第79話『Special Gift』笑い声が降りそそぐリビングで
インターホンが鳴ってジェンミが玄関に走り去る姿に、玲音と有紗は首をひねる。
「そんなに荷物が届くことが嬉しいか?」
「まぁ……お土産を買ってるから、早くプレゼントしたい気持ちも解るけどね」
ジェンミは子供のような足取りで、宅配業者を引き連れてリビングへ戻ってきた。
「Over there, please」
有紗も玲音も目を丸くする。
「え!?」
「なんだあれは!?」
スーツケースとは別に、リビングの中央には存在感を放つ巨大なダンボールが置かれた。
「え……私にもわからない」
「は? 一緒に旅行してんのに知らないのか?」
「うーん……なんだろ?」
「Thanks」
サインをして業者を見送ったジェンミが、満面の笑みで二人を振り返った。
「レオ、アリサ! こっちこっち!」
二人は半信半疑で近づく。
「ジャジャーン! レオ! とっておきのお土産だよぉ!」
両手を広げながら、ジェンミは声を弾ませた。
「は? 俺に?! なんだこれ」
「え……ジェンミ、私、知らないけど?! いつの間にこんなに買い物を?」
「お前なぁ、一体どんだけ土産を買い込んだんだ?! ウォースアベニューの全店にでも配る気か?」
ジェンミは涼しい顔で二人に微笑む。
「いや、レオのお土産だけしか入ってないけど?」
玲音は呆れたように両手を広げる。
「は! こんなデカイ箱いっぱいに買ってこられても、食い尽くせるわけないだろうが!」
「え? 何を想像してるの?」
「クランチチョコだろ? 俺の好物の」
ジェンミは白々しく顔をしかめ、首を横に振る。
「あ……ごめん。それは買ってないんだよね」
「はあっ?! なんで買わねぇんだよ! 俺の好物だって知ってるだろうが! じゃあ……いったい何なんだ、これは?」
訝しい表情の玲音に、ジェンミは屈託なく笑いかける。
「まぁまぁ開けてみてよ、とっておきのお土産なんだからさ!」
「ったく、デカすぎるっつーの! なんだこれは……」
テープを剥がし、ブツブツ言いながら開いた箱の中を覗いた玲音が、一瞬で凍りつく。
「はっ……?!」
「え? なになに?」
有紗が半信半疑で近付いていく横で、ジェンミが微笑みながらまくし立てた。
「レーオ! 早く出してあげなよ、ププッ」
吹き出すジェンミを玲音がギロッと睨むのを見て、有紗はまた首をかしげた。
「え? " 出してあげる " ってどういうこと?」
「はぁ……」
玲音は力なく大きなため息をついた後、覚悟を決めたように息を吸い、長い腕をダンボールの奥深くへと差し入れると、中身もろとも一気に引き抜いた。
「えっ!? ええーっ!!」
有紗が驚きの声を発し、しばしの沈黙のあとに大笑いし始めた。
「あはははははは」
「あはははははは」
ジェンミも笑いだし、二人はとその場にしゃがみ込む。
「あはははっ、ちょっと! 待ってよ?! ジェンミ、これはどういうこと?! あははは」
玲音は引き抜いたポーズで固まったまま、抗議の声をあげる。
「ジェンミー!! ふざけやがって……なんで " 等身大のET " がここにいるんだっ!」
「あはははははは」
「あはははははは」
「こんのやろう……笑ってねぇで、説明しろっつーの!」
玲音が等身大のETのぬいぐるみを小脇に抱え仁王立ちする姿は、二人が伏せた顔をあげる度に笑いを誘い、肩を震わせ続ける有紗の笑いもしばらく止まる気配がなかった。
「玲音……そのETが……玲音のことをつぶらな瞳で見上げてて……あははは! もうダメ!」
「くそ……笑いすぎだろ!」
「あはは……いやぁ、これはアリサがさぁ……」
ジェンミの言葉に有紗は笑いながら反論する。
「え!? 私じゃないでしょ!」
「いや、アリサだよ! " この子、連れて帰りたいわぁ " ナンテて言うからさ。プッ!」
「確かに言ったけど……そんなの冗談に決まってるじゃない! だって! あはは」
玲音が憤然とした表情で有紗を睨む。
「だったらお前の部屋で飼育しろよ」
「それはダメよ、夜中に目があったらビックリしちゃうじゃない?」
ジェンミが玲音とETを交互に見ながら息を整える。
「ふふ……レオさ、あの窓からコイツといっしょに月でも眺めたらいいんじゃない? 絵になると思うけどなぁ……ふふふふ」
「あははは、ダメよ、想像したらもう、あははは」
「おまえらぁ……!」
有紗が目尻を拭いながら首を振った。
「私は知らなかったのよ、だって本当に買っちゃうなんて思いもしなかったし……あはは」
「だってさ、パークから引き上げるのはちょっと寂しいけど、うちに帰ればニューアトラクションが待ってるって思ったら、またひとつ楽しみが出来るじゃん? 旅の思い出としてさ」
その言葉に玲音が食ってかかる。
「思い出ならお前が持ってろよ!!」
「だ・か・ら、お土産なんだって! 『ディズニー・ワールド』にいけなかったレオへのサプライズさ」
「土産の領域を越えてるだろうが!! びっくり箱かよ!」
「あははは! ホントね、まるでJack-in-the-Box!」
「くっそ……おもちゃにしやがって……」
玲音が渋い面持ちで、等身大ETを持ち上げ、その表情を確認するように顔をつきあわせると、有紗とジェンミはまたソファーに倒れ込んで大笑いした。
「もう……いい加減にしてくれ……」
「あはは、それはこっちのセリフだよ!」
「ホントよ! シュールすぎる! あははは」
ETを抱き抱えたまま魂が抜けたように立ち尽くす玲音を無理やりソファーに座らせたジェンミは、笑い涙を拭ぐう有紗も隣に座らせて、カメラのセルフタイマーをセットする。
「なんで写真なんか……」
「つべこべ言わない! レオ! そんな顔しないでさ、しっかりレンズの方を見てよ! ほらほら来た来た One, two, three! 」
シャッター音が、軽やかな音を立てる。
燦々と陽の光が差し込むリビングには、和やかな空気と共に、華やかな笑い声がいつまでも響いていた。
第79話『Special Gift』笑い声が降りそそぐリビングで - 終 -




