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『Ray of sunshine』レイ オブ サンシャイン - Stunning sky in Florida - 突然の御曹司との生活……?! 過去を紐解きフロリダの空の下で輝くサクセスストーリー  作者: 彩川カオルコ


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第36話『One Trouble Gone, Another Arrives』思いがけない休日

有紗の気配に包まれながら、玲音の意識は静かに深い眠りへ沈んでいった。

物音をたてないよう静かに立ち上がった有紗は、そっとキッチンに足を進める。


静かな時間が流れたのも束の間、ソファーに横たわる玲音の側にあるテーブルの上に置いてあった有紗のスマートフォンが突如(とつじょ)振動し始めた。

目を(つむ)って額に腕を置いていた玲音は、身体(からだ)の向きを変え、息を吐く。

有紗が慌てて戻ってきた。


「ごめん……起こしちゃった?」


「いいよ……どうせ(ツカサ)じゃねぇのか? 心配性なんだろ?」


「ええ……そうかもね」


そっと目を開けた玲音は、そのままの姿勢で有紗を見上げる。


「あ」

スマホを取り上げた有紗の表情が変わった。


「二階で話してくるわ。ミセスランドルフからだから」


「……え?」

玲音は半身を起こした。


有紗がスマホを片手にパタパタと階段を駆け上がる。

上りきったあたりで声が聞こえた。

「おはようございます、ミセスランドルフ……」


そこからは自室に向かったのか、何も聞こえなくなった。


天井に目をやると、昨晩はHAUNTED(お化け) HOUSE(屋敷)のごとく蒼白く浮かび上がっていたシャンデリアが、陽の光を反射して虹のようなプリズムを放っている。

ふと、引き寄せて胸に感じた有紗の肩の震えと、触れた頬の冷たさが甦って来た。


――これから本格的にハリケーンのシーズンが来るってのに……毎回ここ(ソファー)でキャンプかよ?


玲音は階段に目をやった。

「ん?」


まだ五分も経たないうちに足音が聞こえ、有紗が階段を降りてきた。


「なんだ、もう切ったのか?」


有紗の表情に玲音は首をかしげる。

「どうしたんだ? マヌケな顔して」


そんな言葉にも、有紗は(あらが)わず答えた。

「あ……今日ね、休んでいいって」


「ああ……そうか」


「業者に依頼して店の周りを片付けさせるって(おっしゃ)って。アポイントメントも全てキャンセルの連絡が来ているし、今日は出勤しなくてもいいわって」


「ふーん。それだけ?」


有紗は(はす)向かいのソファーに腰を降ろしながら話す。


「とても心配してくれてて……フロリダのハリケーンは初めてでしょうって。それより! びっくりしたことがあって……正直、焦ったわ」


「え? なんだ?」


「あなたが庭師(にわし)に前もって依頼してたことをね、ミセスランドルフは私が予約したんだと思っていらっしゃったの。" 偉いわね "って褒められちゃって……もう、寿命が縮まったわよ!」


「は? どういうことだ?」


「ミセスランドルフのお宅と同じ庭師さんだったのね。" うちには午後に来るから "と仰ってた」


玲音が額に手をやって、顔をしかめた。

「クッソ! あの庭師め、口を滑らしたな!」


(くう)(にら)むその玲音の顔を横目に、有紗は首を振る。


「うゎ……また、悪い顔してるわよ。まぁミセスランドルフは疑問には思ってらっしゃらない感じだったけど。とにかく危ないから外には出ないでって言われて……前に屋根の建材が落ちてきたことがあったから、点検が終わるまでは外に出ちゃダメって、言われた」


「おお、あったあった、そんなこと。マジで目の前に落ちてきたんだ、死ぬかと思ったぞ。あ、じゃあ……あの建築士も来るわけだな。心配すんな、手は回してある」


「え? なにか手回しが必要?」


「俺がここにいることを、叔母にバラさない事だ」


有紗は呆れた表情で玲音の表情を見つめた。

「いい加減……コソコソするのはやめたらどうなの?」


玲音は面倒くさそうに、首の後ろで手を組む。

「はいはい」


「全然思ってないくせに! あ……ねぇ、庭師さんと建築士の人はいいとして、ハウスキーパーさんも来るのよね?」


「ああ、いつもだいたいお前が出勤して一時間後ぐらいに来ることになってるが……」


「じゃあ、今日は断りましょう」


「は? なんで? キッチンに割れた皿も散らかってるだろ?」


「そんなの、自分で片付けられるわよ。ご飯も私が作るし」


「たまの休みなんだから、のんびり過ごせばいいんじゃないか?」


有紗は首を横に振った。

「逆よ。たまの休みだから、ちょっとは家の事とか、してみたいって思うわけ」


玲音が(いぶか)しい表情を向ける。

「はぁ? そんなもんか?」


有紗は笑顔で答えた。

「ええ、誰かさんみたいな " お坊ちゃん " とは違って、私は " 庶民的で地に足の着いた日本人 " なので」


「究極に嫌味なヤツだな!」


有紗はカラカラと笑う。

「あはは。さぁ、じゃあ早速始めよっと! まずは、朝ごはんね?」


立ち上がる有紗を玲音は見上げて言った。


「お前さ、眠くないのか?」


「ええ。平気よ。私、掃除してから作るから、あなたはハウスキーパーさんに連絡したら、ここで寝てて」


有紗はテーブルに置いてあるスマートフォンを玲音の右手に握らせて、キッチンへ向かう。

玲音はまたごろんと横になってメールを一本送ると、手をおろし、それを持ったまま眠りに落ちていった。



ふと……懐かしい匂いに、目が覚めた。

子供の頃の感覚が蘇る。

その匂いの向こう側に、若かりし日の母親の姿が一瞬浮かんだ。


うっすらと目を開けたその視野の片隅にぼんやりと人影が映って、玲音は慌てて目を閉じる。

パタパタと軽快な足音でやって来た有紗が、玲音の横にしゃがんだ。

すぐ近くに感じる気配に、鼓動が聞こえはしないかと焦る玲音の気も知らず、有紗はその右手からそっとスマートフォンを抜き取ってテーブルに置いた。

そして今度は左手の包帯の上にそっと手を添える。

一瞬なにか呟いたような気がしたが、その声は聞き取れなかった。

その時間はずいぶん長く感じられて、更に玲音の鼓動を早くした。


手を離した有紗がすうっと息を吸い込む。

「ねぇ! 朝ご飯、できたよ!」


声をかけられて、玲音はホッとしながら目を開ける。

立ち上がった有紗が振り向き様に微笑んでいた。

玲音は眠気まなこな演技をしながら、起き上がってグーンと身体を伸ばした。


「いい匂いだな」


ゆっくり立ち上がって食卓に向かうと、玲音はその並んでいる皿を見て目を丸くする。


「これ……お前が作ったのか?」


そこには和食が並んでいた。


「うん。実はね、お鍋でご飯を炊くのは初めてだから、上手くいくか心配だったんだけど」


シンプルな厚焼き卵とほうれん草のおひたし、味噌汁、そして シリアルカップに白いご飯が盛られている。


「ここにはお茶碗がないから、ちょっと雰囲気出ないけどね」


いたずらに笑う有紗の表情につられそうになって、玲音は咳払いした。


二人して指に箸を挟みながら、ジャパニーズスタイルの合掌をする。


「いただきます」


「いただきます。じゃあ早速……ウマっ!」

厚焼き玉子にかぶりついた玲音が声を上げた。


「ホント?! 良かった! あなたに褒められたのなんて、ここに来て初めてかもよ?」


有紗は嬉しそうな顔をして頬杖をつきながら、玲音が食べている姿を見つめる。


「お前も食えよ」


「ええ」


にこやかに箸をすすめていた有紗が、はたと何か思い付いたかのような表情を見せた。

とたんに失速する笑顔のなか、躊躇(ためら)うように(うつむ)く。


「あ、あの……昨日は」


玲音は()えて視線を合わせず、食事をしながら言う。

「お前さ、雷が苦手なんだろ?」


すかさずそう聞かれたその言葉に、有紗が顔をあげた。

「え? うん……実は『|astraphobiaアストラフォビア』だって……そう診断を受けたことがあって」


玲音は依然、箸を延ばしながら質問を続ける。

「だから耳栓持って歩いてたのか?」


「ああ……うん」


「まぁ、ここは確かにハリケーンも多いし、その規模も日本とは比べもんにならない。心配か?」


「ええ……まぁ。前にね、一度救急車で運ばれたことも……あって……」


玲音が目を上げて、改めて有紗に尋ねた。

「じゃあ、夕べは?」


有紗は少し改まったように、両(ひざ)に手を置いて姿勢を(ただ)した。


「昨日は……あなたのおかげでパニックにならずに済んだわ、でも……迷惑かけちゃって……ホントに」


「大丈夫だ」

玲音は微笑みながらその言葉を遮る。


「嵐の夜は、俺がずっとそばでお前の耳を(ふさ)いでやるよ。だから……もう怖がらなくていい」


有紗は驚いたように玲音の顔を見つめた。

口を開きかけた瞬間、有紗のスマートフォンが振動する。


「当ててやろうか? 今度こそ、司だろ?」


慌てて目を落としながら、有紗はぎこちなく微笑んだ。

「……あ、ホントだ。ちょっとごめん」


「いいよ。心配性の親友によろしく伝えてくれ」


席を離れる有紗に肩をすくめながら、陽の差すダイニングテーブルの片隅にあるこの質素な温かさを感じる。


しばらくすると軽快な足音をたてて有紗が戻って来た。


――楽しそうに話しやがって……司はお前の保護者かっつーの!


着席したにこやかな表情の有紗を睨みながら、一言嫌みでも言ってやろうかと口を開きかけた瞬間、今度は玲音のスマートフォンが振動し始めた。


――ったく今度はなんだなんだ、朝っぱらから騒がしい!


面倒くさそうな表情で画面を見た玲音は、その場で端末を耳に当てた。

「もしもし、どうした? 今、ちょっと……」


しばらく静かに話を聞いていた玲音が、突然顔を上げる。

「は?! ヒューストンだと!? なんでまた!」


立ち上がってうろうろしながら話し出す玲音を、有紗は黙って目で追う。


「ああっ!? ハリケーンで足止め食らったって? いや、そういう問題じゃなくて! なんで黙って日本を出国してんだよ! は? もう搭乗時間だと?! まいったなぁ……あのさ、ちゃんと話してなかったんだが……ビジネスパートナーの女性がいるって……話したよな? ああ。実は……そいつが……ここに住んでる。いや、言おうと思ってたんだけど……いや! " そうなった "とかじゃなくて! だから!! 違う! そういう関係じゃなくて……ああっ! ったく、めんどくせえ! 叔母のフィリシアが勝手に住まわせたんだ! 俺も知らなくてさ、帰ってきたらいきなりコイツが家に住んでて……ああ、ここに居る。だから!! おい! 誤解すんなって! で、お前どうするんだ? え? 今から?! なに、荷物?! え、ちょっと待て。は? 搭乗時刻? そんなこと言われても……おいっ!! もしもし! クッソ! はぁ……」


スマートフォンを耳から外して呆然(ぼうぜん)とする玲音を見上げて、有紗はそっと声をかける。


「あの……話が見えないんだけど?」



第36話『One Trouble Gone, Another Arrives』思いがけない休日 - 終 -

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