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『Ray of sunshine』レイ オブ サンシャイン - Stunning sky in Florida - 突然の御曹司との生活……?! 過去を紐解きフロリダの空の下で輝くサクセスストーリー  作者: 彩川カオルコ


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第57話『Whispers in the Dark』秘密裏な関係

ジェンミからディズニー・ワールドへ行こうと誘われた有紗は、もともと自らの提案であったにも関わらず、何故か困惑したような表情を見せた。

本社の『相澤出版』に電話をして正式に取材をする運びとなったと話す有紗の引きつったような面持(おもも)ちを見つめながら、玲音は知り合った頃に幾つか質問をしたときに同じような表情をしていたことを思い出していた。


不意に玲音のポケットの中のスマートフォンが振動する。

手元を覗くと、一通のメールが届いていた。


――ん?……(ツカサ)


顔を上げた玲音はちらっと時計に目をやって、それぞれの表情をとらえる。


「じゃあ俺、そろそろシャワー浴びて寝るわ」


ジェンミも時計を見上げた。

「そうだね。今夜ももう遅いもんね、解散にしようか。じゃあアリサ、また明日ディズニー・ワールドの相談をしよう!」


「え、うん……」


やはりぎこちなさを感じる。

「じゃあ、お先」


「ええ、お休みなさい」


階段を登りながらリビングを振り返ると、未だ浮かない表情の有紗の肩に、微笑みながら手を置くジェンミの姿が見えた。


部屋に戻るなり、玲音はすぐにメールを開く。

司からのメッセージは、ただ " 連絡がほしい " といった一言だけだった。

その端的なメッセージに、より緊急性を感じた玲音はチェアに腰掛けてスマートフォンを耳に当てた。


「もしもし」


「あ……こんばんは。ごめんなさいね、こんな遅くに……」

司は申し訳なさそうに言った。


「いいよ。どうした?」


「あぁ……さっきね、有紗から電話があって……」


「ん? ファビュラスに連絡するって席を外したけど、司に電話する為だったのか?」


「いいえ、ファビュラスにも連絡はして、その後にこっちにかけてきたみたい」


「そうか……やけに長いと思ったよ」


「ええ……」


玲音には、司が話を切り出すのをためらっているように思えた。

「アイツ、何の話を?」


「それが……『ディズニー・ワールド』のことなんだけど……」


「ああ、さっきその話をしてたからな。で? 親友思いの司は、いったい何が心配なんだ? 今度は " 言えること " なのか?」


「いいえ……」


「は? なんだ、言えないことかよ! ならどうやって相談受けっかな?」


「……ごめんなさい。ディズニーにはジェンミさんと二人で行くって聞いて……」


「ああ、なんかそんな流れになってるけど、それが心配なのか? まぁ確かにジェンミは手が早いからなぁ……ひょっとして、嫁入り前の娘を送り出す母親の心境とか?!」


「あ……いえ……」

浮かない表情を思わせる司のぎこちない返答と、さっき有紗が見せた表情が重なる。


玲音は一つ息をついた。

「……悪りぃ、茶化しちまった。心配なことがあるから連絡してきたんだよな? アイツは電話でなんて?」


司が少しほっとしたような声で話し始めた。


「それが……やたら事務的で。取材でディズニー・ワールドにいくことになったから、最新のスポットとかローカルな話題を提供してほしいってベラベラ話し出すの。変だなと思って突っ込んでみたら、ジェンミさんと二人で行くって言うから……びっくりして」


「なんでびっくりするんだ?」


「それは……」

司はまた言葉を(にご)す。


「あのさ司、これは俺の推測だけど、『ディズニー・ワールド』にはなんかあるんだろ? そもそも、アイツがここに住む前に直営ホテルに泊まってたっていうのも前々から引っ掛かってたし、こうして司がわざわざ連絡してくるのもなぁ……?」


「……お見通しなのね」


「まぁ……聞かれたら困るんだろうから聞きはしないけどさ。要するに、俺はアイツの何に気を付けたらいいんだ?」


「そうね……なんだろ? 私にもわからないわ……」


玲音はチェアから身体を起こすと、静かにカーテンを開けた。

少し低くなってきた月は、今宵も眩しいほどの光を放っている。


「なぁ司、一度話し合ってみたらどうだ? さっきアイツが司に電話したことだって、本人の中に不安な気持ちがあったからなんだろ? それにさ、今こうして俺にまで連絡してくるほどの司の不安な気持ちは、ある意味本人と合致してるわけだからさ、なら同じ思いを持ってるもん同士、きっちり話をつけるのがいいんじゃねぇか?」


「そうね……たしかに。私が怖がってちゃいけないのよね」


「怖い? なんか物騒(ぶっそう)なことなのか?」


「いえ……そうではないけど……ああ! もう! 有紗本人が、あなたに打ち明けてくれたらいいのに!」

司は言葉尻を強めた。


「あの子にとってのこのフロリダという場所が、どれほど特別かってことを……有紗ね、(なか)ば使命感みたいな思いでやり()げようとしていることがあって……止めようとしても聞いてくれないのよ。センシティブ過ぎて、私も軽々しく触れられなくなってるの。見守るだけしかできないから、私も辛くて」


玲音は椅子にゆっくりともたれながら頭を巡らせる。


「ん……よくわかんねぇけどさ、司のかわりに俺が、有紗にしっかり目を光らせとけばいいんだよな? なにか変わったことがあったらちゃんと知らせるし、今みたいに司が不安に(おちい)ったら、話を聞いてやるよ。とりあえずそれでいいか?」


受話器の向こうから声がしなくなって、玲音は首をかしげる。


「おい、司? どうした?」


「あなたって……」


「ん?」


「ホントにいいオトコよね?」


「はぁ?」

玲音は椅子にもたれたまま肩をすくめる。


「そんなに持ち上げても、なんも出ねぇぞ」


「フフフ。おべんちゃらじゃないことぐらいわかるでしょ? ホントにそう思ったの。とにかく、ありがとう。あなたと話してると、一人でハラハラしているのが無意味だってことに気付かされる。見失った理性が取り戻せるわ」


「そりゃよかった」


「私も有紗への対応を、少し変えてみるわ。腫れ物に触るような扱いじゃなくて、今生きてるあの子が幸せにこの地で成功するためにもね!」


「そっか。なんか……壮大(そうだい)なスローガンだな。でもまぁ、何でも協力するよ」


「だったら……」


「ん? なんかあるのか?」


「とりあえず、あなたとのこの秘密裏な関係は、まだ継続させてくれる?」


「ああ、そんなことならお安いご用だ」


「ありがとう。それと、有紗とジェンミさんの距離感っていうか……二人の関係性をしっかり見ててほしいの。気付いたことがあったらすぐに知らせてほしい」


「ん? それはさ、" アイツらの仲を取り持つ " っていうことか?」


「ううん、全然ちがう。ジェンミさんと過ごしてて、有紗に異変が起きないかってこと」


「異変?!」


「うん、上手くは言えないんだけど……邪魔も、応援もするつもりはなくて……ただ有紗が苦しまなきゃいいなって……そう思ってるだけなの」


「ん………」


「わかんないわよね、ごめんなさい」


「いや、いいよ。確かにアイツはこれまでも、話題によっては妙な態度をすることがあった。誤魔化しながら明るく話してる分にはまだいいけど、もしおかしな状況を目撃したら司に伝えるよ。まぁでも……二人で『ディズニー・ワールド』に行かれちまったら無理だけどな」


司の溜め息が聞こえる。


「うん……そうよね。ねぇ、ジェンミさんって有紗に気があるみたいだけど、実際のところ、どうなの?」


「ああ、その通り。実はさ、ついさっき、ヤツに面と向かって言われた」


「ええっ! 有紗はそのことは……」


「知らない」


「そ、そう……」


「実際のところ、ジェンミは自分でも言ってるようにフェミニストだし、俺がビジネスパートナーだと念押ししてる相手に軽々しいことはしないはずだけどな」


「そう……そりゃね、彼、とってもいい人だし、そんなに有紗を思ってくれてるなら、ホントなら私だって全力で応援したいところよ。でもね……有紗の心情を思うとやっぱり複雑な気持ちになるの。有紗自身がなんのわだかまりも抱かないのなら、それはそれで万々歳だけど……ただ……どうしてもそうは思えなくて……」


「そっか……」



その時、不意にドアがノックされ、玲音はスマホを耳に当てたままグッと視線をあげた。


「ねぇ、誰か来たんじゃない?!」


「ああ……」


「切るわね! 夜遅くにごめんなさい」


「いいや。じゃあ、おやすみ」



再度ノックされるドアを、ガチャリと開けると、そこにジェンミが立っていた。


「なんだ? お前も緊急の用か?」


「ん?" お前も " って?! 誰のこと言ってんのさ?」


「い、いや、なんでもねぇよ。それより、何の用だ」


「あ……アリサと『ディズニー・ワールド』に行く件なんだけどさ、ホントに行ってもいいよね?」


「は? 何を今さら!」


「だよね? レオの本心が知りたかっただけだから。じゃあ!」


そう言って戻ろうと背中を向けたジェンミが、またくるりと振り向いた。


「レオさ、今電話してただろ? ()()()


「は、はぁ?!」


「いいって、いいって! ふーん、日本人か……」


そう言って近付いてくるジェンミから顔を背ける。


「レオ! ひょっとして……」


今、司と連絡を取っていることがバレるのはマズイと思った玲音の脳裏には色々な顔が浮かんでは消え、どう誤魔化そうかと考えあぐねる。


「例の " 元カノ " なんじゃないの?! あんなに親密だったんだ、ほとぼりが覚めてまた連絡をとるなんて事は、よくあることだし?」


的が外れたことに、安堵する。


「お前と一緒にするな! ちげーよ」


「はいはい。まぁ誰でもいいや。優しい口調で " おやすみィ " なんてレオに言わせる相手がいたなんて、ボクは嬉しいよ!」


「は?! どの立ち位置だ! おまえは!」


「まぁまぁ。じゃあレオ、いい夢を! あ、ボクが邪魔しちゃったから、もっかいかけなよ!」


「かけるかよ!」


「じゃあ。" おやすみィ " あははは」


「うるせー。早く寝ろ!」


バンと閉めたドアにもたれた玲音は、ジェンミの足音が消えるのと同時に一人、吹き出した。


「ふっ……とんだ勘違いだ。相手は人妻だぞ? お前が気を付けろって言ったんじゃねぇか! 全く……的外れもいいところだ。まぁでも、調査対象のお前らにはまだ知られるわけにはいかねぇからな」


玲音はゆっくりと窓際まで行くと、カーテンに手をかけながら空を仰いだ。

顔を照らす大きな月の光を浴びて、一つ大きく息をつく。

今夜もまた不思議な夜だと思った。


停電でしがみついてきた有紗から伝わってきた鼓動も、有紗への思いを宣言したジェンミの表情も、頭を混乱させる。

妙に息苦しく感じた玲音は視線を下げ、ザーッとカーテンを閉めた。



第57話『Whispers in the Dark』秘密裏な関係 - 終 -

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