第62話『Wrapped in the Magic of the Kingdom』夢の国マジック・キングダム
フロリダ、オーランド。
ウォルト・ディズニー・ワールド直営の『オールスター・ミュージック・リゾート』
このホテルの『7010号室』で一人目覚めた有紗は、早朝のチェックアウトに向けて手早く身支度しながらも、部屋の中を見回す。
――数年前のここでの時間……
思い起こすと胸が熱くなるも、瞬時にその思いは鋭利な剣のように心を突き刺してくる。
目の奥にぎゅっと痛みを感じるも、心の決壊を破らぬようにと、必死でそれを堪えた。
想いのすべてをトランクにしまい込み、もう二度と足を踏み入れることはないこの部屋に、そっと別れを告げる。
今日の待ち合わせの場所は『マジック・キングダム』のエントランス。
有紗を見つけたジェンミは子供のように手を振る。
「アーリサ!」
「ジェンミ、おはよう!」
「おはよう! なんか屋外で " おはよう " とか、新鮮だよね?!」
「うん、そうね!」
「ねぇアリサ、荷物はどうしたの?」
「ああ。ジェンミに言われたとおり、ホテルに送ったわよ?」
「そっか、OK! 今日はボクが完璧なプランを組んでるから、アリサは白雪姫になったつもりで、全部ボクに任せて楽しんでね!」
「フフッ、今度は白雪姫か……」
有紗が肩をすくめて呟く。
「ん? " 今度は " って?」
「ううん、なんでもない! ねぇ、どこから回る?」
「じゃあ……メインストリートを突っ切って、『アドベンチャー・ランド』から! それから順番に『フロンティア・ランド』と『リバティ・スクエア』を回ろうと思うんだけど、どう?」
有紗は大きく頷いた。
「右回りね! うん。その辺りって『東京ディズニーリゾート』と同じ乗り物が集まってるから、日本と比較する感じで写真を撮って回りたいなって思ってたの」
「そっか、いいね。じゃあ……興味のあるアトラクションはある?」
「そうね、基本的には日本にないものがいいけど……気になってるのは " ホール・オブ・プレジデンツ " かしら?」
「ああ、歴代の大統領のアンドロイドが並んでる? けっこうリアルで面白いよ」
「うん。楽しみ」
「撮影スポットは任せて! じゃあ早速、スタートしよう!」
日本にもある乗り物を比較しながら、幾つか写真に納め、ここにしかないアトラクションは記事を想定して細かく撮影をしながら、広いパークを効率よく攻略していく。
「ねぇアリサ、『リバティ・スクエア』ならさ、" ホーンテッド・マンション " で謎解きとか、良くない?」
「わぁ懐かしい! 東京でも乗ったなぁ。こっちだったらどんなミステリーなんだろ? 楽しみ!」
「アリサってさ、わりと激し目のアトラクションも行けるんだろう?」
ジェンミの言葉に、有紗は怪訝な顔をする。
「まぁ、そうだけど……なんで知ってるの?」
「あっ、ああ……いや……なんか、好きそうだなって思ってさ」
「ええっ!? やっぱり私って、そんなに強靭なイメージなの?! イヤだなぁ」
「い、いや、そんなことないよ。『エプコット』はわりとストロング系のライドもあるしさ、昨日も乗りまくったのかな……って」
「あ……まぁ、いくつかはね。っていうか、昨日エプコットで取材だって、話してたっけ?」
「えっ?! あ……は、話してたよ?! で、でなきゃ、ボクが知るはずないじゃん?」
「……そうよね。ねぇジェンミ、もしかして……」
「えっ……な、なに?」
ジェンミは恐る恐る有紗の顔を見る。
「ジェンミも『エプコット』に行きたかったんじゃないの? もしそうなら、ごめんね!」
「え……あ! ううん、そんなことないよ! まずは王道の『マジック・キングダム』がいいと思ってたから」
「そう? ならよかったわ」
ふわっと微笑んだ有紗を見て、ジェンミは胸を撫で下ろした。
『ファンタジー・ランド』に入ると、街並みはいっそう華やぎを増す。
「日本にない乗り物なら、白雪姫を守る七人の小人のライドはどう?」
「うん、" マイントレイン " ね! 乗ってみたいと思ってた!」
「だよね? 意外と激し目だし?」
「もう、ジェンミ! そこを強調しないでよ!」
「あはは」
ファストパスを駆使して効率よく乗り物も攻略する。
「アリサ、そろそろランチにしない?」
「うん、そうね」
「じゃあ姫、いざ、シンデレラ城へ!」
「え! もしかして……『シンデレラ・ロイヤルテーブル』に?! 予約してくれたの?!」
「もちろん!」
「わぁ、さすがジェンミ! ディズニープリンセスに会えるのね!」
「うん。写真も取り放題だよ! あれ? アリサは行ったことなかったの?」
「うん。前はロケで来てるから、モデルも私達スタッフも沢山いて大所帯だったの。だからそんな洒落たレストランなんて、とてもとても」
「そうか、よかった! じゃあシンデレラ、参りましょう!」
ジェンミが右手を出して有紗の手をとる。
「うふふ。はい」
『シンデレラ城』に入って入り口に到達すると、すぐにブルーのドレス姿のプリンセスが待ち受けている。
「わぁ! シンデレラだわ!」
有紗は頬を高揚させて駆け寄る。
「あはは、アリサ、小さな女の子になったみたい」
「だって、プリンセスは永遠の憧れだもん!」
「そうだよね? じゃあ、撮るよ!」
食事が始まってからも次々とプリンセスたちがやって来て、気さくに写真撮影に応じてくれる。
「もう、みんなめちゃめちゃ綺麗!」
「そうだね。でも、オーロラ姫なんて、アリサにそっくりだと思ったけど?」
有紗が眉根を寄せる。
「ジェンミ……いつも女の子にそんなこと言ってるの?」
「ええっ?! そんなことないって! やだなぁアリサ、レオみたいなこと言わないでよ!」
「あはは、ごめんごめん。ジェンミは生粋のフェミニストだもんね」
「そうだよ。思ったことを素直に言ってるだけの正直者なんだからさ。アリサがオーロラ姫に負けてないっていうのも、ホントだからね?」
「うふふ。ありがとう」
ジェンミのエスコートは完璧で、パークを回る手順はもとより、撮影スポットやそのポイントのエピソードも、ツアーガイドさながらだった。
「ジェンミ凄いよね! 説明してくれたこと、そのまま記事にしたいくらい!」
「そう? 実はボク、子供のころからレジャープランをたてるのが好きでさ、よくレオともキャンプに行ったりしたけど、その下調べしてるときがホントに楽しくて。世界中を飛び回るツアーコンダクターになるのが、子供のころの夢だったんだ」
「そうだったんだ?!」
「だから絶対に満足のいくプランを提案するよ。今回のツアーはボクに任せて!」
「うん!」
『シンデレラ城』から『トゥモローランド』に向かい、ひとしきりアトラクションを楽しんだところで陽が傾き始めた。
ジェンミが有紗の顔を覗き込む。
「アリサ、ホントは足、疲れてるでしょ?」
「え? あ……まぁ」
「そうだよね、昨日も一日中『エプコット』を回ったんだし……じゃあさ、今夜はホテルの部屋でディナーにしない?」
「え……? パレード見ないで帰っちゃうの?」
「そう! " エレクトリカル・パレード " と " シンデレラ城のマッピング " は、最終日に取っとこうよ!」
「なるほど! そういうことね!?」
早々にパークを切り上げ、ホテルに向かう船に乗った。
雄大な湖上でゆったり揺られながら、有紗は疲れも忘れて上機嫌に景色を堪能する。
最高級のディズニー直営ホテル『グランド・フロリディアン』
洗練された雰囲気のエントランスからは、オーケストラの調べが流れてくる。
「え! 生演奏なのね!」
「そう」
「すごく素敵!」
「まだまだ! このホテルはホントに魅力的なんだよ」
ジェンミの言う通り、フロアごとにフリーのドリンクサービスがあるブースもあって、部屋に向かうまでの回廊も美しく、豪華きわまりなかった。
「さあ! 入って、プリンセス」
ジェンミが有紗を中に促す。
「わぁ……!」
部屋に入ると暖色の大きなリビングがあり、すでにディナーのテーブルセットが出来上がっていた。
「素敵……わぁ、広い! 部屋が二つある……バスルームもセパレートなのね!」
「あはは、アリサ、そんなに興奮しないで!」
「だって素敵なんだもん! 先に写真撮っていい? このホテルも紙面に載せたい!」
「わかったわかった! ボクが撮ってあげるよ」
有紗はジェンミに次々と注文を出しながら、部屋のあらゆる場所で撮影を楽しんだ。
「フフフ」
「ジェンミ? なに笑ってるの?」
「だってアリサ、子供みたいなんだもん。アリサがそんなにはしゃぐなんて珍しいよね?」
「そうかな? まぁ……夢の国だからかも!?」
「ははは、そういうことにしておこう! ほら、今夜は照明を落として食事するから、席について」
「え? どうして暗くするの?」
「まぁ見てて!」
ジェンミがザーッとカーテンを開けた。
「え? ウソ……!? わぁ!」
その瞬間、有紗の表情が一気に華やいだ。
第62話『Wrapped in the Magic of the Kingdom』夢の国マジック・キングダム - 終 -




