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憎しみに囚われる

視点がルーベルト→カム→ロザリアです。

ややこしくてすみません。


―王宮の一室ー


「ルーベルト殿下、ブロッサム令嬢から手紙が届いております。早急に確認して欲しいとの事です。」


侍女が手紙を差し出した。


早急?ロザリアが僕に?


手紙を受け取り開くとそこには…


「…ロザ。」


「ルーベルト殿下?如何なさいましたか?」


「…いや、遅かったか…。」


侍女が不思議そうな顔をするが気にせず職務に戻る様に促した。

そしてまたそ手紙を一瞥し窓を外を見つめる。


…彼女は思い出した。

本来ならヒロインの歌が無いと思い出せないはず…なのに。

でも心当たりがある。


恐らく切っ掛けになったのはあの時の髪飾りだ。


ミウがつけていた髪飾りに似た物…あの時に持ってきた奴らを取り調べたら奴らはとある貴族達と繋がりがあった事を知った。


自国でもファシアンみたいに隣国を恨む人間達がいる。

その者達が彼女に接近したのか?


でも、どういう理由でロザリアに接近した?


この件についてはまだ全部把握できていない。

なのに何てタイミングが悪い…。


「…カム、間に合わなかったみたいだよ。やはり彼女は動き出した。復讐へ…。」


手紙の内容を見ると最悪の展開になった。

まだこちらでは決着をつけていない。

このままでは断罪イベントを飛ばして追加シナリオどおりになる。


「でも、まだやれることがある…。」


そう思ったらすぐに手紙を認めた。


ロザリアが動くなら逆にこれはチャンスだ。

この国の裏側で暗躍する者たちを炙りだし他国に牙をむける前に制圧する。


「…ロザ…君をシナリオ通りに行かせない。」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


王城へ辿り着いた俺たちはアンジェラ嬢とアレス様に待ってもらい、まずロザリア様が訪問リストに書いてあるか城門の人に聞いた。


「リアン様どうでしたか?」


マリアン様に確認して戻って聞いてみるとマリアン様は首を振る。

どうやら芳しくないようだ。


「ロザリア様は来ていません。念のために明日、明後日の来訪リストを見せて貰いましたが、ブロッサム家、ヴァンデル家共にリストに名前がありませんでした。」


「となると、これから申請して来るということか?。」


「…そうだな、身を潜めることはない、来るなら堂々と来るだろう。でも、それも違和感がある。」


マリオット様の質問をグレン様は頷くが何か引っかかるらしい。


「何が違和感がするのですか?」


「…もし俺がロザリアなら相手と一対一で話をするだろう、それで説得して交渉次第で動く。ならこんな厳重な場所を選ばずどこか別の場所に呼び出したほうが騒ぎにならない。ロザリアは猪並の行動だが相手が相手だ。警戒はするのではないか?」


グレン様の意見に一理はある。

相手はこの国の第二王子だ。それも城で問題を起こすこと自体ロザリア様はしないだろう。

きっと周りを巻き込まない。

現に訪問リストに名前が無かった事がそれを裏付ける。


でも、ロザリア様が先に接触するのはルーベルト様だ。何らかの行動をするはず。

ならロザリア様に会う前に…。


「今からルーベルト様へ訪問は可能ですか?」


「ルーベルトが執務室に居れば可能だ。俺の権限で中に入れる。」


約束もないのに王族に勝手に会う事は出来ない。

いくら護衛を務めるマリアン様とマリオット様でも同じだ。

俺も主であるブロッサム公爵がいないのに城で勝手な行動はできない。

グレン様の権限で執務室に赴き会えればいいが、居ない場合は誰かにルーベルト様を呼び出して貰うしかないだろう。


「お願いします。彼にも事実確認をしなければなりません。」


城内へ向かおうと決めると突然女性の声が届く。


「…恐れ入りますが、カム・クラベル様でしょうか?」


呼ばれ振り返るとそこにはこの城の侍女が此方に向かって歩いてきた。


「はい、私がそうです。」


「ルーベルト王子殿下よりクラベル様に手紙を預かっております。」


ルーベルト様から手紙?


侍女から手紙を貰いそれを開ける。


「何て書いてあったんだ?」


「…ここにロザリア様は来ません。」


動揺する中、マリオット様がそわそわと聞いてくるが手紙の内容に驚きすぎて、それしか言えなかった。

その手紙を皆に見せる。

手紙には以下の事が書いてあった。


『ロザリアはとある場所にいる。僕が来なければそのままシナリオ通りファシアンの同盟反対派に復讐するつもりだ。僕はファシアンの王族と対面する為、行くことは出来ない。僕の代わりにロザリアを止めて欲しい。』


場所まで書いてあった。


その手紙を見ては皆息を飲む。


「あいつは馬鹿だっ、ルーベルト殿下が来なければ勝手にすると!?無茶苦茶だ‼」


「リオ落ち着いて。でも今から行くとなると、ここから半日以上はかかります。早くても着くのは夜ですね。」


憤慨するマリオット様をマリアン様が窘める。

その間、グレン様は侍女に質問していた。


「ルーベルトに会えないか?」


「申し訳ありません。ルーベルト王子殿下は会議に出ており会う事は出来きません。あと、もう一つルーベルト王子殿下の命より馬車の手配を致しました。護衛の騎兵達も数十人ですが待機しております。」


極秘の任務としてマリアン様とマリオット様に指揮を執って事を進めて欲しいと侍女は言った。


つまりロザリア様が待つ場所は危険なところになる。

ルーベルト様はどこまで把握しているかは分からないが、この国で暗躍していた者達を捕える様に兵を動かしてくれた。



「分かりました、行きましょう。」


どんな場所でもそこにロザリア様がいる。

なら、行くまでだ。

彼女を止める為に。



侍女にこの手紙をシリウス様達に伝えるように言って、アンジェラ嬢達を呼び馬車に向かう。


行先は事件が遭った港町。


そこで大切なものを失ったロザリア様とルーベルト様にとって忌まわしき場所。


手紙の最後にはこう書いてあった。


『ミウは復讐を望んでいない。あの子の想いをもう一度思い出してと伝えて欲しい。』


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



潮風が肌を撫でる。


あれから月日は経ってもここは何も変わらない気がした。


「攫われてきただけなのに、そんなこと思うなんておかしいわね。」


そう、そう思うのはおかしい。

周りをみると町らしきものはなく瓦礫や焼けた建物の残骸が多く残っていた。

ここ数年、人が住み着いた様子もなくあの当時のままになっていて、とても人が住む町には戻れないだろう。


でも変わらない気がするのはきっとそういう理由だろう。

誰も住み着かない。そうここで遭った悲劇を物語っている。


「ロザリア、そっちは寒いわ。まだ時間があるから少し温まってゆっくりしましょう?」


男達と話し合っていたレティシア様がこちらに近づいて声を掛ける。

振り向くとレティシア様と一緒にいた者達は別のグループの元へ去っていく。

話は聞いていたけど、この国にもファシアンに恨みを持っている人は結構多い。

様々な貴族・平民達がレティシア様をリーダーとして従っている。



「…もう少しここに居たいわ。…ねえ、レティシア様…教えて下さる?」


「なあに?心配事?」


レティシア様はわたくしを見ながら優しく微笑む。

聖母というより母が子供に、姉が妹に接する様な態度だ。

レティシア様がわたくしに接する態度は周りの人達に対しての態度と違う。


彼女もここで遭って大切な人を失い恨みを持つ一人、誰を無くしたのは教えてくれないけど。

それでも色々な準備を彼女が行っている。

因みにレザード様はいない。

王都でやることがあるらしい。


今の彼女ならわたくしの質問に大体答えてくれるかもしれない。


「…貴女は“転生者”なのですか?」


「…違うわ。わたくしは転生者ではない。だって転生者だったら、()()()がこの事件に巻き込まれる前に止めていたわ。」


レティシア様は否定する。

それもそうだ…でも、カムみたいに突然思い出したのかもしれない。


「疑っているのね?いいわ、どうしてわたくしが知っているのかを教えてあげる。それはお義兄様が“転生者”だからよ。」


「レザード様が?」


「ええ、お義兄様は前世でお姉様がこのゲームをしていたそうよ?わたくしはお義兄様に聞いてこの復讐を叶えようと思ったの。シナリオ通りならロザリアはファシアンの同盟反対派に復讐する。わたくしはその手伝いが出来ればいいと思ったわ。」


レザード様が養子になった時にレティシア様はこのゲームの話を聞いたそうだ。

そして亡くなった人の復讐の為にわたくしの味方をなると決めた。


成程、だからレティシア様は初めから第二王子の婚約を拒んだ。

シナリオ通りにわたくしを婚約者とさせる為に。


「なら何で、直接わたくしに言わなかったのですか?思い出せればもっと早く復讐が始められた‥いえ、わたくしも復讐の準備が出来た。なのにシナリオ通りなんて…煩わしい事を…。」


「…話をしても、貴女の記憶が戻ると限らないわ。第一、貴女の傍にはあの男が必ずいる。言えば必ず止めるでしょう、そして警戒する。それがわたくしには許せない。わたくしと同じ想いを持っている貴女を失いたくなかった。だからシナリオ通りに進めたの。自分で思い出してほしかったから。」


レティシア様の懸念は分からない訳ではない。

そのシナリオのとおりに行けば復讐が叶うと聞けば、それに期待するだろう。

自分がレティシア様だったら同じことをするか…いやしない。


「レティシア様はわたくしが居なくてもファシアンに制裁を下すことが出来たのではないのですか?」


わたくしがレティシア様ならそうする。

同じ公爵令嬢で外務大臣の父を持つ。

それだけで他国へ介入する権限をもっている。

わざわざこんな遠回りしなくてもいい。


すると「ロザリアもお義兄様と同じこと言うのね?」とレティシア様は笑った。


「…現にこの世界は“ヒロイン”が存在しているわ。やはりその辺はゲームと同じなのよ。もしわたくし達が勝手に動いたとしても“ヒロイン”がルーベルト様を改心させてわたくしたちの邪魔をする。アンジェラも前世の記憶を持っていてそれを叶えようとしていた。だからシナリオ通りに進めようと思ったの。その方が事を上手く進めることが出来るから。」


シナリオ通りなら自然にわたくしは記憶を取り戻しアンジェラを消そうとする。

断罪されてもわたくしは隣国へ復讐する。

だからレティシア様は出来るだけルーベルトのハッピーエンドのシナリオに向かわせようとした。


「レティシア様は随分はっきりと仰るのね…それはわたくしを盾に利用すると言っているのと同じだわ。」


悪気もなく素直に話すレティシア様に怒りの感情は湧かない。


だって、それはあくまでゲームのシナリオだ。実際はそうならなかった。

わたくしたちがシナリオを壊していたから。

現実、アンジェラはシナリオ通りに行かなかった。

レティシア様は「結構お膳立てはしたのよ?」と苦笑する。


「…貴女の従者が転生者だったのは一番の誤算だったわ。もっと早く気付かなかったのか自分を責めたぐらい…。だから本編のシナリオは殆ど壊されたけど、念の為に進めていたの。ロザリアの噂とブロッサム家が悪い事をしている噂をね?…これはあっても意味は無かったけど、ロザリアの過去を思い出させる為に必要の事だった。」


「…今年の夏…ルーに見せろと言った髪飾りは貴女が仕掛けた事なんですね?」


それを指摘したらニッコリとレティシア様は微笑む。

…正解だそうだ。


レティシア様が淡々と今までの事を語る。


今までアンジェラへの刺客はブロッサム家の名を出していた。

これはレティシア様が仕掛けた事。

どの道、“癒しの聖女”は暗躍を企む者達にとって邪魔なものでしかない。

シナリオどおりにアンジェラを消す様仕向けた。

いつかわたくしが思い出して復讐を望んだ場合、自分の味方がいると知らしめる為に。


そしてレティシア様はルーが親善大使になる事が決定した頃からわたくしとカムを離そうと目論んだ。

カムがいるといつまでも邪魔をしてわたくしが思い出せない。


「カムから離れたとしても、別に彼は関係ないから意味は無いのではありませんか?」


「貴女はルーベルト殿下ではなく彼に依存している。だから失われた記憶を思い出そうと思わなかったのよ。でも彼と離れロザリアとルーベルト殿下だけが残った。元々貴方達は同じ過去を経験した者として繋がっている。二人だけになれば必ず思い出すとわたくしはそう読んだわ。」


相手に恋慕を抱くことは無くてもミウの存在は二人にとって大きいもの。

カムではなくルーに意識を向ければ過去の記憶を引きずり出せると思ったらしい。


そして案の定カムが離れたことによって、わたくしが不安定になりルーが支えようとした。

カムと言う守る壁が無くなり記憶を取り戻す準備が出来たという事らしい。


「でも、何故わたくしが記憶を取り戻しかけていると気づいたのですか?」


ゲームはヒロインの歌を聴いてわたくしは記憶を思い出すが、実際に彼女の歌を聴いたが思い出せなかった。

なのにレティシア様は気づきわたくしに近づき思い出させる事が出来た、タイミングが良すぎる。


「以前、貴女はアンジェラの歌を聴いているわよね?あの時わたくしも見ていたの。確かに貴女は思い出さなかった。でも、それが切っ掛けになっている事にわたくしは気づいたの。その時から頭痛があったのじゃない?」


時折頭を押さえる姿を何度も見ているとレティシア様は言う。


学園でレティシア様はわたくしを常に監視していた。

アンジェラの噂をダシにして生徒を使い様子を見ていたらしい。


言われて何となく納得した。


普段、頭痛持ちじゃないのにわたくしはアンジェラの歌を聴いた時から頭痛がするようになった。

でも、最初は重くなかった。

それに色々とあったから気にすることもなかったから余計に何も思わなかった。


そしてカムが離れた後に頃合いをみて飾りを見せた。

これを見てミウの願いを思い出してほしいと。


ただ、これと同時にルーはアンジェラから追加シナリオを聞いて壊すために動き出した。

本来のシナリオならわたくしの断罪後に起きるイベントなのに。断罪イベントを飛ばして早々とファシアンの同盟反対派を抑える為にファシアンの第二王子と接触する。


だからレティシア様はわたくしに接近したのだ。

記憶を取り戻すために…。


ここまで酷い話を聞いているのに、やはり怒りを感じない。

レティシア様がわたくしに復讐をさせようとしても、その為に罠を引き貶めようとしていた事も。


ただ、どうでもいい。今やらなければいけないのはミウの願いだけだから…。


レティシア様はそんなわたくしを嬉しそうに微笑む。

「流石は、わたくしのロザリアだわ」といい、肩を抱く。


「荒療治をしてしまった事は謝るわ。でも記憶を持った貴女が必要だったの。シナリオ通りでも、そうじゃなくても、わたくしは最終的にロザリアだけが居てくれればいいの。同じ目的を持った同志ですもの。今の貴女がわたくしの心の支えになっている。」


レティシア様はわたくしの肩に頭を乗せ切なそうに海を見ている。

わたくしも彼女が見ている先を見るが海は穏やかだった。

あの時は大雨で海は粗ぶっていたのに、まるで何もなかったように静かだ。

でも夕日は赤々としている。

あの日の出来事を焼き尽くす炎、そしてビーとシーマ…ミウの身体に流れた血の様に…


「…ロザリア、彼は果たして来るのかしら?…この忌まわしき場所に…。」


「…さぁ?来ても来なくてもわたくしの意志は変わらない…それだけよ。」


ルーが来なければ、それはそれでいい。

既に王家に近づく手配は済んでいる。


来たならば、もう一度真意を問う。

ミウの願いを叶えるか、否か。


否定すれば、それ相当の覚悟をしなければならない。


手に持っていた短剣を鞘から取り出す。


ここに来る前にレティシア様があの時の短剣を渡してくれた。

研いであるのにあの時を語る様に所々に錆の後がある。

夕日の光を浴びる短剣はあの時の首謀者の血を吸った様に赤く光っている様に見えた。


短剣に映る自分の紅い目が親玉の紅い目と被る。


今度はわたくしがお前の大事な()()に復讐しよう。あの時、お前が言った言葉のとおりに…。




そっとレティシア様はわたくしから離れ小さく呟いた。


「…ルーベルト殿下は必ずあの男を動かすわ…でもロザリアの邪魔はさせない。ここでわたくしが彼を殺す。…わたくしの希望を脅かす存在…カルフェン・クラベルっ」


レティシア様は怪しい目を光らせ怒りに表情を歪める。まるで聖母が鬼化した様に…。


短剣を眺めているわたくしはそれに気付かなかった。



いつも読んで頂き有難うございます。

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