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過去に眠る大切な人

ルーベルト視点からのロザリアです。


執務室に一人の青年が書類を眺めている。


これで段取りができた。

後はファシアン側の親善大使と打ち合わせし、後日にファシアンに赴く。

親善大使として色々と手を打ったんだ。

これにはファシアン側も文句は言えないだろう。


「ルーベルト殿下、あちらの親善大使がお見えになりました。」


衛兵がルーベルトの執務室に入り来客を告げる。


「…ご苦労、すぐ向かう。」


衛兵は敬礼し執務室をでる。

執務室には護衛はなくルーベルトただ一人だけだった。

席をたち一人窓の外を見る。

外は雨が降っていた。


「…まだ雨は降っている。ロザリア…あの時もこんな日だったね?]


大地を包み込み潤す温かい雨ではなく残酷な現実を突きつける様に降り続けた。

あの子は自分達の所為で死んだと嘆く様に。


「…今思えば、僕があの場所にいなければあの子は助かったのかもしれない…君もあの場に居なければ違う結果なったかもしれない。」


そうしたら君は復讐を望まないだろう。

ただ普通に貴族として結婚して、普通に幸せな生活を望んだ。


だけど、あくまで現実逃避に過ぎない。

あの悪夢は既に起きた事…過去を変えられるわけがない。


自分たちにとってあの子たちを失った事は大きな傷になった。

自分の生き方を捻じ曲げる程…君は絶望したのだから…。


でも今の君には大切な人がいる。彼の存在でどうか忘れたままでいて欲しい。


現在、彼は拗れてしまっている…まあ、仲間達がどうにかするだろう。


「お膳立てはしたんだ…これで立ち直らなければ、ただの愚か者だ。」


仲間はカムがロザリアから離れていくことを良しとはしないだろう。


唯一、本来物語には関係ない人物(カム)悪役令嬢(ロザリア)の隣に居て攻略対象者達と悪役令嬢達に影響している。

皆が関係ない彼を慕っている。


そして自分も…だから手を貸した。

内密でシリウス達に貴族の機密情報を見せるように言ったのは自分。

後は仲間達が上手くやってくれる。

残るはロザリアがあの事件を思い出すまでに事を片付けるまでだ。


僕は彼女の大切な人にはなれなかった。

それは仕方ない。でも、もう一人の大切な人は取り戻せるかもしれない。

再び恋心が湧くかどうかは分からないけど、それでも傍にいるならいい。


「…()()…君が僕を殺すシナリオがバッドエンドか…。その前に僕が終わらせる。」


この先の行方を覚悟する様にルーベルトは拳を握り締めた。


もう外は闇に包まれ静かに雨が降り続く。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


そして一方…。


「…ロザリア、着いたわよ。」


朝日が昇り辺りを照らす。

昨日の雨が止み外は晴れ晴れしている。


どうやら馬車の中で寝てしまったようだ。

まさかミウが眠る場所がこんなに時間がかかるとは思わなかった…途中、休憩をした覚えがあるけど、殆ど気を失うかのように眠っていた。

レティシア様は「病み上がりだから仕方ないわよ」と微笑む。


馬車の窓から覗き周りを見るが、全く見覚えのない場所だ。


「ここはどこなんですか?」


「ここはバロンとファシアンで停戦を結んだ場所。みて、向こうにファシアンが見えるでしょう?」


レティシア様の指さす先にファシアン国が見える。

ここはバロン国とファシアン国を繋ぐ場所になっているのね。


「さあ、降りましょう?お義兄様が待っているわ。」


レザード様が?

何故?と疑問になって聞こうと思っても、ただ頷きレティシア様に着いて行く。

本当に自分はどうかしてしまったのだろうか?

彼女の言葉に逆らえない。


レティシア様に着いて行くと霊園の門があり、そのままわたくしたちは中に入った。

沢山の平板の石で出来たお墓が並んでいる。


「ここのお墓は全てファシアンとの戦時で亡くなったバロンの人達よ。」


「…ここで沢山の人達が眠っているのね…?」


「ここに並んでいるお墓は貴族たちや将軍と言った偉い人よ。爵位なき雑兵士達はまとめて一つのお墓に眠っているの。そしてそこに戦に巻き込まれて死んだ平民たちもいる。あの子達もそうよ。」


「…どうしてあの事件で亡くなった子達がここで眠っているの?戦は関係ないじゃない。」


そう、あの時は子供を狙った事件だった。

わたくしもルーベルト様も貴族・平民問わず攫われた。


「そうね、戦ではないわ。でもね?バロンに遺恨を持った人間がファシアンに沢山いるの。ルーベルト殿下から話を聞いているでしょう?同盟反対派がいると。あの事件はその人たちが事件を起こした。亡くなったミウ達は間接的だけど戦争の被害者なのよ。だからここに眠っている。」


ああ…そう言えばミウもそんな事を言っていたわね?


『私達を嫌っている隣国の悪い人たちが売り飛ばそうとしているの。』


人が連れ攫われるという事はどの国にもある事だが、この国で人を攫う事件が多いのは訳がある。


殆ど主犯人は恨みを持ったファシアンの人達。


バロン王国とファシアン王国の戦はここ数十年前に終わったばかりだ。

その為、まだ戦の爪痕で恨みを持つ者達がいる。

隣国と戦が終わった後にバロンの民を狙った犯行が頻繁になり、現在は他国の人が入国するには厳しいチェックを受けないと入れない。


でも前はそこまで厳しくなかった所為で理不尽に被害を受ける人たちがいた。


わたくし達もそれに巻き込まれた。


でも…貴族である自分よりも平民はもっと狙われる。

攫われてもその領地の要人しか取り合ってもらえない。

平気で連れ攫われ自分の家族や幸せを壊されてしまうのだから…。


段々怒りが込み上げてくる。


あの時のわたくし達はあの子がいなかったら死んでいた。

その代わりあの子が死んだ。


理不尽に…奪われた…。


絶対に許せない。


怒りに眉を顰め静かに怒るわたくしをレティシア様は嬉しそう微笑む。


歩いて行くと奥に大きな墓石が立っている。

その前にレザード・ヴァンデル様がいた。


「お義兄様、お待たせしましたわ。」


「いいよ。…ようこそ、ロザリア嬢」


「ご機嫌様、レザード様」


相変わらずレザード様は睨む様にわたくしを見る。わたくしはこの人に何かしたのだろうか?

いつもわたくしを見ては嫌そうな顔をする。


「お義兄様、ロザリアに意地悪しないで頂戴。ほらロザリア、花を添えましょう?」


自分の兄なのに、ほっときましょう?とレティシア様はわたくしの手を取り花を添えに進む。

その間のレザードの視線が痛い。


取り敢えず、レザード様を無視してレティシア様と一緒に花を添えて祈りを捧げる。



ミウ…あれから10年の月日が経ったのね?

ミウだけじゃない、ビーや他の子達もここで眠っている。


遅くなってごめん。忘れていてごめんね?でも、あの時の約束を必ず叶えるから。


< おかえり、ロザ… >


「…?」


あの時のままのミウがまるで目の前でいる様な気がした。

これはわたくしの願望かもしれない。


ミウ…待ってて…


思い出したの。何故、小さい頃に王子との結婚に拘っていたのかを…。


わたくしは公爵家の娘。


王家の血を持つ一族なら自国や他国の王家に嫁ぐことが出来る。


記憶を失っても、ミウの願いを叶える為にわたくしは王家に嫁げる様に努力していた。


全ては隣国へ介入する権力を得る為に。



…ああ、彼にもあの約束を守ってもらわなければならない。


わたくし達は、あの時の約束した“同志”だから。




ねえ、()()、覚えている?


あの時、わたくし達は出会ったの。



最悪な場所で…わたくしたちは悪夢を見た。




※※※



ー10年前ー


「もういいわよっ‼お前たちなどお父様に言って、すぐクビにしてやるわ!」


「お嬢様!?」


新しく配属された侍女と従者に口うるさく言われ花瓶を叩きつけた。


ああ、むしゃくしゃする。

なにが『公爵令嬢だから見本になる様に』なの?使用人風情がその公爵令嬢に対して生意気な口を利いて何様のつもりかしら?


公爵令嬢なら当たり前ですって、ふざけないで欲しいわ!

こっちがどれだけ努力していると思っているのよ?

たかが伯爵家出の使用人よりも何倍も自由もなく拘束されて教育を受けているの、それを『たったこれだけで文句なんて我慢が出来ていない』なんて馬鹿だ。


どいつもこいつも普段はお父様にヘコヘコしている癖に、子供相手だと急に生意気な態度になる。

馬鹿にしてっ!


テラスに出ては一人でごちる。

もうすぐ夕餉の時間だわ…戻りたくない。

でも外は曇り空、雨が降りそう。


「そうだ。」


公爵令嬢が勝手に外に出れば監督不届きであいつらを黙らせられるのではないのかしら?


そう思ったら自然にテラスから屋敷を囲う外柵へ向かった。


確か、柵が歪んで小さな子供一人出入りできそうな場所があった。

そこがまだ直されていなければ出れる。


「やっぱり、まだ直っていない。」


公爵邸を巡回している家兵も少し待てば離れた。今だ!

こうして難なくわたくしは外へ出れた。


最初は軽い気持ちだった。

少し散歩して、後は門に行って家兵に見つけて貰う。

そうすれば家の使用人たちは父から罰せられる。


安直な気持ちでいたの。

まさか自分がこの後に巻き込まれるなんて思わなかった…。


初めてたった一人で外に出る。

いつも誰かと必ずいたから凄く新鮮。


「気持ちいい!」


一人の方が気楽だった。


王都の家にいれば常に使用人達の目がある。

領地の家に帰ると母と妹がいるが居心地が悪い。


どこに居ても自分は独りだった。

家族も親戚も知人や使用人も全てわたくしと目を合わせない。

だから家にいようが外にいようが同じだった。


わたくしはただ“お嬢様”と言う名の都合のいい人形。


いずれブロッサム公爵家を継ぐ為や王家に嫁げるようにとそう育てられているけど、いくらこなしても終わりがないし認められない。


王都に来たってわたくしの居場所なんてどこにも無かった。


ブロッサム邸から少し歩いてはふと気づく。

まだ夜になったばかりなのに王都の街は人が少ない。


「結構、静かね?どうしてかしら?…あ、雨。」


突然髪に何か当たったと思ったら雨だった。

しかも本格的に降りそう。


「ええっ、どうしよう?取り敢えず濡れないようにしなければっ!」


慌てて走ろうとすると後ろから馬車が走ってきて、わたくしが居る近くに止めた。


「え?」


振り返ると馬車から大人の男が2人降りてきてわたくしに近づく。


「な、なに…んんっ!?」


問いかける前に口元を塞がれ身体を抱えられる。

何これ?怖いっ!


「んんーっ」


抵抗すると男は凄い形相でわたくしを睨んだ。

恐怖で身体が震える。


「煩い!」

「おい、ほっとけ。時期に薬が効く」


薬?何そ…れ…


段々考えられなくなった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


ねぇ…


ねえ、おきて?


おきて!



「ねえったら!」


「な、なによ!?」


「やっと起きた。大丈夫?」


気が付くと目の前に赤毛の女の子がわたくしを見ている。


「頭痛くない?起きれる?」


「頭?起きれるけど…て、ここ何処なの?」


余りにも目の前に女の子がいるものだから周りが見えなかった。

ここ何処?汚い部屋で薄暗い。


「あなたはここに連れられた時、頭打っていたから心配だったの。」


そういう事か、頭はそこまで痛くない。

ただ目が少しクラクラするけど…。


「はい。」


女の子は手を出した。一体何?何かわたくしに要求している?


「手を貸すよ?捕まって?」


「っ、いらないわよ!」


段々苛立って女の子の手を弾いた。

訳分からない状態でここに連れられて、ニコニコと笑顔で居られるなんておかしいわ。

イライラしながら起き上がると突然わたくしの体に何か当たった。


「おいガキ、ミウに酷いことするな!」


目の前の女の子より少し幼い男の子が拳を作ってわたくしに怒鳴りながら叩く。


「煩いわっ、誰に向かって言っていると思っているの?たかが平民のくせに公爵令嬢に楯突くわけ!?」


「うるせぇ!捕まったくせに貴族も平民もねえよ!お前こそチビの癖にうるせぇガキだな!?」


「こら二人とも少し黙ってでないと…」


怒鳴り合うわたくしたちに女の子は止める様に言いかけると部屋の扉から一人の人相が悪い男が入ってきた。


「うるせぇぞガキどもっ、商品は大人しく黙っていろ‼」


壁を思いっきり蹴り飛ばしては壊れる様な大きなその音に怯えた。


なんなの?一体わたくしはどこに来てしまったの?


男は怯えるわたくし達を一瞥しまた扉を閉めてしまった。


「…はあ、流石にまだ逃げれそうにないね?」


赤毛の女の子が「少し声を小さくしては話そう」と言い、わたくしの肩に触れる


「私はミウ、あなたは何て名前なの?」


怖くて泣きそうなのに、この子は何故か落ち着いている…。

突然名前を聞かれて戸惑った。


「大丈夫、絶対にお家に帰れるから仲良くしよう?」


何でそんな笑顔で言えるの?

こんなわけが分からないところに閉じ込められているのに?

平気で居られているなんておかしい。


でもこの子はわたくしの目をしっかり映す。

わたくしの心が震える。

何故かその笑顔に縋りたい気持ちになった。


「…わたくしはロザリア・ブロッサムよ。」


「ロザ…なんだって?」


聞き取れなかったのか、ミウは不思議そうな顔して聞き返す。」


「だから、ロザリアよ!」


「ロザリ?…ロザね?」


一人笑顔で納得して…何だろう?怖いはずなのに調子狂う。


「だーかーらー。わたくしは…もう、いいわ。名前なんて何でも!」


繰り返し伝えようとしたけど諦めた。

確か平民だと長い名前を付けないし、爵位もないから姓もない。

何度言っても同じだろう。


「うん。じゃあ“ロザ”って呼ぶね?あとこっちの男の子は“ビー”と言うの。ほらビー、ロザと仲良くして?」


「…やだ、こいつ、俺達を馬鹿にしている。」


こいつ恐らくわたくしより年下だ。生意気言って、こっちだって仲良くしたくない!


「駄目だよ?ここから出るんだもの。皆で協力しないと駄目よ?」


「ほら仲良く―。」と、ミウはわたくしとビーの手を掴みお互いに握らせた。


「…くそっ、しゃあねーな。ミウが言うなら仲良くしてやるよ?」


「煩いガキね?こっちのセリフだわ」


睨み合うわたくし達をニコニコとミウは微笑んだ。


「あと一人いるの、ルー。ルーも仲良くして?」


え?ここにいるのは3人なのにまだ誰かいたの?

しかも“ビー”に“ルー”なんて安直な名前…兄弟?


ミウが声を掛けると窓際の角から何かが動いた。

そして此方にゆっくり歩いてくる。


蜂蜜色の綺麗な髪に青空みたいな目をした少年。


「ロザ、この子はルーっていうの。」


「…ルー?」


綺麗な男の子…でも服装が平民の恰好だから平民か?

こんな子がいたらすぐにでも何処かの貴族の養子にされるのに…。


「初めまして、ロザ」


「あ…はい、初めまして、ルー」


言い方がきれい。でもすごく大人しい子だ。

同じぐらいの年かしら?身なりも綺麗だし裕福な家の子かもしれない。


「よかった、これで皆仲良しだね!」


ミウは嬉しそうにわたくしに抱き着く。


温かい…誰かがわたくしを抱き締めてくれた事なんて殆どない…って、そういう問題じゃない!


「ちょっと、急に抱き着かないでよ!?」


「えー。ロザってお人形さんみたいだから抱き着きたくなるもん。」


私、こんなお人形が欲しかったの。って…わたくしはお人形じゃないわ!


でも、何故か頬が熱くなる。

この子は平民なのに触れられることが嫌に思えない。


「そ、それより。なんでわたくしたちはここに連れてこられたの!?」


そう、まずはそこから知らないといけない。

本当は怖くて仕方ない。でも、ミウ達が居るだけで少しだけ落ち着いた気がする。


「…俺たちは攫われたんだよ。」


ビーが不貞腐れるように言った。


攫われた?…なんで厳重な警備をしている王都にそんな人がいるの?


「王都に?なんで?」


「…ここは王都じゃないよ。窓を覗いたけど、だいぶ王都から離れている。」


ルーは見知らぬ市井の海辺町だという。


王都から離れている?じゃあ、わたくしたち帰れない?


「泣くなよっ、ブス!」


「な、なんですってぇ!?」


ショックを受けて涙が出そうになったところをビーの容赦のない言葉で我に返り苛立った。


「ビー、言い過ぎ。ロザは可愛いわ。」


「ふんっ、俺達はこんなの普通だっていうのに、お貴族様はすぐピーピー泣いていい身分だよ。」


「普通?これが普通なんて、おかしいんじゃないっ!?」


信じられない、自分たちが攫われたのに平気でいられるんて。


「だからって喧嘩しないで。ビーもロザも間違っていないよ?ロザ、この子はロザの事を心配しているだけなの。絶対に逃げられるから泣かないで?」


「っ、…分かったわよ。」


どうして、こんな目に遭っているのにミウは落ち着いているのだろう?

それも逃げれるって、どうしてそう思うの?


でも、ミウを見ていると、どうしてか自分たちは大丈夫っていう気持ちになる。

それこそおかしい…何故、わたくしはそう思えるのだろう?


不思議な雰囲気をもつミウ。

この子の声を聴くと不思議に心が落ち着く。まるで守られている様な温かさだった。


「…どうやって逃げるの?」


そう、さっきから気になっていた。

部屋に閉じ込められているし、部屋の外は先ほどの男がいるだろう。

どうやって…?


「それはね、私がいるからだよ!」


もの凄い笑顔で自信満々に答えるミウ。



…うん。意味が分からない。



読んで頂き有難うございます。


ロザリアとルーベルトの過去に入りました。

少々お付き合いください。

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