第93話『Enduring memories』秘密基地の午後
一人で " 離れ " に残り、二階に上がっていたジェンミは、リビングに降りてきて窓辺に向かい、そのテラスのドアを開け放った。
そよぐ風に耳を傾けていると、遠くから賑やかな子供たちの声が聞こえてくる。
ジェンミは玄関先に向かい、近付いてくる声にドアを開き、子供たちを招き入れた。
「いらっしゃい! ようこそ──ランドルフ邸の秘密基地へ!」
母に言われて靴を脱いだ子供たちは、リビングのドアを覗くと、目に入った『アムトラック』の大きな箱をめがけて走り込んできた。
有紗に続いて戻ってきた玲音が小脇にETを抱えている姿を見て、ジェンミはまた笑い出す。
「あはは、やっぱり連れてきたんだ?」
「俺じゃねえぞ! こいつらが連れて行けって言うから……」
「あはは。ほらね、言っただろ? もうレオはETとは切っても切れない仲になってるんだって」
「うるせえ! 全部お前の策略じゃねぇか!」
その様子を見ながらにんまりしている有紗を、玲音が睨み付ける。
「お前はもう笑うな! さんざんコケにしやがって! いい加減飽きろ!」
「えへへ、ごめん」
ペロッと舌を出す有紗の後ろから、司と共に夫のジェームス・ウォーレンがにこやかに入ってきた。
「へぇ、ここはこんな造りになってるのか! ここまでの道のりも、何だか隠れ家みたいで楽しかったよ」
部屋を見回す夫に、司も頷く。
「ホントよね? まるで探険している気分だったわ」
「ああ、所々に日本らしさが感じられて、なかなか趣がある家だね」
ウォーレン夫妻の言葉に気をよくしたジェンミが、二人をダイニングテーブルに案内する。
「さぁ、おかけください。実はね、奥に和室があるんです。押し入れには将棋盤もあって」
「ほお! 後で見せてもらおう!」
「ちゃんと襖の入った押し入れなんですよ。Mr.ウォーレン、将棋は?」
ジェームスは頭に手をやる。
「いやぁ、チェスは嗜んでるが、将棋はまだ……そうだ! ジェンミ君は麻雀が得意だって聞いたんだが、本当に?」
「ええ。そういった類いは、昔から得意分野で」
ジェンミがそう答えると、ジェームスは目を輝かせた。
「実は……うちに凄腕の麻雀士が居てね」
司が瞬時に目を見開いて、横目で夫を一瞥した。
「やだジェームス! そんな言い方しないでよ!」
「はははは。全く歯が立たなくて、困ってるんだよ。是非ともジェンミ君にご指南願いたいねぇ」
ジェンミはにこやかに胸を叩く。
「ええ、喜んで!」
そんなジェンミに、司が威圧的な視線を向けた。
「あら? それって " 私への宣戦布告 " と受け取っていいのかしら?」
「もちろん! 望むところだ!」
「ふーん、手加減しないわよ?」
玲音が咄嗟に首をすくめる。
「なんか……密かに殺気を感じるのは俺だけか?」
「いえ、私も……」
同調した有紗に、司が向き直った。
「ちょっと! 何オーディエンスの雰囲気出してんのよ! あなたたちも参加するんだからね!」
「えっ?! ええ……」
見据えられた玲音も、困惑の表情を浮かべる。
「はっはっは。また次回の楽しみができたよ!」
そんな中、ジェームスだけが愉快そうに笑っていた。
「つーか、ジェンミ。お前、なんでこの家の間取りに詳しいんだ?」
「ああ、さっきレオとツカサが出て行った後に、この家の中を散策してみたんだ」
玲音が階段を見上げる。
「二階の部屋もか?」
「ああ、行ってはみたけど……鍵がかかっててさ。ボクが預かった鍵の中には当てはまるものがなかったから入れなかった。だから一階だけ」
「そうか」
「うん」
ジェンミはそう頷きながら玲音から視線を外し、そっと階上を見上げた。
有紗とウォーレン氏が、子供たちに混じって童心に返ったかのように一心にレールを組み立てはじめる。
「あらあら、ジェームスまで夢中になってるわ」
「あはは。アリサも子供たちと同等だよね? 『ディズニー・ワールド』の時みたいだ」
司はすかさずその言葉に便乗した。
「有紗、『ディズニー・ワールド』でもはしゃいでたんだ?」
ジェンミは浮上する思いを押し固めるように、笑顔で頷く。
「まぁね。なんせボクという極上のプランナーによる、完璧なエスコートだったわけだから?」
「まぁ、羨ましい!」
玲音がだんだんと組み上がってくる鉄道模型を眺めながら静かに言った。
「いいもんだな。十数年の時を経て遊んでもらえて。おもちゃも喜んでるだろうよ」
「そうだね。こんなふうにさ、玲音とETも、きっと長い付き合いになるんだろうね」
「はぁっ?!」
ジェンミの言葉に、玲音は訝しい表情で振り返った。
「十数年後にはレオの子供とかボクの子供が、ロイとジェイクとライアンに遊んでもらってさ、その傍らにはこうしてETが変わらない姿でそれを見守るっていう……いいよね、" 受け継がれていく " って!」
「おい! まてまて! 俺に一生コイツと共に暮らしていけって言うのか?」
「当然だろ!? ボクが運命の出会いをさせてあげたんじゃん! レオは幸せ者だよ?!」
「お前なぁ……俺ごとおもちゃにするなっーの!」
「はぁ? なに言ってんだか?! ねぇ聞いてよツカサ! レオってさ、ボクの思いをちっとも受け取ろうとしないんだよ。こんなにレオを思って、ラブコールを送ってるのにさ」
「は? ウソつけ! お前はいつでも俺をからかって遊んでるだけだろうが!」
司がたまらず笑いだした。
「あはは! 本当にこの家は退屈しないわ!」
玲音が眉をしかめる。
「はぁっ!?」
「有紗がよく " トムとジェリー劇場 " って言ってるけど、まさしくあなたたちにぴったりな表現よね?」
「おい、ツカサまで……やめてくれよ」
玲音はガクッと肩を落とした。
「どうして? 楽しいじゃない。ウチの子だって喜びそう」
ジェンミが悪びれもせずに口を挟む。
「そうだよ! いっそのことビッグファミリーになっちゃう? ツカサをママって呼ぶことになっちゃうけど?」
「あはは。こんなに気が利くイケメンの息子たちなら、大歓迎よ!」
「そう? なら、商談成立だね!」
玲音が首を振りながら、あきれた表情を向けた。
「はぁっ?? ワケわかんねぇ……勝手に言ってろ!!」
司とジェンミは、その玲音の辟易とした表情を見つめながら、顔を見合わせて笑いだした。
第93話『Enduring memories』秘密基地の午後 - 終 -




