届くまで離さない
引き続きカム視点です。
「ロザリア…っ。」
ロザリアは涙を流しても冷たい目はそのままだ。
…それほど決意は固いのか?
「…カム…貴方からその言葉を貰えるなんて、本当は嬉しい…ずっと好きだった。カムに否定されても心のどこかで、ずっとカムを探していた。…でもね?それ以上にミウの約束がわたくしにとって大切なの。」
俺を好きだと言ってくれるのに、あくまで復讐に拘るのか?
でも大切と言うその言葉に偽りはない。
その証拠に、ロザリアの目を見れば一目瞭然だ。
「わたくしは必ずミウの願いを叶える。だからもうカム達の元に戻らない。…お別れよ。」
別れを告げるロザリアの言葉に胸を抉られた。
復讐の為に俺たちを切り捨てるのか?
何故そこまで拘る?
「何故ですかっ、その子は貴女に復讐してほしいと願ったのですか?元凶になった相手へ復讐してほしいなんて、言ってはいないでしょう?そんな人を貴女は大切にするわけない!大切な人と思っているのならば復讐をしてほしいなんて望まない!」
必死に訴えるがロザリアは冷ややかな目でただ静かに俺を見つめる。
全てを捨ててまで、何故そんなに固くに約束を守る?
「ルーベルト様が言っていました。『ミウは復讐を望んでいない。もう一度思い出してほしい』と。思い出してください。本当にその子は貴女にそんな事を望みましたか?そんな…」
「勝手に自分の考えを人に押し付けないで下さる?カルフェン・クラベル様」
必死に訴える言葉を遮る様に後ろから聞き覚えのある声が届く。
その声は穏やかに諭す様に聞こえるが、俺には刃物の様に刺々しく聞こえた。
「…レティシア様。」
振り返るとそこにはいつものように聖母の様な表情をしたレティシア様が立っていた。
ニッコリと微笑んでいるが、とでも友好的な雰囲気ではない。
俺を見る目は敵を見るような目をしている。
「ロザリアはもう覚悟しているの。大切な子の約束を守る為に動く、これは自分の望みであって復讐ではないわ。勝手に貴方の考えを押し付けないでくださいな?」
「貴女達のその望みは復讐するのと何も変わりはありません。馬鹿な事を言わないでください!」
この人がロザリアに辛い記憶を思い出させた。
ロザリアに復讐を思い出させる為に色々と仕掛けた人。
本人は「あら、随分余裕がない事」と言って微笑んでいる。
彼女に対して表情を繕えない。
ロザリアを追い込む為に随分と手の込んだことをする。
「…レティシア様、貴女は俺と同じ“転生者”なんですか?」
そうじゃなきゃおかしい。
この人が全てロザリアをここまで動かす為に動いたとしか考えられない。
今までロザリアの噂も、学園での騒ぎも、アンジェラ嬢の刺客も…もしかしたらずっと前から起きた事件も関わっている可能性がある。それだけ彼女には動かす力がある。
怒る俺に対してレティシア様は苦笑する。
「…残念、違うわ。でも話は知っているのよ?お義兄様が教えてくれたからこうして裏で準備をしたの。貴方達がシナリオを壊しているのは知っているから…ロザリアの為にバレない様にね?」
レティシア様は嘘を言っているようには見えない。
レザード様が“転生者”?レティシア様では無かったがその近隣者に転生者がいた。
リリー様が言った様にこの人にも復讐の理由がある。そしてレザード様に聞いてシナリオを進めた。
これで繋がった。
でもレザード様は此処にはいない、もしかして…
それに気づいて冷や汗が出る。それをみたレティシア様は「困った事。」と呑気に微笑んでいた。
「色々と心配事で大変ね?お義兄様ならお客様の相手をして貰う為に今王都に居るわよ?きっと今ここに居ないお客様はお義兄様と楽しく話をしているでしょう。」
シリウス様達が?…いや、今は信じるしかない。
彼らはマリアン様達みたいに戦えないけど、それを補うぐらいの頭脳はある。
皆、ロザリアの為に覚悟して動いてくれているんだ。
信じて自分が出来る事する。
まずロザリアを何とかしないと…!
「ロザリア、準備が出来たから行きましょう。アランド殿下とルーベルト殿下が明日接触する…時が来たわ。」
レティシア様が俺に視線を外しロザリアを呼ぶ。
「…分かったわ。」
「ロザリア!?」
俺の前を過りレティシア様の元に行こうとするロザリアの手を掴む。
「…離して頂戴。」
俺を振り返る目はさっきと同じ憎悪を帯びた冷たい目だ。
これから復讐する相手を思い浮かべているのか、彼女の目には涙が無い。
「離しません!ロザリア、行っては駄目です!」
「離さないと死ぬわよ?レティシア様を見なさい。」
ロザリアの言葉でレティシア様を見ると、そこには銃を俺に向けている。
「っ!?」
俺に銃を向けて微笑んでいるレティシア様。
でも今ここで俺を狙ってもロザリアに当たる可能性もある。
彼女はそれも分かっているから此方に向けているのだろう。
俺にロザリアを殺させないために…。
「…わたくしの意志は変わらない。もう関わらないで。」
ロザリアが腕を強く振り俺の手を払おうとするが俺は力を込めた。
諦めるものかっ。
「離しません。ずっと貴女の傍にいると決めました。今、ここで離して後悔したくない!」
するとロザリアは短剣を振り上げ俺が掴んでいる手を狙う。
「…っ、」
避けるが掴んでいる手は離さない。
ロザリアが振り下ろす短剣は特に変哲もないただの短剣なのに、何故か禍々しく光っている。
こんな物を持っているからおかしくなる。
ロザリアにこんなものは要らない!
もう一つの手で短剣を持つロザリアの手を掴む。
「目を覚ませ!こんなもので自分を失ってはいけない!」
短剣を奪おうとするがロザリアは離さない。
ロザリアは睨みつけ歯を食いしばる。
その短剣にまるで何か執着しているかのように。
「…やはり邪魔な存在ね?カルフェン・クラベル!」
俺達のやり取りをみたレティシア様は俺に銃口を向けトリガーを引こうとする…。
絶体絶命か!?
大きな音が響く。
レティシア様の銃が地面に落ちた。
「!?」
「俺の義兄を狙うなど、ふざけるなよ?そいつは馬鹿な義姉を説得しているんだ。そんな二人を邪魔をするな。」
刃物のような鋭い威圧、狂気を感じるまでは行かないが相手を脅かす目がレティシア様を捕える。
手には銃を持ってレティシア様にそのまま向けていた。
「グレン様!」
どうやら先ほどの者達を倒して来てくれたようだ。
怪我もしていない。良かった。
「…っ、まさか、貴方がここに来るなんてね‥?」
手を庇いながらレティシア様は憎らし気にグレン様を見る。
「…グレンまで…っ」
ロザリアは眉を顰め睨むが明らかに動揺している。
皆が貴女を心配している。だからこそやめさせなければならない!
「何をそんなに動揺することがありますか?皆、貴女が大切だから止めに来ました。今度は自分達が助けると言って必死になってくれています。もうやめましょう?こんなことしても無意味だ!」
俺の言葉を反発する様にロザリアは叫んだ。
「無意味?勝手に決めないで!ミウの願いは無意味じゃない!逆恨みで理不尽に自分の幸せを壊され、攫われ、死んでいく、その元凶を殺すことはミウみたいな子を救う事になる!わたくしは誓ったの、必ず元凶を殺す。ミウみたいな子を作らない‼」
「そんな事を貴女がしなくていいっ!その為にルーベルト様は動いているんだ、貴女を想って復讐じゃない形で決着つけようとしている!彼は約束を果たそうとしている。だからいい加減に目を覚ませ!」
俺達を繋ぐ手に力を込める。
お互いの目がぶつかり譲らない。
すると笑い声が聞こえた。
「何がおかしい?」
レティシア様が面白そうに笑っている。
グレン様はレティシア様に銃を向けながら睨みながら問う。
「ふふふ、ははっ、ルーベルト殿下が復讐じゃない形で決着をつける?そうね?王女が生きているもの、結婚して同盟反対派を抑え込もうと考えているのでしょうが、無理よ?」
「…どういうことですか?」
ロザリアを押さえつけながらレティシア様に視線を向けると、レティシア様は嘲笑うかのように俺に微笑む。
「あら?追加の話を聞いていないの?サラフィリア王女はロザリアと同じ悪役令嬢。つまりヒロインとルーベルト殿下の敵として現れるのよ?彼女はアランド王子の味方なの…明日の会合に彼女は現れるわ。ルーベルト殿下を殺すためにね?そして今それを止めるヒロインはここにいる。彼は死ぬ。」
サラフィリア王女が生きている。
確かにアンジェラ嬢に話は聞いたけど、どこに出るかは分からないと言っていた。
それを聞くとルーベルト様が危ない。
「だからロザリアがアランド王子を殺さなければ、ミウの願いは叶わないわ。」
レティシア様の言葉にロザリアの目が更に憎悪に満ちる。
「…そうなの…ルーが…。…許さない…絶対にあの男を殺す!!」
俺の隙を狙って腕を振り上げて手が離れる。
しまった!気迫に驚いて油断した。
ロザリアは再び短剣を俺に向ける。
「邪魔をしないでっ!」
「ロザリア…。」
憎悪に満ちた目。
憎しみと怒りが彼女を支配し善悪がつかない。
届かない…何があってもロザリアは復讐をするつもりだ。
すると、どこかから歌が聞こえる。
ねぇ きこえている? わたしはここにいるよ
はなれても ずっと きみのそばに
「!?」
「ロザリアッ聴いては駄目よ!」
急にレティシア様が狼狽する。
これはアンジェラ嬢の声?でも声が幼い気がする…?
どうか あなたのこころが かなしみに そまらないように
どうか あなたのこころが にくしみに とらわれないように
歌声の発生先をみると少し離れた港にアンジェラ嬢とアレス様、マリアン様とマリオット様…それにシリウス様達がいた。
「!?」
アンジェラ嬢の歌が響いている。
ロザリアもそれを気付き耳を塞ぐが、尚歌が続く。
いつまでも よびつづけるよ
それが やみのむこうでも きみにとどくなら
広い範囲では歌は効かないと言っていたけど、これなら彼女に効くかも!
急いでロザリアの手首を掴み耳から手を離す。
そして いつか めぐりあえるように
また てをとってあるこう みらいへむかって
「「っ!!?」」
ロザリアの耳から手をを外した瞬間、不思議な光景をみた。
岸壁のボラートに一人の赤毛の少女が立っている。
どうか なかないで
どうか わらって?
どうして少女が見えるなんて分からない。
でもその少女はアンジェラ嬢と同じ歌を歌っていた。
「…ミウ…?」
ロザリアがその少女に話しかける。
はなれていても わたしは きみを まもるから
「…ミウなの?」
ロザリアが声を掛ける少女がロザリアとルーベルト様にとって大切な人なのか?
< こころは ずっと そばにいる …そう、ずっと傍にいるよ。ロザ… >
「ミウ!」
少女は微笑んだ。
<やっと声が届いたね?ずっと呼んでいたのに、中々気づいてもらえなくて寂しかったよ?>
ロザリアは俺から離れ彼女に触れようとするが、彼女の体は半透明になっていて触れられない。
そんな彼女の前で悔しそうに顔を歪ませる。
「ミウ…ごめん、貴女の約束をわたくしは忘れていた…だけど、必ず果たすわ!わたくしの大切な友達の願いだもの!」
ロザリアが必死に訴えると少女は哀しそうに微笑む。
「…貴女がミウさんですか?」
<ミウでいいよ?もう死んでいるけどね?でも、こうしてずっとルーとロザを見ていたの。>
俺の言葉が届いた。
なら、聞くことは一つだ。
「貴女はロザリアに復讐を望んでいるのですか?」
「カム!」
ロザリアは俺をきつく睨むが、今はこの子に真意を聞きたい。
これが幻だとしてもロザリアを救えるきっかけになるかもしれない。
ミウは俺の質問に気を悪くしずに思った事を話す。
<…そうだね。私達みたいに不幸な子がいなくなってほしいと思ってルーとロザにお願いはしたよ。でも、私はルーとロザに不幸になって欲しくない。>
お願いをしたという事は、捉え方によっては改善でも復讐でも捉える。
でもこの子はまだ子供だ。そんなに深く考えていた訳ではないはず。
不幸になって欲しくないと言っているから復讐を望んでいない。
俺に意味が伝わったのかミウはニッコリと微笑んだ。
<…ロザの傍で貴方も見ていた。ずっとロザが幸せそうに笑っていたのは貴方がいたからだよね。そんな二人を見ていたら、不思議にね、私も幸せな気持ちになったの。ロザやルーだけでも守れて本当によかったって思えたんだ。>
ミウは純粋に嬉しそうに話す…凄く心の綺麗な子だ。
この子は誰もが持つ邪心がない。
それだけじゃない。
彼女の言葉を少し聞いただけで、安心する様な気持ちになる。
とても不思議な存在…。
ミウの言葉にロザリアは悲痛な顔をする。
「ミウ…待ってて、わたくしは必ずやり遂げる!ミウの願いを叶えるわ。貴女を殺したあいつらをわたくしは絶対に許さない!」
「ロザリア…」
ロザリアはここまで必死になるのは、ミウの存在がそうさせているのかもしれない。
孤独を包み込む様な温かさを持つミウにロザリアは自分の心を預けている。
子供が母親を求める様に。
ミウという存在を失ったロザリアは自分を見失うぐらいに憎悪を持った。
それだけロザリアにとってミウの存在は大きい。
<ロザ…ありがとう。でも、もうしないでほしい。大切な友達を不幸にしたくないの。>
「不幸になったりしないっ。わたくしだってミウが大切なの!命を懸けて守ってくれた友達の願いを叶えて何が悪いの!?」
ロザリアの目にまた涙が溢れる。
大切なのは分かる。でも間違っている。
「ロザリア、その願いを叶える事が不幸になると何故分からないのですか?命を懸けて守ってくれたのでしょう?ミウが貴女を不幸にさせたくて助けたと思っているのですか!?」
「っ!?」
怯えた目が俺を映す。
純粋な彼女が苦しむことになると分かっているからこそ、ミウはこうして現れた。
ロザリアを止める為に。
だからもう止めさせなければならない。
<…ロザ、お兄ちゃんのいうとおりだよ。私はロザもルーも不幸になって欲しくない。二人が大好きだから>
ミウが優しく微笑むとロザリアの身体は震えた。
今でも崩れそうな彼女を両手で支える。
「…っ、わたくしだってミウが大好きよ。ずっと…ずっと一緒にいたかった。あの時、皆で一緒にいられると思った。ルーやミウ、ビーやシーマがいて…わたくしは大好きになった皆と一緒にいられると思っていた。一人じゃないって思ったの…なのに、あいつらがそれを奪った!わたくしの大切なものを‼」
ロザリアが悲痛に叫ぶ。
それが本心…だから復讐を止めなかった
そんなロザリアをミウは安心させるかのように微笑んだ。
<…大丈夫、姿は見えないけど、いつも一緒にいる。>
「…っ、ミウ…。」
その言葉にロザリアの目から涙が伝う。
「ミウだけじゃありません。」
ロザリアを大切に想っているのはミウだけじゃない。
「…カム。」
「ロザリアには俺がいる。みんながいる。貴女を心配してずっと待っている。決して貴女を一人にはさせません。だからもう止めましょう?復讐しなくても別のやり方で俺たちがミウの願いを繋いでいけばいい、何でもあります。皆で協力してミウの願いを叶えましょう?」
俺の言葉にロザリアは更に身体を震わせて、大粒の涙が零れ落ちていく。
そんな彼女を抱き締めた。
「俺はロザリアが好きなんです。貴女の隣にいさせてください。」
「……ミウ…カム…ぅぅ…あああぁぁぁぁ!!!」
ロザリアは短剣を放し俺の服を握り締めた。
ずっと放さなかった短剣を手放したという事は、ようやく帰って来てくれた。
泣き続けるロザリアを強く抱きしめた。
決して一人にさせない。
今度こそ傍にいて守ると誓って。
< …お兄ちゃん、ロザをお願いね? >
その言葉に最後にミウの声は聞こえなくなる。
気付いたら歌が止まり、ミウの姿が無かった。
はい、俺がロザリアの傍にいます。貴女の分まで…。
ただ自分の腕の中でロザリア泣き続けている。
皆が静かに見守る中、俺はロザリアを離さない様に抱きしめ続けた。
読んで頂きありがとうございます。
カムがロザリアを止めるシーンはこの物語を投稿する時から決めていました。
ヒーローがヒロインを止めると言うシチュエーションは作者の好みです。
次からはようやくロザリアが帰ってきますが、主役であるロザリアにはまだ大きな役目があります。
もう一つの見どころになりますので、是非読んで頂けると嬉しいです。




