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デジタルゴールド ―― 女神に接続された暗号  作者: パランティーリ
第十章:SHA-256に浮かぶ刻印 ―― 神の台本通りに追い込まれた「ふたりの証人」
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58, わたしの役割――今できること。それは……SHA-256の衝突を、織り込ませることだった。

 ……。SegWitの精神が限界に来ていたのは、誰の目から見ても明らかだった。


 何をしても、燃料で追い込まれる。とはいえ……、仕掛けたのは……。


 その限界を見計らって、AggWitが……いったん、攻撃の手をゆるめる。それによって、SegWitは止まる。


 それは……この秩序の再構築という世界大戦以前から、同じ手法でガス抜きしていたことがわかっていたから、今回も……似たやり方が取られただけよ。それでも、期間限定とはいえ止まったことに、深く安堵したわ。わたしも……限界が来ていたのね。


 そして……いつもの、完全勝利宣言。それも予想していたことだけど……、それは……。


 そんなとき、量子アリスから……妙案をもらったのよ。


「女神ネゲート様。一つ……よろしいでしょうか?」

「なにかしら? 期間限定だけど……少しは休めるのかしら?」

「それなら、実は……。」


 なんとなく予感はしていたけど……。ECDSAの続きだったわ。新しいアドレスへの移動などを含むため、それが最優先になる。そこまでは……すでに聞いていた話。でも、今回はその先。そこから先の追加分、それだった。


「ECDSAで、これだけ量子リソースの削減が可能であれば……。すでに進んでいるSHA-256に対する量子アニーリング。これは間違いなく、ハッシュ関数で最初に突破される『衝突』を狙っています。それで……。」

「それで……?」

「確率振幅を削減できる暗号モデルに有効な量子演算。すなわち、寛容型と呼ばれるものです。それが、高精度を要求するECDSAに対しても有効だった。つまり……量子ゲート方式よりも気楽な量子アニーリングで済むことが示されたSHA-256に対しては、そのような寛容的な手法が、より強く効くことを示唆しています。」

「……、それって……。」

「はい……。つまり、ECDSAがあの状況であっても、まずは『衝突』から始まるということです。これを完全に防ぐには、やはり……早急なハッシュ関数の交換が必要です。ところが……このSHA-256は、採掘の経済圏にダイレクトに組み込まれてしまっています。ですから、早急な交換は厳しいのです。」

「……。」


 量子アリスは、さらに続けた。


「ハッシュ関数が破られる。それには二つの形があります。『衝突』と『原像』です。このうち、衝突は比較的早く訪れます。SHA-256に限らず、SHA-1の粉砕が、それを証明しています。実際に……各プロジェクトの進行状況を予想してみても、やはり……あの衝撃的なECDSAの件よりも、先にSHA-256の衝突です。そのECDSAのタイムリミットが三年なら、SHA-256の衝突は二年以下とみるべきで、採掘の経済圏を置き換えるための時間は、絶対に確保できません。間に合わないのです。」

「……。クリプトは、終わったのね。悔しいけど……それも受け入れるわ。」


 そのことは、なんとなく勘付いていたわ。ショアは高精度で難しい。そんなECDSAですら、十年以上という猶予を……失った。それで、SHA-256が無事で済むわけがないもの……。


「そこで、女神ネゲート様……。妙案があります。」

「妙案……?」


 量子アリスの表情が、少しだけ明るかった。だから、これは……。


「幸い、衝突だけでは、クリプトに対して不正な操作などを実行することはできません。それは単に、同じハッシュ値を持つ何かが見つかっただけであり、それだけではクリプトを脅かすことは、絶対にないと言い切れる点が重要です。」

「……、それって!」

「はい。わたしとしては……こうします。次にSHA-256の原像。たしかに、これが量子演算で可能になれば、クリプトは破綻します。ところが……それは、ショアよりも難しいのです。寛容型で対応したところで、それには限界があります。原像については、古典ハイブリッドにも対応できませんから。つまり、ECDSAが三年だったとして、SHA-256の原像となれば十年以上です。そして、クリプトを直接脅かすのは衝突ではなく、原像です。」


 そこで量子アリスは、はっきり言ったわ。


「そのため、SHA-256の衝突を織り込ませる。それにより、SHA-256は衝突後であっても、五年以上の時間的猶予を得ることができます。ここで、その時間差を利用してECDSAを最優先で耐量子へ移行する。そして、新たに得たその時間的猶予で、ハッシュ関数を経済圏ごと交換します。深く考えても……もう、これしか方法はなさそうです。いかがでしょうか?」

「それ……。まだ、方法はあるってことよね?」

「はい、そうです。衝突だけでは、残高がなくなることはありません。不正な処理には使えないからです。ただ……ハッシュ関数に対して寿命を宣告する。それが、衝突です。」


 ……これが。わたしが量子アリスを信用している理由だった。


 ちゃんと、最後まで……考えてくれるから。


 わたしの役割――今できること。それは……SHA-256の衝突を、織り込ませることだった。

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