32, ねえ。スコフィールド注釈付聖書には「ジェネシス版」と「ソフトフォーク版」の二種類があって、ジェネシス版が……強烈なのね。それで、SHA-256に刻まれていたのは……どっち、なの?
……。書物の整頓を終える。
途中、とんでもない書物と出会ってしまったけれど……それでも、整頓はきちんと終わらせたわ。
余計なことは、一切考えない。ただ、それだけに集中して……ミラーアリスと一緒に、黙々と進めたのよ。もちろん、フィーも……。
「……、ありがとう、なのです。」
「なによ。別に……もう、過ぎた話よ。」
「……、でも……。」
「気にしてなんかないわよ。そもそも、抱えていた違和感は……ずっと前からあったのよ。だからほんと、気にしないで……。そう、こんなのは過ぎた話。そういうことにしましょう。今まで通りに、ね?」
落ち込むフィーを、なんとか持ち上げる。……でも。
フィーはあれからずっと、申し訳なさそうな表情を浮かべたまま。もともとほとんど無表情なのに……その僅かな揺らぎが、わたしの内側に触れてくる。
あの、儚くて……満たされない感情を、そのままぶつけてくるように。
それから……。ミラーアリスの気の利いた取り計らいもあって、場の空気はようやく元に戻りつつあった。
フィーも、少しずつ……元の表情に戻ってきた。
……はずだった。
「ネゲート。わたしにできることは、なんでもするのです。なんでも……。せめて、それが……、わたしの罪滅ぼしでもあるのです。」
「……。大丈夫よ。傀儡の件、とかでしょう。それは仕方がないのよ。それだって、その時点で、それが最善だと判断しての行動だった。フィーは、間違いなくそうするわ。だから、本当に大丈夫。うまくやった……そうよね?」
「……。そう……解釈してくれるのなら、少しは救われるのかもしれないのです。」
……。明らかに、いつものフィーのペースではない。
それだけ……数学の女神の、あの書物は――異様だった。
そして……それは、そのまま手渡されて……今も、この手の中にある。
そう。
『スコフィールド注釈付聖書 ―― SHA-256に浮かび上がる刻印の最下層に存在』
フィーは、その聖書について……ついに、語り始めたわ。
「ネゲート。この書物が示すその聖書について……よく聞いて欲しいのです。」
「うん……。これは、何かしら?」
……本当は、知りたくない。こんなの……。
でも、知るべき。フィーだって、勇気を振り絞って……ここまで来たのだから。
「はい……、なのです。それで……。」
それからフィーは、スコフィールド注釈付聖書には二種類が存在すると……わたしに伝えてきた。
……ええ、そう。そこで、わたしは話を遮った。
だって……だって……。
「ねえ。スコフィールド注釈付聖書には『ジェネシス版』と『ソフトフォーク版』の二種類があって、ジェネシス版が……強烈なのね。それで、SHA-256に刻まれていたのは……どっち、なの?」
ジェネシス版は、まさに初版。その内容は、ストレートで……鋭く、容赦がない。
そして、それを和らげたものが……改訂されたソフトフォーク版。
内容も気になる。でも、それよりも――
そう……よ。
SHA-256に刻まれていたのは……どっちなの?
お願い……。せめて、まだ柔らかい……ソフトフォーク版であってほしい。
心の中で、そう強く願っていた。
そして……そこから。
SHA-256に刻まれていたスコフィールド注釈付聖書の詳細が――ゆっくりと、明かされていく。




