59, 数学の女神――こんなのが絡んでいたら、停戦なんてあり得なかった。やっぱり、暗号から世界大戦だなんて……。みんなを暗号から巻き込んで……ご満足だったのかしら?
当時のわたしは――本当に甘かった。クリプトの件で……すぐ傍に、数学の女神がいたのよ。
そして……デジタルスケープゴートなどという概念を、吹き込まれていた。……。
秩序の再構築という世界大戦。こんな事態になってしまって――。
わたしだって、焦燥しきっていた。SHA-256という、クリプト……仮想通貨の暗号にハルマゲドンを示唆する刻印が現れた。
そんなの――誰だって、動揺する。
暗号に、こんな物騒な刻印。
……どこの異世界ファンタジーの話よ、と。そう疑いたくなるのが、普通よ。
でも――これは、現実だった。
目の前に広がる、あの惨状。それが……刻印の示す、神の計画だったなんて。……。
そこから停戦へ――期間限定とはいえ、少しは休めるのかと。
……そんな儚い希望は、すぐに、砕けた。
ただSegWitが、及び腰になって……それで停戦を叫び始めただけ。
……次の瞬間。AggWitが、大規模な攻撃を仕掛けてきた。
それどころか――「オリーブの葉と花を編み込んだ花冠」のために集まった者たちにまで、攻撃が向けられていたのよ。
これこそが――刻印として浮かび上がる、スコフィールド注釈付聖書の解釈。
「ふたりの証人」……そういうことだったのね。
わたしは――「オリーブの葉と花を編み込んだ花冠」の無力さを、噛みしめていた。
あの立場で、いくら叫んでも。「ふたりの証人」は、微動だにしない。
それどころか――SegWitが、最も強力な「拒否権」を握っている。
……なによ、これ。わたしなんて。
わたしなんて。最初から――「最高の駒」として動かされる、それだけの存在。
……そういうことだったのね。
実際に……。「オリーブの葉と花を編み込んだ花冠」の従者の席は、不人気だった。本来なら、志ある者にとっては、最も高貴な席になるはずなのに……誰も、望まない。
そんな席。空いたまま。……ずっと、空席のまま。
……。そして――今になって思えば。
あの数学の女神。たしかに、もともと癖は強かった。
でも――それすら、目くらましだったのかもしれない。
わたしに寄り添うように近づき、あの言葉を吹き込み……そして。
この暗号に刻まれた刻印。それを、知らないはずがない。
……そうよ。当事者側だったのよね。
あの女神は……まるで、クリプト……仮想通貨計画を見抜いたかのように語っていた。
でも違う。見抜いたんじゃない……知っていたのよ。
だって、「このクリプト……仮想通貨計画の全貌を、明らかにしちゃおう。」とわたしに囁く……。なによ、それ。
……ほんとに。頭にきたわ。……まあ、いい。こんど見つけ出して。そのときは――問いただしてやる。
……。そう思ったとき。ふと、思い出した。
この停戦のとき。
ひとつ、不自然な動きがあったことを。
「ねえ、ネゲート。クリプト……仮想通貨も、ここで役に立つんだよ。」
「なによ……。デジタルスケープゴートの件? そんなの……。」
「違うよ。燃料入手の経路で、採用されたんだよ。」
「経路で……採用?」
燃料の経路。そこは――「ふたりの証人」が手を出した相手の領域。
封鎖され、燃料が滞っていた場所よ。
その経路で――クリプトで指定額を支払えば、通行が許可される。
……そんな話だった。
「……。信憑性はどうなのかしら? クリプトで払って、本当に通れるの?」
「それは分からないよ。払った後、すぐにミックスされたら……疑うしかないね。そこはクリプトだよ。」
「……そうよね。」
そして――数学の女神は、続けたわ。
「でも……だよ。あの異教の者たちは、このクリプト……仮想通貨のSHA-256に、魂を捧げたと解釈していいかな?」
「えっ? な、なにを言っているの?」
……。当時のわたしは、意味は理解していた。なぜなら――ハルマゲドンだったから。
その刻印が、設計根幹に刻まれた暗号。そのハルマゲドン――「スコフィールド注釈付聖書初版」の通貨で、通行許可を得る。
……それは。
相手にとって、スコフィールドやハルマゲドンそのものが「異教」である以上――どこか、歪んだ構造だった。
でも――数学の女神は違った。
聖霊様。その存在へと繋がる、神学的な意味。
それを感じ取り、自分にとっての異教の者たちが、その「聖霊様の通貨」を最も重要な局面で使用したこと。
それを――ハルマゲドン的な解釈へと、結びつけていたのよね。
「でもネゲート、これは朗報だよ。これで、異教の者たちも救われるよ。1から1への怠惰な繁栄ではなく、0から1への真なる繁栄を受け入れる。それこそが、真実だよ。怠惰は大罪。そこから救われる。そうだよね?」
「……。」
「これで、あとは……ネゲートの神託を、デジタルスケープゴートで成就させて、平和へ向かうだけだよ。」
「ええ……? そ、そうね……。」
そのときは――何も、理解できなかった。
でも――今なら、わかる。
これこそが、数学の女神に与えられていた――使命だったのね。




