馬の蹄鉄を替える時にできるものだ。

 現場で動いている人間……それだけで信用できると私は手を軽く握り返した。

 するとユリウス様が私の手を見て、


「蹄タコ。君にもあるんだね」

「あ、はい。できますよね、ここに」

「もう分かった、翼馬オタクの会話はもうわかった、俺は腹減ったんだ!!」

「さっきも思ったんだけど、僕、話せる魔法猫、はじめて見たよ、すごいね。魔法猫は多くの動物と話せると聞いたけど」

「ニャニャニャニャニャーーー!」

 

 ビビはわざと言葉ではなく猫らしい鳴き声で怒った。

 私はビビを撫でて、


「治療が忙しくて、まともな食事をしてなくて」

「ではそこの食堂でお食事を一緒にどうでしょうか。ご馳走します」

「実は昨日買った鶏を投げ込んで煮たので、それを食べないと腐る気がします」

「投げ込んで煮た……?」


 私の言葉にユリウス様は少し驚いた。

 私の胸元でビビが、


「アルディナの飯は全て肉の塊を焼くか煮るかだ。腹が減ってるならウチには来ないほうがいい」

「それなら僕に料理させてもらえませんか。ミーアの食材はどれも新鮮で美味しいですよ。僕は料理が大好きなんです」


 子爵家三男が料理好き……?

 子爵家の息子なら身の回りのことは使用人がすべて整えるはずだ。

 料理どころか、服一枚も片付ける必要はないだろう……と戸惑っていたけれど、ユリウス様は役場に繋いでいた馬に乗り市場に向かい、あれこれ買い込み、私と一緒に家まで来た。

 そして鍋の中身をみて、目を丸くした。




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 おー、新連載!  翼馬…ペガサスっぽいやつかな?  飯まず系女子と家庭的男子…&口悪猫
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