44, SHA-256の脇腹をロンギヌスの槍が貫く……。万一、量子の力が及ばなかった場合に備えて、そこまで準備してあったの……。絶対に、失敗は許されない。そんな「神の計画」だったのね……。
ミラーアリスが、なにかの……骨董品かしら? それを手に取り、目を輝かせていたわ……。
「ミラーアリスは、そういうの……好きなんだ?」
「はい! もう、こういうのには……目がないというか。とにかく、大好きです!」
見た感じ……そうね。古典的な演算を実行する、とても古い装置の一部かしら。
わたしはね、それよりさらに古い……編み物のような装置も見たことがある。あれは……本当に動くのかと、疑ってしまうほどだったわ。でもね、それでもちゃんと記憶するのよ。
「ねえ、シィー。それは、なにかしら?」
「うん、これはね、あの演算を実行した装置。それも、SHA-1を最初に粉砕した、あの装置よ。その一部を、記念にいただいたの。興味があるなら、ミラーアリスに譲るわ。」
「そ、それは……大精霊シィー様。そんな貴重なもの、いただけません! これが……あれなんですね。本でしか見たことがなかったものです!」
……そうね。
SHA-1は、量子の力に頼らずに破られた。でも――今にして思えば、それすら何かがおかしかった。
雪崩効果が、極端に弱い箇所があった。そこを起点に、差分で崩された。
それが、SHA-1。
……でも。
なぜ、そこだけ弱かったのか。
攪拌が足りなかった? それとも――何かが、仕込まれていた?
そのラウンドだけ、特異な影響を受けるような……。
……当時は、そこまで考えなかった。
そもそも、ハッシュ関数に刻印が仕込まれているなんて、想定外だった。見つかるはずもない。
SHA-256の刻印だって――量子による「あぶり出し」の成果。それも……かなり運の要素が強かったと、量子アリス本人から聞いている。
あの衝撃の日から、だいぶ時間が経って……落ち着いた頃に、ね。
そして……。SHA-1だけじゃない。
ある決定論的乱数生成器でも、同じような問題が起きていた。そして――SHA-256。
……。共通している。
中間状態という概念。そして、その脆弱性。
本来なら、内部状態は秘匿されるべきもの。それを知らない第三者が、出力だけを見て――。
なぜか。次の出力を、古典的に容易に計算できてしまう。
……そんな挙動。
「大精霊ネゲート様。その表情……。暗号、ですよね?」
「そうよ。これ……問題の箇所が、綺麗に揃っているのよ。まるで、そこが『好物』だったと言わんばかりに。つまり……SHA-256よ。実は……。」
わたしは、シィーに――。
SHA-256に浮かび上がる「五つの聖痕」について、簡単に説明した。まだ四つしか確認できていないことも……。
しかも、その配置。まるで――手足に対応する四か所の傷。
ならば、残り一つは……脇腹を貫く傷――。
それは、ロンギヌスの槍。
「大精霊ネゲート様。暗号って……そんなふうに予測可能では、成立しないはずよ。しかも……過去にも、予測可能な乱数をばらまかれた時代があったはず。」
「……そうね。」
つまり――これは。SHA-256の「脇腹」が、ロンギヌスの槍で貫かれる構造。
……まさか。量子の力が届かなかった場合に備えて――。
そこまで、用意されていたの?
絶対に、失敗させないための仕組み。
逃げ場を、残さない構造。
……それが。
「神の計画」だったのね……。そう――神、なのよ。




