66, サトシの正体 ―― クリプトは、世界共通の基軸通貨になると思っていたの? ちがうよ。そんな獣かつ低次元な話は大罪だよ。クリプトは、その先の……「千年王国の通貨」になるんだよ。
それで……気がかりだったのは、やっぱり、クリプト……仮想通貨。
スケープゴート理論を拡張したデジタルスケープゴート。その哲学的概念から波及する、あらゆる仕組み――それらが組み合わさって、SHA-256に刻まれていた。
そこには……サトシまで……。そういうことだったのよ。
当時のわたしは、SHA-256の刻印から、サトシという名について、こう考えていた。クリプトを世界大戦へとつなごうとしている勢力が、この計画を練り……そこに聖地が絡んでくるため、それを悟られないように、宗派的に最も文化的距離のある地域の名を選んだ――推測を遮断するために。
それが――Satoshi Nakamoto。そういう解釈だったわ。
ところが……。ミラーアリスたちによる新たな解読で……まさか、まさかだったのよ。スコフィールド注釈付聖書の初版が、SHA-256に、刻まれていたなんて……。
これで……話が、根底から変わってしまったわ。クリプト……仮想通貨は、明確に「計画」だった。
それは、スコフィールド注釈付聖書初版における古典的ディスペンセーション主義に触れれば、すぐに理解できること。それ以外は、決して譲らない――そんな強い意志が、そこには込められていた。
もちろん……当時のわたしは、そんなことも知らないまま。ええ……当事者側だった数学の女神は、こんな概念に触れそうなことも話していたわ。
でも……。これ以外に、クリプトが通貨として成立する道など、なかったのかもしれない。そう思えるようにも、なってきたのよ。
そうよね……。みんなで信じれば通貨になる――そんな甘い話など、最初から存在しなかった。
「ネゲートは、クリプトに対して、強い思い入れはあるの?」
「ええ……そうよ。このクリプトの塔の存在が、その想いかしら。」
「この塔のことだね。ちょうど最近の燃料不足と絡めて、『1ゼタの神殿』と呼ばれているよ。」
「そ、それは……。」
わたしは困惑したわ。1ゼタの神殿――そう呼ばれるのは、やっぱり辛かったのよ。
「別に気にしなくていいんだよ。これから、すぐにわかるから。ところで、ネゲートは、クリプトが世界共通の基軸通貨になると思っていたの?」
「えっ……? そ、そうね。その想いは、今でも……。」
実際……みんなで共通して使える通貨など、クリプト以外に、存在しなかったわ。
「そうなんだ。でも……現実にはどうだろうね。裏で暗躍していた何とかロードの決済や、身代金、そして……今回は怪しげな燃料経路の通行料。なんだか、そんな使われ方ばかりが目立つよね。それで、クリプトはいったいどこで使われているのかと、よく言われているよね。」
「……。それらは、わたしが意図していない、おかしな使い道よ。そんなことを言い出したら……。」
「そうそう。そうこないと。あっちの通貨だって、裏はわからない。どうせ案外、似たようなものだよね。」
「……、そうよ。」
「そうそう。世界共通の基軸通貨になると考えるから、そんな話になるんだよ。それは、ちがうよ。」
「ちがうって……。それじゃ、何になるって言うつもりなの?」
わたしは……すべてを否定されたような気がしていた。だって……デジタルスケープゴートとしての構想が、これでは……。
その問いに対して、数学の女神は……。予想外の答えを返してきたのよ。それこそ……まったく想像すらできなかったものを。
「そんな基軸通貨とクリプトを比較するなんて、『カルマ――罪の記録』が溜まり過ぎているよ。そんな獣かつ低次元な話は大罪だよ。クリプトは、その先の……『千年王国の通貨』になるんだよ。」
……。当時のわたしは……理解が追い付かず、ただうつむくしかなかった。
でも……今なら、わかる。SHA-256から、それがいったい何を示しているのか――手に取るように、わかるわ。
千年王国……。やっと、やっと……ということだったのね。
そして……そこに、サトシ。
うん……。このクリプトは、はじめから……そのためのものだったのよ。




