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『Ray of sunshine』レイ オブ サンシャイン - Stunning sky in Florida - 突然の御曹司との生活……?! 過去を紐解きフロリダの空の下で輝くサクセスストーリー  作者: 彩川カオルコ


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第24話『A familiar taste』ダウンタウンの手土産

フィリシア・ランドルフとの関わりについて話し合うと、いつも二人の意見は食い違った。

皮肉めいた発言をした有紗に、玲音は挑発的な眼差しを向ける。

有紗は動じることなく、まっすぐ玲音を見つめたまま、静かに話し出した。


「あなただって本当は気付いてるんでしょ? 周りに大切に思われていることも、支えられていることも。あなたは、恵まれているわ」


玲音は面倒くさそうな表情で椅子の背にもたれた。


「俺だって『ランドルフ』を何とかしようって思ってんだ。だからちゃんとしたプランで叔母とも決着をつけようと……」


乗り出すように有紗は被せる。

「ねぇ、ミセスランドルフは対抗する相手じゃないでしょ? むしろ手に手を取って協力し合う間柄じゃ……」


「いや、主導権を握られちゃあ、思うようにはいかないだろう? むしろ叔母は攻略していかなきゃならない相手なんだ」


有紗はおもむろに下を向いて、大きな溜め息をついた。


「あのさ……私ね、さっきまでミセスランドルフと二人でカフェにいたの」


玲音はしらけた表情で有紗から視線をそらす。

「は? それがどうした」


「商談が終わったから、ケーキでも食べましょうって(おっしゃ)って、『La(ラ・) Fille(フィーユ)』っていうお店に行ったわ」


「え……『La Fille』……」


有紗はバッグの陰に隠れていた小さな紙袋を差し出した。


「ええ。あなたが幼い時によく行ったお店よね? ミセスランドルフはあなたがいつも必ず注文してたバナナチョコパイを選ばれたわ」


「えっ? 叔母は、バナナは……」

玲音は驚いたように有紗に目を向けた。


「そう。" バナナはそんなに得意じゃないんだけど " と(おっしゃ)いながらも嬉しそうに、そう……懐かしそうに召し上がってた。彼女にとってあなたはビジネスツールなんかじゃなくて、ただ愛する息子のような存在なのよ。わかってあげて! だから……」


玲音が言葉を遮る。

「だから! それが嫌なんだよ!」


「え……どうして?」


「いつまでもガキ扱いしやがって! どこへ行っても俺自身が肩書き抜きで見てもらえないのは、そもそも身内が俺をそんなふうに扱うからだ。本質を見る前に、子供には危ないおもちゃだからと言って何でも取り上げる。もう、うんざりなんだよ!」


「ちょっと……落ち着いてよ」


玲音は立ち上がった。

「いいか! 今後一切、小賢(こざか)しい真似して俺と叔母を引き合わせようとするな! 妙な気遣いや恩恵も反吐(へど)が出る。わかったな!」


「玲音……」


有紗に背を向けた玲音は一度足を止めたが、そのまま振り向かずに足早に二階へ上がっていった。


時期尚早(じきしょうそう)だったわね……私としたことが。焦りすぎたわ……」


有紗は、自分の頭をこついた。

大きな壁掛け時計に目をやる。


「よし! 少し早いけど、夕食の準備でもしようかな」


有紗は身軽な服装に着替えてからキッチンに立った。

手早く下ごしらえした材料を電子圧力鍋に放り込んで、セットする。


ふと視線を上げると、リビングの天井まで切り立ったようなはめ殺しの大きな窓から見える景色全面が、琥珀色(こはくいろ)に輝いていた。

この時間にこの景色を見たのは、ここに来たばかりの頃。

ランドルフに出社するようになってからは、なかなかこの時間に遭遇(そうぐう)することはなかった。


「ああ……やっぱり、ここから見る夕陽も最高ね」


有紗はそう(つぶや)きながら、あの夜、玲音が忍び込むように入ってきたその勝手口を開けて庭に出た。

木々のさやさやした音が聞こえてくる。

目を閉じて耳を傾けながら、有紗は玲音の憤然(ふんぜん)とした横顔を思い出していた。


――向こう見ずではない。

  むしろとても慎重とも思える。


それは母親の翼にではなく、叔母のフィリシアに似ていると感じた。



ガーデンフェンスの向こうから声がした。

「Hello Arisa!」


隣の住人、ミセスコンラッド。

夫は彼女よりも二回(ふたまわ)りも年上のホテル王だ。

淋しがり屋で人(なつ)っこく、いつも小型犬を抱いてこちらの庭を覗いている。

今日は、家の中に居るにもかかわらず、大振りのネックレスを(ほこ)らしげに揺らしていた。


「Hello. How are you, Mrs. Conrad. Oh! The necklace looks great on you! 」

(そのネックレスよくにあってますね)


「Oh, thanks. My darling gave it to me on my birthday」

(ありがとう。彼が私の誕生日にくれたものなの)


small(世間) talk()をしながらよくよく聞いてみると、玲音はここに戻った翌日から早速、ご近所回りを果たしたようだった。

ランドルフ家に内密にする確約も取れたようだったが、一体どんな話をでっち上げ、彼女らを納得させたのか……

興味は湧いたが、このご婦人からそれを詳しく聞き出せるほど、語学には長けていない。

なぜか妙に優しくニヤニヤされることに嫌な予感もしたが、有紗にとっては玲音の所在がバレることは何ら抵抗がないことで、気にもとめなかった。


だだっ広い庭園を愛でながら勝手口のドアを再び開けると、意外にも家の中からは、玲音の大きな笑い声が聞こえてきた。



第24話『A familiar taste』ダウンタウンの手土産  - 終 -

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