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貴女に伝えたい

カム視点です。

日が昇る中、数人の騎兵達の後に一台の馬車が森の中を走る。


思った以上にロザリア様がいる場所は遠い。

この森の中を抜けるとロザリア様が待っている港町にたどり着ける。


「…カム、聞いてもいいか?」


「グレン様、なんですか?」


今マリアン様とマリオット様が他の護衛達と共に馬車の外で見張りをしている中、隣に座って休んでいるはずのグレン様が此方を見ていた。

手前にアンジェラ嬢は寝ている。アレス様は…寝ているかよくわからない。


「ロザリアに何て説得するつもりだ?」


グレン様はこの先を心配している様だ。

無理もない。

俺とロザリア様は仲違いしたままだ。


「…そうですね、あの子の性格を考えると恐らくロザリア様は今まで以上に頑固になっているでしょう。普通に止めても聞かない…あの子は純粋過ぎて思った事を行動で示します。いくら俺でも今回の事は骨が折れるでしょうね?」


グレン様も「そうだろうな?あいつは猪だ。」ってため息を吐いている。

また、怒られますよ?


「…話を聞いてくれるか不安になりますが、俺は決して諦めるつもりはありません。」


諦めるつもりはない。

上手な方法なんてない。それでも約束したんだ。必ず止めるって。

ロザリア様がいくら亡くなった子の為に復讐を望んでも、俺は必ず止める。


あの子の手を血で染めさせはしない。

いくらでも伝わるまで、ぶつかるつもりだ。

それだけ彼女が大切なんだ…それだけ…


「彼女を愛しています…だから彼女が止めるまで諦めません。」


決意を胸に刻む。言葉にする事で決心を奮い立たせるように。

そんな俺をグレンは目を細めた。


「…分かった。俺がお前を全力で守る。」


グレン様は毛布を外して脇に置いてある剣を取り出した。


「…どうかしたのですか?」


「…静かにしろ、アレス。」


グレン様は急に険しい顔になってアレス様を呼ぶと彼も目を開け剣を取った。

アンジェラ嬢は寝ぼけながらもそれに続いて起きた。


「はい、グレン様。やはり素直には行かなさそうですね?」


「…ああ、マリオット達も外で警戒しているだろう。」


何かが待ち構えている。

グレン様達はそれを感じ取って先に警戒している。


「カムはアンジェラ嬢といてくれ。」


「…ですがここで騒ぎを起こすと不味いのでは?」


グレン様とアレス様は外の敵を倒すつもりだ。

でもここで戦うと相手にルーベルト様が来ていない事が気づかれてしまう。

そう言ったらアレス様は否定する。


「今、気配がする人数も思っていたよりは少ないですし、これならすぐ片付けられますよ。」


相手は大方、ルーベルト様だけ捕えるつもりで待ち構えているだろうと思うから大きな襲撃はしないだろう。

でも、こちらも多勢を相手出来る程、人数がいない。

勝てない相手ではないとアレス様は話すが、先にもまだ待ち構えている可能性がある。

出来れば温存しておきたいところだ。


「なら、私が“歌”ってあげるわ。大袈裟にはしない方がいいでしょう?」


アンジェラ嬢が席を立った。


「アンジェラ嬢、それは大丈夫なんですか?」


「ええ広い範囲は難しいけど、歌いながら少しずつ進んで行けば、この先にいる悪い奴には有効よ?歌い続けている間は襲ってこない。その間に捕まえてくれればいいわ。その代わり長時間は歌えないわよ?凄く疲れるのだから。」


アンジェラ嬢の“歌”ならば相手を押さえられる。


「ならアンジェラ、僕と行きましょう?貴女も狙われています。僕が必ず守りますから歌ってください。グレン様はカム様をお守りくださいね。」


「分かった。アンジェラ嬢、頼む。」


「任せて」とアンジェラ嬢とアレスは頷き馬車を止めて外に出る。

外ではアンジェラ嬢の歌声が響き渡る。

そしてゆっくりと馬車が走り出した。


外では騒がしい音が聞こえる。

恐らく騎兵達が相手を捕まえているのだろう。



しばらくすると歌が止まり、また馬車が止まった。

マリアン様とアンジェラ嬢が入って来る。


「う、歌ったわよ…。」


「お疲れ様です、アンジェラ様。貴女のお陰で助かりました。」


マリアン様が労う様にアンジェラ嬢に微笑む。

どうやら早々と片付いたようだ。


「大丈夫でしたか?」


アンジェラ嬢の様子に心配になった。

まるで走ってきたように疲労している。


「大丈夫よ。だてにヒロインをやっていないわ。ただ疲れやすいデメリットがあるだけよ」


ピースサインをだしてアンジェラ嬢は微笑む。

それにホッとした。


癒しの歌は疲れやすい。

これはゲームでは語られていなかったけど、現実では体に負担がかかるそうだ。

完全に改善するわけでもなく一時的なもの、でも歌を聴いた後の記憶は覚えているから歌を聴いた人は戸惑うらしい。


魔法のようで魔法じゃない。

前世で誰かの歌を聴いて共感するような気持がパワーアップした版だとアンジェラ嬢は言う。


馬車が動いた、

今度はマリオット様とアレス様が外で見張りをしている。

誰も怪我をせず相手を粛正出来き、騎兵の一部が捕まえた者達を近くの要所に連れて行き城に応援を呼ぶそうだ。


「もうすぐ着きます。…覚悟してくださいね?」


マリアン様が厳しい顔して俺たちに注意を促した。

きっとまだ他にも自分たちを狙う者がいるだろう。

その中に彼女が待っている。



馬車の窓を見ると森を抜けだした。

その先に海が広がる。

町らしきものが見えた。


そして港町らしきの前に騎兵達と馬車を止めた。


馬車から降りるとそこは静かな場所だ。

何もない廃墟化した町には朽ち果てた建物らしきものが多くある。


「既に滅んだ人攫い達の拠点…ここで多くの子供が攫われ、売られ、殺された場所…。」


そう呟くと皆が深刻な表情を浮かべる。


幼いロザリア様とルーベルト様が悪夢を見た場所だ。


「行きましょう。」


皆頷き、町の入り口に入ると煙が空気中をまわっていた。


それをみて、マリアン様達は剣を抜く。

何者かが壊れた建物の影に潜み此方を見張っている。

それも複数の人が武器を持って俺たちを狙っているのが分かった。


「カム、グレン、先に行ってこい。奴らは俺たちが相手をする。」


「まって、私が歌うわ。それなら誰も怪我しなくて済む!」


マリオット様が俺達に促し進もうとすると、アンジェラ嬢が止める。


「アンジェラ様、やめた方がいいです。この煙…貴女対策で焚かれているものです。歌わせないために相手が手を打ったのでしょう。ここは武力行使でなければ言う事を聞かないでしょうね?」


「そうだ。アレス、アンジェラ嬢を頼むぞ。」


そう言ったマリアン様とマリオット様は騎士たちを連れ町に散らばった。


「マリアン様、マリオット様!」


あっちこっちで剣がぶつかり合う音や銃の音が響いた。


いくら強いとは言っても相手は複数だ。心配になる。


「あいつらの事なら心配するな、カム行くぞ。お前はロザリアを説得する役目があるんだからな?」


「…分かりました、行きましょう。」


俺が進む前にグレン様はアレス様に振りかえる。


「アレス、安全がとれるまでアンジェラ嬢をここで守れ。先に何があるか分からない。」


「え?私も一緒に行かなくていいの?」


「分かりました、グレン様もご武運を。」


え?え?とアンジェラ嬢は狼狽えるけど、仕方ない。

恐らくここに居る連中は、今まで彼女を狙っていた者達だ。

つまりゲームならロザリア様が集める組織をレティシア様が集めていたと言う事になる。


ここに居るだけアンジェラ嬢にとって危険な場所だ。

動くにしろ出来るだけ安全が確認された方がいい。


グレン様は向かってくる敵を薙ぎ払い、二人で焚火の道を頼りに進む。

焚火は港に続いている…恐らくその先にロザリア様がいる。


随分、分かりやすくしている。

これは俺を呼び寄せる罠だと言っているようなものだ。


港に辿り着くと岸壁には金色の髪を靡かせ一人の黒いドレスに包まれた女性が立っている。


…ロザリア様だ。


その姿をみて走り出そうとするとグレン様が俺を押した。


「っ!?カム離れろ!」


「!?」


突然矢が襲ってきた。

グレン様は矢を剣で弾いた。


矢が放った方へ振り向くと男達が弓を持って狙っている。

それだけじゃない。

反対側でも銃を構えて狙う者達や剣を構えている者が複数人いてこちらに分が悪い。


一度身を守る為に朽ちた建物の裏に回る。


「カム、俺が引き付けるから、お前はあいつの元に行け。」


「ですが相手は複数です。いくらグレン様でも無茶ですよ!?」


いくら強くても一人に対して多勢だ。

マリオット様達や騎士たちもまだ交戦している。

とても無理がある。


「複数人いようと素人相手など、あいつに比べたら全然大したことない。それより自分の事を優先させろ。この先に邪魔する者はいない。」


いくら戦経験があるマーカス侯爵に鍛え上げられたからって置いていけない。

だからと言って自分では護身は学んでても戦力にはならないが…。

こういう時は歯がゆい気持ちになる。


「心配するな。俺はリリーを悲しませるようなことは絶対にしない。信じてくれ。」


「グレン様…。」


グレン様はリリー様を置いていくことはしない。

だから決して負けない。


「…はい。グレン様を信じます。ご武運を。」


グレン様は頷き剣を持ったまま銃を取り出し相手を撃退する為に向かった。


皆が覚悟を決めて戦っている。

自分も立ち向かわなくては!


そのまま振り返らずにロザリア様の元に行った。




町や港では戦いが起きているのに岸壁にあがると、まるで何もないようかの様に波の音だけが聞こえる。

そんな中、彼女はずっと海を見つめていて動かない。



「ロザリア様…。」


…やっと会えた。


でも俺が声かけてもロザリア様は振り返らない。


波の音で聞こえないのか?


ゆっくりと彼女の元に歩く。


「…ルーを待っていたのに、どうしてお前が来るの?…カム」


近くに寄ろうとすると、それを止めるように振り返る彼女に驚いた。


「…っ。」


ロザリア様の目に憎悪が宿っている。



…こんなロザリア様は初めて見た。


黒いドレスを纏い堂々と立って俺を冷たく見据えるその姿…。

まるでルーベルト殿下に断罪されても、敵を刺す様に見つめ己の矜持は崩さない。

これこそゲームの悪役令嬢ロザリア・ブロッサム。


そこには悪役令嬢ロザリアが立っていた。


…遅かった。今の彼女は憎しみに支配され冷ややかな鋭い目をしている。

俺を前にしても凍てついた様に表情を崩さない。


大切な者を失い復讐を望むロザリア様。



それでも俺が愛した女性(ひと)なのは変わりはない。



「貴女を止めに来ました。」


貴方の哀しみや苦しみを止める為に俺はここに居る。

そう思いながら微笑んだ。


「…。」


ロザリア様は何も言わず俺をただ睨む。


「ロザリア様、帰りましょう?こんなところに一人でいるから苦しむのです。ここは貴女にとって辛い場所、憎しみを更に増加してしまう場所です。俺は貴女にここに居て欲しくない。俺と一緒に帰りましょう?」


貴女の心を苦しめ復讐の鎖に縛られてしまう、ここは貴女にとって呪いの場所だ。


「…何を馬鹿なこと言っているの?憎しみを増加させる?そんなものは此処には無いわ。」


ロザリア様はつまらなそうに俺の言葉を一蹴する。


「此処はわたくしにとって決意の場所。あの日ミウに誓った、理不尽に狙われ殺される子達を守る為に諸悪の根源を絶つと。…本当はルーと一緒に約束したけど、彼は裏切った。だからわたくしがミウの願いを叶える。だから邪魔をしないで。」


そう言ってドレスの袖から銃を取り出し俺に向ける。

冷たい威圧を放つロザリア様。

グレン様とは違うが冷たく刺々しい。

その眼はいつもと違い考えている事が読み取れない。


本当に別人…それほどこの場所の出来事はロザリア様に深い傷を与えたのか?


「…そんな悲しい事を言わないでください。貴女はそんな事を出来る人ではありません。誰よりも純粋で、誰よりも人を思い遣れる貴女が人を殺せるはずないでしょう?貴女が苦しむことを俺がさせません。」


「分かった口調で話さないで、お前如きにわたくしの決意は揺るがない。わたくしを拒絶した癖に今更現れるなんて…殺されにきたのかしら?」


ロザリア様は表情を崩さないが今の言葉で分かった。

やはり彼女は彼女だ。

記憶を取り戻しても何も変わっていない。


「…そうですね、俺は貴女に酷い事ばかり言いました。俺は俺の事情で貴女を拒絶し傷つけた…今更悔やんでも、悔やみきれないほど、貴女を傷つけました。…でも、そんな馬鹿な俺を救ってくれたのは貴女です。ロザリア。」


彼女の目をじっと見る。

今、目の前にいるのは俺が傷つけた女性(ひと)


「言っている意味が分からないわ。わたくしはお前など救っていない。従者如きが勝手にわたくしを呼び捨てにしないで頂戴。主の娘に対して烏滸がましい。」


忌まわし気に見つめる彼女が当然拒絶するのは分かっている。

今の彼女にって俺は従者以下だろう。ずっと傍にいると思っていたのに裏切られたんだ。


「いいえ、ずっと貴女は俺を救ってくれました。だから俺はここに居るのです。今度は俺が貴女を振り向かせる。俺はもう貴女の従者になどならない!」


「っ!?」


ハッキリと告げる言葉にロザリアはきつく睨むが、どこかしら怯んでいる。

言葉の意味に困惑しているのが分かった。

今なら俺の想いが伝わるかもしれない。いや、いくらでも伝わるまで言い続ける。

それだけ、貴女を想っているのだから。


「ロザリア、傷つけて済みませんでした。貴女はずっと言ってくれたのに、俺は信じていなかった。貴女が俺を必要としてくれているのに、勝手に貴女の幸せの為だと決めつけて突き放しました。本当にすみません。」


沢山傷つけた。貴女の為と言って自分を偽った。

そして傷つた貴方を置いて俺は殻にこもって逃げたんだ。


「ずっと、自分が貴女に相応しくないと自分で言い訳していました。高貴な貴族ではない自分が将来ロザリアを傷つける。それが怖かった。貴女に自分と同じ目に遭ってほしくない、そう心の中で言い訳をしていました。自分の心を偽って、これで良いとそう思ったのです。」


何度、自分の名前と血を呪ったのだろう?

自分の名前と血が自分の幸せを壊してしまう。

それを彼女にも同じ目に遭わせたくない。


「でも、それは間違いでした。それを気付かせてくれてたのは貴女を信じている仲間です。皆、貴女や俺の為に動いて真実を教えてくれました。一体俺を救ってきたのは誰かと俺に気づかせてくれたのです。」


皆が背中を押してくれた。

ロザリアが言った言葉を思い出してほしいと。


「貴女はずっと『俺』を見て一緒にいてくれた。どんな俺でも『俺』だって言ってくれた。俺は貴女の言葉に救われたんです。だから今度は俺が貴女を救う番だ。その為に俺は貴女を止める。絶対に復讐なんてさせない!」


貴女が苦しむことを絶対にさせない!


決意を見せるように目で彼女を捕える。

するとロザリアは少し怯え警戒を緩めた。

その隙を逃さない。


「なっ!?」


急いで銃を持つ手に手を伸ばし、その銃を叩いて落とす。

そのまま腕を掴み彼女の体を引き寄せた。


「…ロザリア、帰ってきてください。貴女がいないと俺は駄目なんです。貴女を失いたくない。大切なんです…ずっとロザリアが俺にとって“特別”だった。貴女は俺が初めて欲しいと望んだ女性(ひと)なんです。」



華奢な身体を抱き締める。

ずっと隣にいた女性(ひと)

いつも近くに居たのに今は凄く遠く感じる。

だからこそ、もう一度引き寄せたい。


「…もうやめましょう?今なら何もなく過ごせる。帰りましょう?」


願う様に強く抱きしめた。

そうでないと、バラバラと消えてしまいそうで怖い。


抵抗するかと思ったがロザリアは動かいない。

表情が見えないけど息を吐く温度を感じられた。


「…そうね、今なら何もなく今まで通り過ごせる…。」


届いた…そう思ったが、次の瞬間にその安堵が後悔する。


彼女の動きに目を見張った。


「…でもね?それは無理よ。」


ロザリアは手をドレスの内側に入れると、そこには短剣の柄が見えた。

そしてその短剣を俺の方に…


「!?」


数歩下がり間一髪に避けれたけど、腕を少し切られた。


「…ロザリア…?」


目の前のロザリアが信じられなかった。


彼女は短剣を俺に突きつけ睨みつける。



「…カム、無理なの。さっきも言ったでしょう?わたくしの決意は揺るがない。」



先ほどの刺々しさは無くなったが、それでも冷たい瞳はそのまま俺を写す。


雨粒の様な雫が頬を濡らして落ちていった。




読んで頂き有難うございます。


賛否はあると思いますが、見どころの一つです。


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