第63話『Fireworks Reflected』初日の夜のサプライズ
『ウォルト・ディズニー・ワールド』最高峰の直営ホテル『グランド・フロリディアン』
『マジック・キングダム』から早々に引き上げ、豪華なホテルの一室に入ると、有紗は興奮ぎみに部屋中を撮影したあと、ジェンミに促されて窓辺へ向かう。
ジェンミがザーッとカーテンを開けると、眼下にはさっき船で渡ってきた湖が広がっていた。
正面に見覚えのあるシルエットを見つけた有紗は、頬を高揚させてジェンミの方を向く。
「もしかして……あれ、シンデレラ城?」
「そう」
ジェンミが時計を見る。
「もうすぐだ、食事を始めよう」
先にバンと乾いた破裂音が響き、続いてパノラマの窓いっぱいに花火が咲いた。
「ウソ! ここから『マジック・キングダム』の花火が見られるの?! すごい!」
「いい眺めだろ?」
「うん! 贅沢だわ」
二人は食事とワインを楽しみながら会話を弾ませる。
「なんだか玲音に悪いわね、こんなに楽しんじゃっていいのかな?」
「なに言ってるの、玲音の出張先はニューヨークだよ? 今頃は美女に囲まれて楽しくやってるんじゃない?!」
「なるほど……そういう理屈なのね? 余計な心配だったわ。じゃあ、乾杯しましょう」
そう言って有紗はシャンパンを持ち上げた。
「お料理もサイコー! ねぇジェンミ、私が好きなものをオーダーしてくれたのよね?」
「いや、メインだけだよ。フォアグラが好きって言ってたから」
「ありがとう! 一通りお料理も撮ったから、今度は私も撮って!」
「いいよ」
ジェンミは料理に窓越しの花火も入れて撮ったあと、有紗を窓辺へ誘った。
「ほら、記念に一枚!」
有紗の隣に立って、その肩を抱きながら自撮りする。
「こんな風に二人で写真を撮るなんて初めてね」
「そうだね。あの家にいたら、なんかいつもコソコソしてる感じだからさ、なんとなく写真を撮るなんて気持ちにはならなかったし」
二人は満足のいくまで何枚も撮影した。
席に戻ると、有紗はデザートに舌鼓を打つ。
ジェンミがプレートに視線を落としたまま尋ねた。
「ねぇアリサ、昨日は……さ」
「ん?」
「スタッフの……人たちと一緒だったの?」
「いえ、カメラマンさんだけよ」
ジェンミが顔を上げた。
「へぇ……二人きり、だったんだ?」
「ええ」
有紗は気に留める様子もなく、窓の外を楽しみながらフォークを口に運ぶ。
「ああ……そっか、その人って、この前レオママに引き合わされた日本人だっけ?」
「そうなの。私が入社した時から『月刊ファビュラス』の専属カメラマンだった人でね。創刊の時からずっとファビュラスを支えてきた人なの」
「へぇ……どんな人なの?」
「どんな? ん……どう言ったらいいのかな……まぁ、何でもはっきり言ってくれるから信頼できるし、センスもいいの。繊細な写真を撮る人でね、意外と女子力が高いのよ」
「ええっ? そんな風には……」
「ん? " そんな風 " って?」
ジェンミは思わず息を吸い込む。
「あ、いや……す、数年ぶりの再会だったんだよね?」
「ええ。もう何年前になるかな……日本を離れてニューヨークの『ミラージュメイ』の専属になって。でも今年からは、フリーランスに転向したんだって。それで『ランドルフ』とも契約したんだって」
「へぇ、アリサがアメリカにきたタイミングでか……偶然だね。いや……偶然じゃないのかも」
ジェンミの囁きに、有紗が首をかしげる。
「ん?」
「あの人ってさ、ホントはアリサのこと……」
「あの人?」
ジェンミはまたもや犯した自分の失言に辟易としながらも、笑顔をもって気持ちを立て直した。
「あ、いや……なんでもないよ。そ、そういえば、今日の写真はさ、プロのカメラマンほどじゃないかもしれないけど、けっこういいものが撮れたと思うんだよね? どうかな?」
「うん、私もそう思ったわ! ジェンミってホントにセンスもいいし、器用なのよね? " こんな感じにして " って私が抽象的に言っても、ちゃんと汲み取ってくれて……バッチリな答えを用意してくれるんだもん」
嬉しそうに話す有紗の顔を見ながら、ジェンミの表情もほころんだ。
「ホントに『ファビュラス』に欲しいくらいの、優秀な人材だわ!」
「え……優秀な……人材?」
ジェンミは声を落とす。
――それだけ……?
有紗に届かないような声で呟いた。
「え?」
「あ……ううん。ほら!」
ジェンミは繕うように顔を上げて、有紗のグラスに赤ワインを注いだ。
食事が終わり、テーブルにはワイングラスだけが置かれた。
ゆらゆらとオレンジ色の炎を揺らすキャンドルを挟んで向かい合って座りながら、幾分ハイペースでグラスを傾けるジェンミに対して、有紗は今夜はあまりグラスを進めようとはしない。
「アリサ……」
ジェンミの神妙な声をかき消すほどに、有紗は上機嫌な声でジェンミ尋ねる。
「ねぇ! 明日は『アニマル・キングダム』に行くの?」
「え、ああ……そうだね。行こう」
「わぁ、いよいよ新境地! 動物を見ながら、まったりと過ごせそうね!」
「……そうだね」
フッと溜め息をつくと、ジェンミは顔を上げて明るく話し始めた。
「明後日は『ハリウッド・スタジオ』に行こうか? アリサの好きそうなアトラクションもいっぱいあるしさ!」
「うん! 本場の『タワー・オブ・テラー』は外せないしね?」
「うん。あとは『ユニバーサル』か……二つとも回れるかな?」
「ん? 二つだっけ?」
「うん。『ユニバーサルスタジオ・フロリダ』と『アイランズ・オブ・アドベンチャー』だよ」
「そっか……ホント、『ディズニー・ワールド』って広大よね」
「ホント。今回はプランにないけど、『ケネディ・スペースセンター』も久しぶりに行きたいな」
「確かに! いいよね?!」
「ホントはショッピングも入れたかったんだけどさ、詰め込みすぎると疲れちゃうだろ? だから、また近いうちに " 第二弾 " を計画しようよ」
「そうね! 今度は玲音も誘って」
「え、ああ……そうだね」
ジェンミは伏し目がちに笑った。
「アリサ、ワイン、まだ飲むでしょ?」
有紗は小さく首を振る。
「あ……今夜はもういいかな? 明日も早くから行動するでしょ?」
「そっか……まぁ……そうだね、疲れを残しても良くないし、まだまだ先は長いわけだから」
「ディズニーの旅は始まったばかりだもんね。じゃあ、そろそろ休むわね。おやすみ」
そう言ってサッと立ち上がった有紗は、空のグラスを置いたまま、ドアの向こうに消えていった。
ジェンミは残りのワインを一気に流し込んで、ゆっくり立ち上がると窓際に向かう。
真っ暗な湖面を見下ろそうとカーテンを開けると、そこに映った自分の表情に驚愕した。
ジェンミは、目を背けるように即座にカーテンを閉める。
――なんだよ……まだ始まったばかりだろ。焦ってどうする……
疲弊した表情を浮かべながら大きく息をついたジェンミは、有紗の部屋のドアを一瞥して、反対側の自分の部屋に入っていった。
第63話『Fireworks Reflected』初日の夜のサプライズ - 終 -




