表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/162

凍てつく約束


暫らくすると何か外で騒いでいる声がする。


「外が騒がしいです。…あれは騎士団?」


外を覗くシーマの言葉に全員が窓を覗いた。


町の住人に扮した人攫い達と数十人の騎士たちが話している。

口論している様にみえる。…もしかして探しに来た?


「今僕たちが出れば、騎士たちが助けてくれるかも!?」


シーマが王都の騎士団が救助に来たんだと確信して話す。

それにわたくしたちは喜んだ。


「行こう!」


そして皆で頷き建物から急いで出た。


ようやく助かるっ!そう思うと涙が溢れる。


わたくしはミウの手を握り一緒に走り出した。


騎士たちの所は少し遠い。

だからそれまでに捕まらない様にしないと…。


皆で走っていると後ろから大きな音が聞こえた。


その音と共にビーとシーマが倒れる。


「…ビー?シーマ?」


二人を呼んでも声がしない。ただ二人の周りに紅い血が溢れる。

音の方へ振り向くとガタイの大きい親玉らしき男と手下がいた。


「そこにいたのかガキども‼お前ら、こいつらを人質を取れ!」


その音に人攫いの男達と騎士たちが気づき此方に向かってくる。

距離が短いせいか男たちの方が速い。


捕まっちゃう!


騎士たちは周りの男たちを倒すのに必死でなかなか来ない。


「まかせて!」


ミウはまた息を吸って歌いだす。…でも。


「このガキか、妙な手を使うのは!?」


男が追い付きミウの口を手で塞いでそのまま持ち上げる。

わたくしの手まで引っ張られた。


「ミウ!?きゃあ!?」


わたくしの後ろにも男が現れわたくしの首を腕で締めた。


「ミウ、ロザ!?」


ルーは短剣を持ちわたくしの方へ向かい男の腕を斬りつける。

男は悲鳴をあげわたくしを放したが、手で強く振り払われルーと一緒に地面に叩きつけられた。


「っ!」


「そいつだけじゃ駄目だ。その男のガキを人質にしろ!そいつは王子だ!」


ガタイの大きい男はやはり親玉らしい。


それを聞いた男たちはルーを狙ってくる。


このままではルーが捕まる!


腕を斬られた男もルーを捕まえようとしているし、ミウも捕まっている。どうしたら…。


するとまた大きな音がして、ルーを捕まえようとする男達が倒れた。


「ルーベルト殿下、ご無事ですか!?」


やっと騎士たちが追い付いた。


「チッ!?クソォ、そいつだけを連れてこい‼」


親玉が叫ぶとミウを抱えた男は警戒しながら主の元に行った。

そしてミウがそのまま親玉の手に渡り、逃げるように港に行く。


「「ミウ!?」」


そんな人攫いの男たちを騎士たちは銃を向けて撃とうとする。


「止めて!ミウに当たってしまう!」


「ミウ!」


ルーが向かおうとすると突然、複数の建物が爆発した。

周囲を見渡すと、辺りが赤黒い煙に包まれる。


「な、なに?」


「建物が爆発?…でも待って。確かシーマの話だと、まだ僕たち以外に子供がいるって…。」


子供がいる?…も、もしかして…


「…嘘…」


考えるとガクガクと身体が震えた。


「ロザ!気をしっかりして!ミウを助けないと!」


泣きそうになっているとルーが必死に訴える。

ビーもシーマも動かない…耳を塞ぎたくなる現実に心が折れそうだけど、まだ終わっていない。

そ、そうだ。まずミウを…ミウを助けなければ…。


「駄目です。ルーベルト殿下ここは危険です、どうぞ避難を!それに相手は平民です。捨てて置きましょう?」


「煩い!国の民を守るのが騎士の仕事だ!職務を全うしろぉ!」


騎士の言葉にルーが怒鳴った。

そんなルーに騎士たちは尻込む。

7歳児の子供なのに凄い気迫だ。でも今は…。


「ルー、ミウを助けよう!」


「ああ!」


わたくしたちはミウの方へ向かった。


港に着くと岸壁に小型船がある。

相手は船に乗って逃げるのだろう。


でも、どうしてか船が動かない。


するとボロボロな恰好した一人の女の子が船から出ていた。

顔に殴られた跡もある。だけど正真正銘の…


「ミウ!?」


ミウがフラフラと此方に向かって歩いている。

もしかして歌って逃げた?


「…ロザ…ルー…。」


「ミウ!」


ミウに追いつき二人でミウを抱き締めた。


「…良かった‥ミウ…無事で…」


「…ビー…とシーマは…?」


虚ろな目でミウは見ている。

その言葉に胸が痛くなる。

だって…二人は…。


わたくし達は何も言えなかった。

ミウもそれが分かったようで暗い顔をする。


「…そうか…守れなかった…。」


ミウの目に涙が溢れる。

釣られるようにわたくしも涙を流す。


「ミウ、ミウっ、ごめん…でもミウだけでも無事でよかった。本当に良かった…」


「…取り敢えず騎士の元に行こう?まだ安全じゃない。」


ルーの言葉に涙を拭いて騎士たちの元に歩き出した。

ようやく終わった…その時のわたくしはそう思って安心した。



だけど悪夢はまだ終わっていない。



「…ミウ…王都へ行ったらわたくしと一緒に暮らそう?そしてビーたちのお墓を作ろう?」


支えるように二人でミウを肩を抱き提案するとミウは悲しそうに微笑む。


「…嬉しい。でもロザと住む世界が違うよ?…だから無理だよ…。」


「いいえ、ミウはわたくしたちの命の恩人だもの!誰にも文句を言わせないわ!」


そうよ。もしミウがいなければ、わたくしたちは殺されていた。建物を爆発されて皆死んだわ。

だからミウは命の恩人そして何よりもわたくしの大切な友達。


「ミウはわたくし達の大切な友達よ。だからわたくしが守るわ。ずっと一緒よ?」


「ミウ、ロザと暮らすのは難しいと思うけど、僕が君を保護する。だから心配しないで?ビーたちの分まで生きよう?」


「何よ!?わたくしの家は公爵家よ?ミウを保護ぐらい出来るわよ!」


ミウを挟んで言い合うけど、わたくしもルーもミウを守りたい気持ちは同じだった。


「…ロザ…ルー…うん。ロザ、ルー…大好き。」


少しだけ元気を出したミウにルーとわたくしは安心した。

こんな辛い目に遭ったけど、これから幸せになればいい。

ビーとシーマと分まで。


近くにいる騎士の元に辿りつき一安心…と思ったら後ろから先ほどの親玉が現れ大きく怒声を響かせる。


「このクソガキどもっ、死ねぇ!!!」


そして怒声と同時に銃をこちらに向けて撃った。



怒鳴り声と大きな火薬の音で何かあったのかすぐ分からなかった。

だけど咄嗟にミウの手がわたくしとルーを押しわたくしとルーはバランスを崩し倒れる。



そして振り返ると同時に小さな体が傾く。

時間が遅くなったかのようにゆっくりとミウの身体は崩れた。


「…ミウ…?」


男はこちらに銃口を向けていた。

それをミウが…


「…ミウ?…ミウ、ねえ、ミウ…」


ミウの傍に膝をつき肩を揺らすけど反応がない。


その間に騎士たちが銃で男を撃った。


「ミウ!」


ルーもミウを呼ぶが反応が無い。


ミウのお腹から紅い血が溢れる。


「…待って?‥ねえ待って…嘘でしょう?ミウ、ミウ、しっかりして!」


必死に声をかけるとミウの目がゆっくりと開く。


「…ロザ…ルー…。」


「ミウ!」


「誰か救護班を!」


ルーは騎士たちに大きな声で指示をした。


「ミウ、頑張って!助かる、絶対に助かるからっ、お願いだから死なないで!」


ミウの手をぎゅっと握り締めて訴える。

大丈夫、絶対に助かるから、頑張って!何度も必死に言い続けた。

けど、ミウは更に苦しそうになる。


「…ロザ…ルー…お願い…。」


「ミウ!?」


ミウの息がヒューヒュー言っている。

凄く苦しそう。


「‥うか…悪いヤツの…せいで、私達…たいな…子が…不幸になる…だから…ルーとロザ…で守って。」


ミウの身体から血が流れ、雨水と混ざり合い広がっていく。


「ミウ、しっかりして!もうすぐ救護班が来るから!」


ルーも必死にミウを呼ぶ。


「ロザ…ルー…きっと…大き…なったら…一緒に…ってね?…悪いヤツ…いっ…やっつ…てね‥?」


段々ミウの言葉が弱くなっていく。


「ミウお願い、死んじゃだめ!」


ミウの顔色も段々血の気が薄れていく。


「約束するよ!ミウっ、悪い奴は絶対に許さない!」


ルーはもうミウが助からないのを分かったのか、必死にミウの手を握って誓う。


「…っ、私も約束する。だから、ミウ死なないでっ!」


わたくしもミウの手を必死に握り締め誓う。


神様、お願い…ミウを連れて行かないで!


「…どうか…かな…ま‥いで…?わた…は、ずっと…一緒に…る。ルー…もロザも…一緒…」


雨がミウの目にあたり涙と共に流れる。


「ミウ!?」


「‥だい…すき‥‥」



そう言ってミウは静かに目を閉じた。



あ…あ……




「「ミウーっ!!」」





冷たい雨が降り続く中、ミウの手は段々と冷たいなってゆく。


これは雨の所為?


ミウは目を開けない…もう開くことは…ない。



わたくしはずっとミウの手を握りしめ泣いた。

ルーは呆然と力なく座りミウをずっと見ている。


わたくしたちは助かったのに…何故必死に助けようとしたミウとビー、そしてシーマと捕まった子達が犠牲になるの?


なんで…。


ふと見ると騎士たちが親玉を連れて歩ているではないか。

男は手を後ろに拘束されて此方に歩いている。


…なんでミウ達が死んで、悪いヤツが生きているの?


こんな理不尽なことはない。


そう思ったら、わたくしの心は一気に男への憎悪で溢れた。

向かいにいるルーを見ると、さっきミウが奪った短剣がある…。


「…ッ、お前たちの所為で…ミウが…ミウが‼」


ルーから短剣を奪いそのまま走る。


絶対に許さない!


首謀者を連行する騎士たちが止めようと動くが小柄だから簡単にすり抜けた。

そして男の腹部を刺す。


「わたくしはお前たちを絶対に許さない‼」


「ガキっ…く、馬鹿なガキだ。…お前も復讐の道に行く、お前は俺と同類だ!」


呪いの言葉が耳に届く。


男は自分の足を思いっきり動かしてわたくしを蹴り飛ばした。


「っ!?」


「ロザ!?」


石で出来た柱に頭が当たり意識が飛びかける。


「ロザ!しっかり、何て馬鹿な事を!?」


近くでルーの声が聞こえる。


でも…


「…絶対に…許さない。」


また短剣で刺そうと顔を上げたが、男は銃で撃たれたところとわたくしに刺されたところから血が出て今にも倒れそうだった。

騎士たちはそのまま男を連れて行く。


「頭から血が出ている…大丈夫かい?」


雨とは違う生温かいものが顔を濡らすけど、気にしていない。

そんなことより…


「…大丈夫。…ねぇルー。」


「?」


「もし、ルーが力をつけてミウの願いをかなえるなら…その時は、わたくしも一緒に連れて行って。」


頭がクラクラする…でもまだ全部伝えていない。


「…ロザ。」


ルーは怪訝な顔をする。


「わたくしも頑張るから…ルーを支えるから…一緒に…ミウの願いを叶えよう?」


「…うん、分かった。一緒に叶えよう。」


「約束よ?」


言いたいことを言って、ゆっくりと起き上がりミウの元に行った。

まだ頭がクラクラする。だけど今はミウの傍にいたい。


騎士たちが此方に来てルーに話しかけている。


「ミウ…。」


目を閉じたミウ。

もう体は冷たい。


ミウの髪飾りも割れてバラバラになっている。

綺麗な髪飾りだったのに…割れてしまった。


冷たい手を握る。

少し前に見えた、あのミウの温かい笑顔が恋しい。


温かい声でもう一度、『ロザ』て呼んで欲しいのに…もう叶わない…。



「ブロッサム嬢、お怪我をされています。どうぞこちらに…」


女性騎士がわたくしに治療する様にと促す。


「…ミウといたい。」


「駄目です。彼女は他の騎士が王都に連れて行きます。だから行きましょう。」


かたくに拒否しても女性騎士は聞いてくれなかった。

やむなく女性騎士と一緒に治療に向かった。


町を歩いていると、爆発してまだ燃えている建物があっちこっちあった。

騎士たちが必死に火を消している。


「まだ爆発しているところがあります。建物に近づかないでください。」


女性騎士が注意を呼び掛けるが、わたくしは殆ど聞いていなかった。


そして目の前にビーとシーマが横たわっている姿が見えた。

顔に布が被せてある。


「…ビー…シーマ…。」


顔を見ようと自然に体が動いた。


「ブロッサム嬢!?」


女性騎士の止める声よりも大きな爆発音が耳に届く。


「え?」


大きな風がわたくしを襲う。


そこからわたくしの意識は無くなった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・



目が覚めたらそこはいつも見るブロッサム邸の私室だった。


「お、お嬢様!?お嬢様!お気づきになられましたか?」


使用人の一人がわたくしを見ては酷い狼狽をしている。


「お嬢様っ、お待ちください。すぐに旦那様をお呼びいたします!」


慌ただしく使用人が部屋を出て行ったが、何があったのかよくわからない。


「…あれ?身体が動かない…。」


よく見るとわたくしの身体は包帯だらけだった。

右足と左手、頭にも包帯が巻いてある。…どうしてこんな大怪我を?


「ロザリア!?」


疑問に思っていたら、お父様がわたくしの部屋に飛び込んだ。


「…お父様?」


「ああ、良かった…本当に良かった!ロージィ怖かったな、酷い目にあったな?もう大丈夫だよ。お父様が絶対にお前を守ってやるからな!」


お父様が涙を流しわたくしを抱きしめる。

状況が分からないのに一体何を言っているの?


でも身体は痛くて動かない。


…わたくしなんで寝込んでいるの?


どれぐらいわたくしが寝込んだのかを聞いてみると一週間もわたくしは眠り続けていたらしい。

お父様はただ泣くばかりで、わたくしに何があったのか説明してくれなかった。

階段から落ちたのかしら?


何があったのか全く記憶が無い。


そして早々と休む様に言われては、私室にわたくし一人だけになった。

休めって言われても、起きたばっかりだ。

それに外は明るい。


「…うっ、」


上半身を起こし部屋に置いてある大きな鏡をみる。



…随分ボロボロな姿だ。公爵令嬢なのに…



「…こんな姿を王子様がみたら幻滅するわね?」


鏡を見ていたら、ノックの音が聞こえ侍女が入ってくる。


「…お嬢様、軽い食事をお持ちしました。」


「…ねえ、アリア。」


「は、はい。」


何故か侍女がお盆を持ちながらびっくりしている。


「…何よ?」


「え、はい。初めて名前を呼んで頂けたので、少しびっくりしまして…。」


ああ‥そういう事か、いつも“貴女”と言って名前を呼ばない。

この子は確か最近侍女になったばかりの子だ。まだ14歳と聞いている。

やけにビクビクしているが…どうでもいい。


「ふーん。」


「なんでしょうか、お嬢様?」


おずおずとアリアが聞いてくる。

何よ、文句を言われると思ったのかしら?


「…いつから勉強を再開するの?出来れば早くしたいのだけど。」


「っ!?」


またアリアがびっくりしている。


「え?え?そ、それはお嬢様のお怪我が治ってからだと思いますが…お嬢様?」


「ふーん。そう、じゃあ早く治さなければね?これから大変だわ。悪いけど、一人で考えたいことがあるの。一人にしてくれる?」


一人納得しては、混乱しているアリアを追い出す。

そしてアリアが退出してまた一人になった。


お盆のうえの食事に目を向けずただ窓を眺める。


外は晴れてもう雨は降っていない。



「…。」


何があったのかは覚えていない。


…でも一つだけ覚えていることがある。


「わたくしは王子様と結婚したい…いいえ、わたくしは必ず王子様の伴侶になる。」


その為に公爵令嬢として頑張ろう。


大きな力を得る為に。



この時はどうして王子と結婚に執着したかは分かっていなかったけど、鏡に映るわたくしだけは理由を知っていた。


< 例エ、記憶ハナクテモ。イツカ必ズ思イ出シテ約束ヲハタス。ダカラ待ッテイテ? >


鏡に映る自分の姿は涙を流し呪うような眼差しをむけている。


< ワタクシノ大切ナモノヲ奪ッタ者タチヲ、絶対ニ許サナイ!>


わたくしはそんな事に気付かず、この先の未来を考えていた。


※※※

いつも読んで頂き有難うございます。


これで回想シーンは終わりですが、ルーベルト視点でも少し出てきます。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ