55, 確率 ―― いったい、何をいまさら、段階的な耐量子など、するのですか?
秩序の再構築は――やはり、SHA-256刻印につながる宗派の問題が、少しずつ形を持ち始めていた。進むにつれて――普段、何気なく目にしていた報道にさえ、その刻印に直接結びつく宗派の話題が、目立つようになっていった。
つまり――相手は、もう隠すつもりはない。……そういうことだった。聖地を巡る、宗派が絡む。そんな再構築。ここまで極端な内容すら、もはや覆い隠されることはなかった。
そして――。
ECDSAが、比較的容易に破られるという衝撃。その真相については――。当然、量子アリスが最も詳しかった。
彼女は量子の精霊。……当然よね。
「女神ネゲート様……。」
「ううん、いいの、量子アリス。これも……運命だった。それだけよ。」
わたしは、そう答えたわ。でも――量子アリスは、静かに続けたの。
「女神ネゲート様。ECDSAの件を受けて……クリプトは、段階的に対策を進めれば大丈夫だ、という話を耳にしました。ですが……。」
その声は、どこか冷たかった。
「わたしの本質は、確率です。」
……。
「確率――いったい、何をいまさら、段階的な耐量子など、するのですか?」
その一言で――。すべてが繋がった。
「まさか……。」
「……はい、女神ネゲート様。その通りです。」
量子アリスは、淡々と続ける。
「量子というものは、確率です。よって――即座に解を検証できるモデル……暗号に対しては、その『確率の影』に常に注意を払わなければなりません。」
「……。」
「なぜなら、その確率が『解を取り得る領域』に到達した時点で……。それが古典側で即座に検証できるのであれば、何度でも試行できます。そして、そのうち一度は、当たりが出る。」
「……。」
「つまり、それがECDSAであれば――。得られた結果は、そのまま秘密鍵であると即座に確定します。」
……そう。逃げ場がない。
「つまり――。」
「段階的な耐量子という発想は、量子の側から見れば、単に確率を僅かにずらしているだけに過ぎません。」
「……。」
「Δpをわずかに動かす。それだけで、同じ領域に戻る。」
その言葉は、冷酷だった。
「つまり――段階的なんて、耐量子をした『つもり』になっているだけです。」
「……。」
「量子側から見れば、それは笑いながら調整できる範囲の話です。」
……そこまで、言うのね。
「いい加減、この構造すら回避できないのであれば――。」
最後に、静かに……。
「もう……かなり厳しい状況と考えるべきです。」
……。量子アリスが。ここまで冷たく、淡々と語るのは――珍しかった。
でも。だからこそ、理解できた。……そう。
これで――わたしは、ようやく目が覚めたのよ。




