第70話『Orlando Echoes』ユニバーサル・スタジオ・FLORIDA
有紗とジェンミはフロリダの『ユニバーサル・オーランド・リゾート』で一日を過ごした。
その中の『ユニバーサルスタジオ・フロリダ』と『アイランズ・オブ・アドベンチャー』でアトラクションを堪能した二人は、多くのショップが立ち並ぶ『ユニバーサル・シティウォーク』へと徒歩で移動する。
「ねぇジェンミ、最高にスリリングな一日だったよね!」
「ホント! 昨日の『ハリウッド・スタジオ』も含めたら、一体いくつライドに乗ったかな? しかし……アリサって、ホントに絶叫系でも微動だにしないよねぇ?」
有紗はあからさまに嫌な顔をした。
「ちょっと! そんな言い方しないでよ! そういうジェンミだって、私に負けないくらい無邪気に楽しんでたと思うけど?」
「あはは。まぁね。ボクも子供の頃から乗り物好きでさ、三半規管が弱いレオとは違って、絶叫マシンのはしごをするタイプだったから」
有紗が笑いだす。
「フフッ、玲音は苦手なんだ? なんかわかるかも」
「うん。平気だって言って乗るんだけど、いつも顔が引きつっててさ。終わったら真っ青になってるくせに " なんともない " とか言いながら、だんだん機嫌が悪くなるんだよ。だったら最初から乗らなきゃいいじゃんって」
「あはは。強がっちゃうんだ? 素直に無理って言っちゃえばいいのにね。でも……ちょっと気持ちはわかるかな」
「え? なんで?」
「だってジェンミみたいな万能な人がとなりにいたら、少しぐらい苦手なことでも頑張らなきゃって思っちゃいそうだもん。男の子同士だから意地も張っちゃうだろうしね。まぁ玲音は、そうやって色々なことを克服したりしてきたのかなぁって、見ててなんか想像できるの」
「そう? ボクにはわかんないけどね。アリサって、レオのことよく見てるんだ?」
「え? そういうわけじゃないけど……私も " そっち側の人間 " だったのよ」
「そっち側?」
「うん。万能な人の側にいたから……最初は自分の無力さに何度も悔し涙をのんで、その人に刺激を受けながら色々なことにチャレンジして。飛び込んでみたら思いのほか自分にも出来るんだって知ってからは、一人で勝手にその人に挑んだり、勝手に感謝したりしてた。でも、やっぱりまた自分だけ次の壁にぶち当たったりするから悔しいし、恨めしいし。ずっと無理して、背伸びして、ようやく成功しての繰り返しだったわ。あの頃は、その人ありきの自分だったんだなぁって思う時がある。玲音もきっとそんな気持ちになったりするのかもって」
ジェンミは俯いたまま静かに言った。
「そうかな……? レオは……ボクのこと、そんなふうには見てないよ」
有紗は眉を上げる。
「どうして? 玲音はジェンミのこと、心底理解してると思う。あんなに信頼してるんだし。気の置けない相手だからこそ、自分もカッコよくいたいって思ってるんじゃないかな? 私からはそう見えるけど?」
「ふーん。レオのこと……そんなによくわかるんだ? ボクは……」
その消えゆく声に耳を傾ける。
「え?」
「あ……ああ、何でもない。それより! 今夜はさ、『マジック・キングダム』の花火を観に行くだろ? 早めにディナーを済ませてさ」
「そうよね! 最後の夜だもん、間近で観ないと!」
「だろ? じゃあここで夕食をとろう! この『ユニバーサル・シティウォーク』のレストランって、『ハードロックカフェ』とか、寿司とバーガーが食べられる店とか色々あるんだけど、カリスマシェフがいるって噂の名店があってさ。アリサが喜ぶかなって思って、さっき予約しておいたんだ」
「そうなの?! ありがとう! いつもながら、お見事!」
有紗の誉め言葉に気を良くしたジェンミが得意気に胸を張る。
「ニューオリンズの料理って、日本人の口に合う味付けだと思うんだよね。きっとアリサも気に入るはずだよ。その前に! 一件、外せないショップがあるからさ。まずはそこで、ショッピングだ!」
ジェンミに連れられて向かったのは、全米のプロバスケットボールリーグがテーマの『NBAシティ』
約十メートルもある巨大なバスケットボール選手のモニュメントが目印の楽しい外観に、店内に入れば大型スクリーンでNBAの試合が放映されているエキサイティングな空間だった。
NBAのチームロゴや選手たちのカラフルなグッズが、ところ狭しと並んでいる。
「ほら、ちょうど今試合してるのが『オーランド・マジック』だよ。まあ……アリサの手帳に書かれていた選手は、さすがに一人もいないけどね」
画面を見上げながら、有紗は恥ずかしそうに首をすくめた。
「やっぱり……そうなんだ?」
「実はここ数年、わりと低迷してて……全然勝ててなかったんだけど、スター選手が移籍してきたから今年は期待値が上がってるんだ。オーランドといえば、この『オーランド・マジック』と、あとは『マイアミ・ヒート』なんだけど……わかる? アリサ、NBAに詳しいわけでは……ないんだよね?」
有紗はまたうつむき加減でこくりと頷く。
「バスケってさ、ルールもわかりやすいから応援しやすいだろ? 加えて、スリリングでスピリッツ溢れるスポーツだと思うんだよね。ボクもレオも学生時代は、毎日がバスケ三昧の日々を送っててね。あの時はまだ『マジック』も強くて、本当にNBA選手になりたいなぁなんて話したことだってあったんだよ」
「そうなんだ? 二人とも運動神経がいいから、その気になれば……」
「いやいや! こっちじゃあ、もうバスケのレベルが高すぎるからさ、とてもとても及ばなかったよ。なんせ二メートル越えもゴロゴロいるし、年俸数千万ドルのスター選手がいる世界だから」
二人はオフィシャルグッズを見ながら店内を楽しんだ。
「玲音にお土産って、買ってないわよね? ディズニーのファンシーな物はちょっと……って思ってたんだけど、このNBAのショップなら、玲音の喜ぶものもありそうじゃない?」
「そうだね、じゃあ何か選ぼう。たださぁ……実はレオにはもう、とっておきのお土産を買ってあるんだけどなぁ」
「ええっ?! いつ?」
「あ……『ユニバーサル・スタジオ』でね」
「ええ?! そんなの聞いてないよ?!」
「ふふっ、アリサも楽しみにしててよ! なんせ―― "とっておき " だからさ!」
「サプライズなのね? そうなんだ……わかったわ」
有紗は半信半疑な面持ちで微笑みながら、カラフルなNBAグッズに手を伸ばした。
第70話『Orlando Echoes』ユニバーサル・スタジオ・FLORIDA - 終 -




