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君を想う

カム視点です。

自分で追い詰めた事が重くのしかかる。

こんなに自分が愚かだったのが悔しくてたまらない。


すると目の前にいたロザリア様が手を差し出しす。

まるで自分を許すかのように微笑んだ。


「…っ。」


手を伸ばし縋る様にその手を掴んだ、が…


「っ!?…あ…すみません。」


よく見るとリリー様がハンカチを俺に差し出しだしてくれていた。

手を離しハンカチを受け取ると、分かっているのか「いいえ」とリリー様が優しく微笑む。


いけない、目の前のリリー様をロザリア様と重ねていた。

この子はリリー様であってロザリア様ではない。

彼女は今学園の寮にいるのだから。


「カム、泣いている場合じゃないぞ?」


眉を顰めながらグレン様がリリー様を俺の前から引き離しては彼女を隠す様に抱きしめる。

急に腕の中に閉じ込めるからリリー様は訳も分からず困り出した。


…ヤキモチですか?

心配しなくても取りませんよ。


「早く学園に戻るぞ。頭でっかちのお前にはまだやることがあるのだから。」


うん。酷い言われよう…。


「グレン…もう少しお兄様の事を労わりましょう?…でもそうですね。まだ後悔するのは早いかと思います。お兄様、お姉様が待っています。戻りましょう?」


リリー様はグレン様を窘めるが、彼の言葉に一理あるのか再び俺に視線を向ける。


「…ですが、彼女はルーベルト殿下の婚約者です。」


二人は俺とロザリア様を応援してくれているが、現実はそうはいかない。

例え俺が再び彼女を望んでもすでに婚約者がいる。

彼はロザリア様に好意を寄せている。

それを奪うなど…。


「…今、ルーベルトは隣国の絡みでロザリアと婚約解消に向けて動いている。」


俺の表情を読み取ったのか、グレン様は真顔になり耳を疑う事を言った。


…え?


「…どういうことですか?」


そんなの初耳だ。

城で仕事をしていてもそんな話を聞いていない。


「…お兄様だけじゃなく、ルーベルト殿下もここ最近様子がおかしいのです。殆ど学園に来ず親善大使として会合に出ているだけじゃなくファシアンとより縁を掴むために行動をしているらしい…そしてシリウス様に内密でお姉様と婚約解消の話をされたとの事です。」


ファシアンとの縁を掴むため行動…?隣国に何かあったのか?


そう言えば…ロザリア様と拗れた後にルーベルト殿下と少し話をしたが、その時ルーベルト殿下はなにかを決心しているようだった。



そう、夏休み後の事だ。



※※※



「…このままで君は本当にいいの?」


ルーベルト殿下は真意を確かめる様に聞いた。

言われている事は分かる。でも俺は意思を変えるつもりはない。


「…はい、これでいいのです。もとより貴方がゲームの様な存在ならお嬢様を婚約者にさせたくなかった。だけど貴方はお嬢様をよく見ている。いくらサラフィリア王女の事を忘れなくても、今の貴方はお嬢様を大切にしてくれます。それが何より俺にとって救いです。」


今のままならば、シナリオも殆ど意味をしない。それならば親善大使の妻としていた方が、お嬢様は幸せだろう。

こんなどこの誰か分からない血をもつ俺よりも…。


「…ふざけないでくれないか?一体何をそこまで頑なになっているのかは分からない。彼女を大切にしているのは君も同じなのに…それも、彼女の心は既に君にある。それなのに捨てるつもりなの?自分の気持ちを殺して譲る気かい?」


ルーベルト殿下の目に怒りを帯び睨みつける。

正直、申し訳なく思う。俺やお嬢様の事を分かっていて言っているのだろう。

婚約者なのだから俺の事は気にすることないのに。

『氷の王子』がここまで感情を表に出すとは、本当にお嬢様を想っているのだろう。

あの時もそうだった…。


お嬢様と拗れて走り去った時に俺も彼女を追いかけたが、その時ルーベルト殿下がロザリア様を支える様に抱きしめていた。


ようやくここで心に区切りをつけることが出来た。

このままルーベルト殿下にお嬢様を任せよう…。

俺の役目はこれで終わりだと、そう悟った。


これ以上見ない方がいい、そう思ってすぐその場を去った。

胸の痛みを無視して…。


それからお嬢様を迷わせない様に彼女を意図的に避けた。用事があって従者は出来ないと言って。

この件に旦那様は何も言わなかった。

ただ、『カムの好きにしなさい。だけど君が私達の家族なのは変わらない…ロザリアもそうだ。何かあれば必ず助ける、だから遠慮なく言いなさい。』と言ってくれた。

本当に優しい人だ。この人をみると自分の父を思い出す。


「…ルーベルト殿下、俺にとって大切なお嬢様を貴方に任せます。どうかよろしくお願いします。」


何とか微笑んだ。

心の中では『これで良い、これが正解なんだ』と繰り返しながら。


「…前にも言ったはずなのに、君は僕と勝負をしないの?…いや、そういう僕も恐らく出来ないだろう。きっともうシナリオ通りにはならない。…僕がさせない。()()()に僕は動かなければならないんだ。」


何かを決心する様に話すルーベルト殿下をただ見ているしかなかった。

この人は“転生者”でもないのに、俺やサラフィリア王女の話を信じて動いてくれている。

だからきっとお嬢様は破滅する事はないだろう。

ルーベルト殿下の言葉に感謝の気持ちを込めて頭を下げる。



その時のルーベルト殿下が何を考えていたのか俺は深く考えようとはしなかった。



※※※


「…あの時、ルーベルト殿下は何か決心しているようでした。…彼に一体何があったのですか?」


彼はシナリオどおりにさせないと言っていた。

それは最終局面であるルーベルト殿下がロザリア様を断罪するという事を回避するのではないのか?

でも現在のロザリア様は特に何もしていない。

断罪する理由がないのだから彼が動かなければいけない理由など無いはずだ。


「最近、アンジェラ嬢を狙う回数が増えたとアレスから話を聞いている。俺にも城の者からにファシアンに不穏な動きがあるから父に復職してもらえないかという話あった。恐らくルーベルトもその所為で動いているのだろう。」


ヒロインを狙うものが増え、停戦を組んだグレイス様に依頼するほどファシアンに何か起きている?

前に捕えた者は闇市場で依頼された者と聞いている。

ヒロインを狙う者はゲームならブロッサム家が取引をしていた。

だけど、現実ではブロッサム家ではない誰かが取引をしていると考えられるが、まだその相手を見つけられていない。

これはシナリオと関係があるのか…?


「…ルーベルト殿下は確かにお姉様の事を大切にしてくれています。でもそれなのにお姉様と婚約を解消してファシアンの王女様と婚姻を結ぶと言っているそうです。このままだとお姉様の心が心配です。お兄様、どうかお姉様を支えて欲しいのです。私達では無力なんです。」


ロザリア様は妹や友人達にさえ『自分は大丈夫』と言って聞かないらしい。

その事実にリリー様は歯がゆそうに表情を曇らせる。

ルーベルト様の行動には色々と疑問に思う事がある、でも彼がやろうとしている事がロザリア様にどの影響を及ぼす事になるのか分からない。


「…この事をロザリア様は知っているのですか?」


「婚約解消の話はロザリアは知らない。だけど、いずれ家からその話が来てロザリアも知るだろう。それと休み明けのルーベルトとロザリアの噂について分かったことがある。あれはルーベルトが婚約解消すると言った所為で噂が広まった。」


休み明けにルーベルト様が学園長と生徒会長に学園に来れない理由を話した時から学園に広まった。

婚約解消の話は大臣クラスしか知らない事。

それを学園長は知らないのに何故噂が広まったのか?


…今の生徒会長はレティシア様だ。外務大臣の娘…。

あの彼女が噂を流した…?


何故だろう…嫌な予感がする…。


「…ロザリア様の元に行かなくては‥。」


…まるで彼女が彼女でなくなる気がして仕方ない。


止めると約束した。

何があっても彼女を乙女ゲームみたいに破滅させない、絶対に止めて見せると。


俺の言葉に嬉しそうにリリー様とグレン様が頷く。


「君はロザリア嬢が好きなんだね?」


「兄様…。」


俺達の会話をずっと横で見守ってくれた兄が優しく微笑む。


「…はい。彼女が俺にとって一番大切な人です。」


初めて誰かの前で言葉にした気がする。

大切な人、それはずっと過去も今も変わらない。


「叶うなら…ずっと隣にいて欲しい人です。」


その言葉にリリー様が嬉しそうに満面な笑みを浮べている…少し恥ずかしかった。

そんな俺に兄様は苦笑する。


「初めてお前が他人にそこまで心を動かすのを見たよ。…絶対に後悔しないようにしろよ?」


そう言って兄はリリー様とグレン様に頭を下げ「もう大丈夫そうなので、領地に戻ります」と言って

部屋を後にする。


「兄さま。…有難う、落ち着いたらクラベル家に帰ります。」


真実を知ってもまだ名前を忌み嫌うか?と言われても、まだ、自分の気持ちは分からない。

でも真実を知ってからは、過去を知らぬ前よりも心は軽い。

解決したわけではないけど、俺なりにケジメをつけたい。

自分と向き合うために…。


最後に兄は嬉しそうに頷き部屋を後にした。


「さあ、学園に戻りましょう。」


二人は同意する様に頷いた、



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



学園に着き馬車から降りて高位貴族寮へ向かう。

向かう途中、同じく学園に戻ってきたシリウス様と、マリオット様にばったりと出会った。


「グレン、リリー、良かったです。無事、説得が出来たみたいですね?」


「まだ頭でっかちだけどな?」


さっきからやけにツンツンしているグレン様。

一緒に戻るって行った時は嬉しそうにしていたのに、口では憎まれ口を言う。

最近ヤンデレではなくツンデレ化しているでしょう?


「シリウス様、色々と調べてくれてありがとうございます。ご迷惑をお掛けしてすみません。」


「いいえ、こちらこそプライバシーを傷つけるようなことをして済みません。でも、今の貴方に必要な事と判断しました。少しは解決しましたか?」


グレン様やリリー様だけじゃない、他の皆さんに心配かけてしまった事に申し訳なくなる。


「…はい。俺もまだまだです。でも今はロザリア様の事が何より大切です。彼女の元に行かないと。」


「ようやくお前らしく戻って来たな?遅すぎるぞ!」


マリオット様が噛みつくように怒ると。シリウス様が「煩いですよ」と窘めらる。


俺らしい…か、確かに名前に縛られ過ぎて前も後ろも分からなくなっていた。


「そういうマリオットも人の事を言えないでしょう?…話がまだありますが、取り敢えず彼女の元に行きましょう?」


そろそろ起きているでしょう?と言うシリウス様に皆頷いで向かおうとしたところ、学生寮の方から見覚えのある女性たちが小走りで此方に向かっていた。


「皆様、大変です!」


ナージャ様とマリアン様だ。

二人が慌てて此方に向かってくる。


「ナージャ、どうかしたのですか?」


「ロザリアがっ、レティシア様と一緒に何処か行ってしまったの!!」


ナージャ様が泣きそうな顔で叫んだ。

その言葉で皆固まってしまう。


「…え?」


「ナージャ落ち着いて。リアン、何があったのか説明してくれますか?」


気を取り直したシリウス様がナージャに落ち着くように言ってはマリアン様に問いかける。


「はい、実は…」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「…ロザリアの様子がおかしかった?」


「はい、やけにいつもとは違う様子でした。」


マリアン様に事情を聞いてもただ困惑する。

レティシア様と一緒に“あの子が眠る場所に”に行ったと言うがどこの事か分からない。


あの子とは誰の事だ?

ヒントが足りなすぎる。

ロザリア様の8歳の時からハーンさんと一緒にロザリア様の様子を見守っていたが、ここに居る皆さんより親しそうな相手はいない。


「カムが知らないなら余計に誰かは判断が出来ない。リリー、幼少期にロザリアと仲がいい奴はいたか?」


「いいえ、お姉様が領地に居た時は、爵位を持つ当主か親戚ぐらいしか来ていません。同じぐらいの子供でもブロッサム家に取り繕う人ばかりでしたからお姉様は心を許すようなことはありませんでした。」


グレンの問いにリリー様は否定する。

ロザリア様が領地に居た頃も親しい子はいなかった。


じゃあ、一体誰の事を言っているのだろう?

乙女ゲームに関係あるのか?…乙女ゲーム…もしや…?


「…心当たりがあります。…でもこれはルーベルト様しか知らない…。」


「カムさん、どういう事ですか?」


ナージャ様が不安そうにこちらを見つめるが、こればかり答えようがない。


恐らく7歳の頃だ。

今までシナリオどおりには行かなかったから気にしていなかったけど、これしか理由が思いつかない。

でも、これはルーベルト様が知っているが彼はここにいない。


「…ロザリア様は7歳の時の記憶が無いのです。でも、この事を知っているのはルーベルト様だけです。今、彼はいない…。」


「ルーだけ…?確かルーは7歳になってからこの国に帰って来たと聞いています。僕も彼が落ちつたい頃に知り合ったのでその頃はそんなに知らないのですよ…でも、確か父からルーは誘拐されたと聞いたことがあります。」


誘拐?一国の王子が?


ルーベルト様は幼い頃から病弱の為にファシアンで暮らしていたという話は高位貴族の中で知られている。

そんな彼がこの国に帰国したことは当時は公にされていない。

誘拐されたなんて醜聞は当然隠される。

当時のルーベルト様も一体何があったのだろうか?


「殿下が誘拐されるなど何をやっているんだ!ここの兵士どもは!?」


「…全くです。一国の王子を奪われるなんて、国を守る者として大恥です。」


王子が誘拐されたと聞いてマリオット様とマリアンが憤慨する。

…でも、今はそれどころではないです。


「そうだ…カムさん。こんな時に言うのは変ですが、ルーから言付けがあります。」


「ルーベルト殿下から言付け?」


「『アンジェラ嬢に追加シナリオを聞いてロザリアを守って欲しい』と言っていました。これって今までカムさんとロザリアが僕たちに内緒で動いていたことを示しているのではないのでしょうか?何の事かはまだ教えて貰っていませんがね?」


伝言を伝えるシリウス様がまさか乙女ゲームの話を持ち出した。

そう言えば前にも指摘されたことがある。

今まで隠してきたことに申し訳なく思うが、今はそういう問題じゃない。


『アンジェラ嬢に追加シナリオを聞きてロザリアを守って欲しい』…?


追加シナリオってなんだ?

これは俺は知らない…。


「ロザリアの行き先は分かりませんが、少なくてもレティシア嬢はロザリアを傷つける様な事は恐らくないでしょう。…状況を把握する必要があります。アンジェラ嬢を入れてお互い話し合いしようではありませんか?」


シリウス様の言葉に皆が俺に視線を向ける。


…確かに、闇雲にロザリア様を探しに行くのは無謀だ。

一番知っていそうなルーベルト様もいない。ならばまずルーベルト様が言っていた言付けが何を意味するものなのかを把握する必要がある。


同じ“転生者”であるアンジェラ嬢に聞けば何かわかるかもしれない。

“追加シナリオ”を知れば、ロザリア様を守れるかもしれない。

ルーベルト様がシリウス様に伝言を任せたという事は皆を巻き込んで協力して欲しいという事だろう。

でも、ここにいる皆に“乙女ゲーム”の話をしなければならない。

もう誤魔化せないが、信じて貰えるものでもない。


「…見くびるなカム、隠しているものすべて話せ。俺たちはお前を信じている。さっきも言っただろう?今度は俺達がお前たちの力になる番だ。」


「‥グレン様。」


「グレン、言い方がきついですよ?でも大体は察しがついてます。だから安心して話をしてください。」


ロザリアもカムさんも分かりやすいですからね?と苦笑するシリウス様に皆が頷く。


…何故だろう?今の方が精神的にダメージがくるのは…?


でもこんな年下の子達が自分を信じている。

後は自分が応える番だ。


「…有難うございます。分かりました、俺が知っている事を全て話をします。…信じられない話をしますがどうか力を貸してください。」


おかしい話をするけど、今はロザリア様に出来ることをしたい。

その為なら俺はおかしい者とみられても構わない。彼女の為なら何でもしよう。

でもここにいる人たちはきっと信じてくれる。


ー だからロザリア様、どうか少しだけ待っていてほしい。 ー



読んで頂き有難うございます。

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