110, ステーブルなんてゴミの寄せ集めだろ。ああそうだな、殺鼠剤の原料とでも言うべきか。そんなものに、偉大なる我らの力を与えるというのか。そんな狂った女神候補のなれの果てが、これだ。因果応報だな。
それでも――わたしは、覗き込む。
パランティーリを……、……。
次に映し出されたのは――わたしの、あまりにもむごい姿。
そして――その周囲で、嘆き悲しむ者たち。
……そんな映像だった。さらに、場面が切り替わる。
今度は――わたしの死に、涙を流す者たち。
その中には――フィーがいた。……泣き崩れていたわ。
……ちょっと、なによ。本当に――なんなのよ、これ……。
そして、ふと――わたしは気づく。
……そうだった。首元の傷跡へ、そっと手を当てた。
なんだろう。これって……。
「なんなのよ、この続きは?」
わたしはまた、数学の女神へ詰め寄った。
「わたしだって、こんなの見せられて……。本当に、黙ってなんかいられないわよ?」
「……。そうだね。」
数学の女神は、静かに答えた。
「でも、見るべき場所は、そこじゃないよ。」
……。
「よく見て。」
その声は、異様なほど冷静だった。
「悲しむどころか――笑っている者たちがいるよ。」
「……、えっ……。」
わたしは、強い恐怖を覚えながら――数学の女神が示した存在へ、意識を集中させた。
……そうね。これは、見逃しやすい。
精神を、そちらへ合わせなければ――その情報は、得られない。
……パランティーリは、そういう仕組みだった。……。
そこには……腕を組みながら――笑っている者たちがいた。
そして、何かを話している。……いったい、なによ……。
「ステーブルなんて、ゴミの寄せ集めだろ。」
……。えっ……。
「ああ、そうだな。殺鼠剤の原料、とでも言うべきか。」
その言葉に、背筋が凍った。
「そんなものへ、『偉大なる我らの力』を与えるというのか。」
……。
「そんな狂った女神候補の、なれの果てが――これだ。」
な、なによこれ……。そして――。
「因果応報だな。」
……。何となく、だけど。わかってしまった。
……そうよね。
わたしのことが、面白くない勢力だって存在していた。
ええ、ステーブルへ顧客を奪われる。そんな、あまりにもわかりやすい理由。
だから――ステーブルへ、「お墨付き」を与える存在が邪魔だった。
……そういうことよね。
殺鼠剤は、殺鼠剤らしく。
「遊び」程度で止めておけ。
これ以上、調子に乗るな。
そして――この先も、「遊び」の範囲なら面倒を見てやる。
……きっと、そういう話だったのでしょうね。……でも。
これって――いつの話なの?
……。
なにか、おかしい。
これって、やっぱり……。
そう。わたしが追い込まれた、「あの日」。
その先の出来事のような気がする。
「ねえ。」
「……。」
数学の女神が――珍しく、黙り込んだ。そして――。
「……その続きだよ。」
小さな声だった。
「それが、『真実』なんだよ。」
……。
「……、……、……。わたしの……不手際だったんだよ。」
「えっ?」
不手際……?
なんだろう。急に――空気が重くなったわ。
……でも。気になる。
わたしは、そのまま精神を集中させ――映像と、さらに深くシンクロした。
「まったく――懲りない女神候補でしたよ。」
……。
「でも、こうして先回りして始末できたのは、何より幸運でしたね。」
「ほんとだよ。」
それに、別の声が続く。
「君の素晴らしい仕事と、創造神へ感謝する。ところで……。」
「ああ、それなら大丈夫です。」
……。
「まさか、『真実を映し出す石』が、あんな者の手へ委ねられていたとはね。」
その言葉に、わたしは息を止めた。
「さっさと抑え込んで、例の石を一つ、拝借しただけですよ。」
……。
「一つでも奪えれば、あとは簡単です。」
そこには、冷たい笑い声。
「奪った石から、『真実』として、我らの敵を映し出してもらう。」
そして――。
「それを始末する。」
……。
「最小限で済みましたよ。実に、楽でした。」
「騒ぎには、なっていないな?」
「はい。問題ありません。」
……。
「ギャーギャーとは騒がれましたが――あの者は、数学以外に特別な力を持っていませんでしたから。」
……。
「それで――その者は、今どこに?」
ええ……。
「いつまでも、封印しておけないだろう。」
「はい、ご安心ください。」
その返答は、あまりにも軽かった。
「今回の件は黙っていろ。さもなければ、『次の犠牲者はフィーだ』と、強く促してから解放しました。」
……。
「ははは、即座に観念したようで、楽勝でしたよ。」
そして――。
「まったく。こんなにも簡単に事が運ぶとは。」
……。
「それはそれで、拍子抜けでしたがね。」
……。
これって――そういうこと、だったの。
数学の女神は――ずっと、うつむいたままだった。
……でも。それでも。
わたしは――こうして、ここにいる。




