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聖女と悪役令嬢のお茶会


カムにわたくしの想いを否定されて月日は経ち、また夏の長い休みに入った。

そしてある日、わたくしは王家が所有する別邸でルーベルト様のお茶会に誘われた。


「どうして貴女がいるの?」


「それ、私のセリフなんだけど?」


わたくしの質問にアンジェラは何故か呆れて聞き返してきた。


お茶会に向かったらルーベルト様だけじゃなくて何故かアンジェラがいる。

怪訝な顔したアンジェラがアレスを連れているではないか。

ルーベルト様は後にマリアンとマリオットも来ると話す。


因みに今日わたくしのお供はカムではない。アリアと別の従者が一緒に来ている。


「お茶会は実質3人で行うから、気兼ねなくしていいよ。」


わたくしとアンジェラを他所にルーベルト様はお茶を用意したメイドに下がる様に言っている。


つまりアレスは遠くで待機して、わたくしとルーベルト様、アンジェラのみでお茶会する…つまり…


「アンジェラ嬢、いい機会だから君に『情報』を貰おうと思って今日、二人を呼んだんだ。」


「じ、情報!?」


アンジェラはルーベルト様の言葉に何故か焦っている。


そう、いつもならわたくしとカムとルーベルト様だけど、今日は違う。

カムの代わりにアンジェラが来ている。

だってあの日からカムとは何かと会うことが無くなった。


あれから、わたくしはカムに会わずに仲間たちと学園生活を過ごしていた。

カムを避けている自分も悪いけど、カムも学園にいない日が多い。

彼もわたくしを避けているかもしれない。

ある意味助かったと言うべきか…正直、分からない。

あの日から、落ち込むわたくしにナージャ達には心配をかけてしまっている。

ルーベルト様が皆に説明したそうだけど、どんな説明したかはわたくしは聞いていない。


ルーベルト様はわたくしとカムの話を聞いてた。


それを教えて貰った時、わたくしはルーベルト様という婚約者がいるのにカムを選んだことを深く謝った。

婚約者として相応しくない。破棄して罰してほしいと願ったのだが、ルーベルト様は元々知っていた事だから婚約破棄はしないと言った。

「パートナーとして居て欲しい、いつかは振り向かせるから…」と、ルーベルト様は小さくそう言った。


それを聞いたら余計に申し訳なくって深く謝罪した。



因みにシリウス達はわたくしとカムの話を聞いて何も言わなかったが、裏でリリーは凄く怒っていると聞いている。


「事情が何であれ、お姉様を泣かすなど許しません。しっかりとお灸を添えさせて頂きましょう。」


「リリー…何をするつもりだ?」


珍しく怒るリリーにグレンもタジタジになっているらしい。


これにルーベルト様は『リリーは姉思いだね?』と苦笑していたが、何をするか怖い。

お願いだから姉妹揃って地雷を踏まないで欲しい。


休みに入ってリリーはシリウス達と何かと連絡を取り合っているとアリアから聞いている。

でも、リリーはわたくしに何も言わず『私たちの事は気にせずに、お姉様は自分の事だけを気にしていてください』と言い、ただニッコリと微笑んでお茶会に送り出してくれた。


「ちょっと、何ボーとしているの?最近、あんたおかしいわよ?とうとう『悪役令嬢』に目覚めてしまったの?」


アンジェラが肘でわたくしをつつく。

お行儀が悪いわね…。


「…考え事よ。何でもかんでも『悪役令嬢』にしないでくれない?」


「やはり、なっているじゃん。…しっかりしてよ。」


わたくしが悪態つくとアンジェラが残念そうな顔で盛大にため息を吐く。

アンジェラにまで心配かけていると思うと申し訳ない気がするが、いつの間に親友みたいに仲良くなったのよ?

今年一緒のクラスになったぐらいしか接点なかったわよね?


「随分、仲良くなったね?『ヒロイン』と『悪役令嬢』が揃ってお茶をする姿は、きっとシナリオにはないよ。」


楽しそうにルーベルト様が言って微笑んでは、アンジェラが「ブフッ」とお茶を吹き出しそうになった。

やはりお行儀が悪い。


「や、やっぱり、ルーベルト様が“転生者”なの?」


「…アンジェラ嬢、静かにお茶を飲もうか?あと、悪いが不正解だよ。僕は違う。」


「だって、今『ヒロイン』って!?」


アンジェラの驚いたり、悩んだり、表情がコロコロ変わって面白い。

まぁ、アンジェラが勘違いする気持ちは分かる。

わたくし達はカムやサラフィリア王女から色々と情報を貰っている。


「えぇ!?じ、じゃあ二人が“転生者”じゃなかったら何で知っているの?」


この後のシナリオがどう動くか聞かなければいけないのは事実だし、今の状況ならば『ヒロイン』と『悪役令嬢』が対立する事もない。

ここでお互いに種明かしをする時が来たようだ。


…でもカムがいないけど…。


胸の痛みを押し流す様にお茶を一口飲みアンジェラに向き合った。


「そうね…。もう、隠す必要ないかもしれない。アンジェラ、わたくしたちも包み隠さず話すわ。だから貴女も知っている事を話してほしいの。お互いもうゲームの話が続くと信じていないのだし、アンジェラと出来れば仲良くなりたい。」


「…まさか『悪役令嬢』のあんたからそんなセリフを聞くとは思わなかったわ…。先に聞きたいけど、ロザリアはその話を知っていて、今までシナリオを変えてきたと考えていいのよね?」


怪訝な顔のアンジェラに頷くと「やっぱりか…。」とため息を吐いた。


「…そう思うとあんたの所為で私が『ヒロイン』になれなかったと思うと正直、腹立つわ…。」


「ロザリアだけが動いていたわけじゃない。僕も彼女と会う前から既に行動していた。だから例えロザリアが動かなくても物語は変わっていたよ。」


きっぱりとわたくしを庇う様に言い返すルーベルト様にアンジェラが複雑そうな顔をする。

ルーベルト様が頼もしい。


「…そうね。ロザリアだけ知っていても、ゲームの内容をここまで変えれるほど動かせれるわけないものね。攻略対象者筆頭の『氷の王子』の心まで動かせるほど力なんてないわ。…いいわ。もう、どのルートも無さそうだし、別に私はこの後の『聖女様』なんてなりたくないもの。ロザリアも結構、話していて楽しいし『悪役令嬢』と友達になってもいいわよ。」


まあ、一人が物語を知っていても変えれる限度はあるわね。

神様じゃあないんだし、カムやルーベルト様が居なかったら無理な話だった。

なぜアンジェラが上から目線なのかが気になるけど、まあいいわ。


「じゃあ、アンジェラは“転生者”でいいのかしら?」


「そうよ。と言っても前世の記憶も殆ど曖昧だけど、このゲームをやっていたことは覚えているわ。」


やはり、アンジェラはカムと一緒だった。


「私、このゲームすごく好きだったの。それもファンディスクまで買ったのよ?でも、良いところまで進めたのに全クリ出来ずに死んじゃったの。」


…『ふぁんでぃすく』とは何?


「なにそれ?じゃあ、アンジェラは、そのゲームの内容を全部知っているわけではないの?」


じゃあ、カムより話を知らない?

わたくしとルーベルト様が不思議そうにアンジェラを見るとアンジェラは否定する様に首を振った。


「『本作』は全クリしたわよ?ただ後に発売したファンディスクだけが途中やりだったの。」


だから何?その『ふぁんでぃすく』とは?

此方が分かる様に話してほしい。


「…もしかして、その『ふぁんでぃすく』と言うものは、話の続きと言うものかい?」


そうなの?

ルーベルト様がなにか閃いたようだ。


「違うわよ…と言っても、それに近いかしら?確か主人公のその後や各メインキャラクターの補足等がゲームで追加されたの。追加コンテンツみたいなやつよ」


また何?『追加こんてんつ』というのは…前世の専門用語で話をしないでほしい。


「…成程、君はマリオットの過去をそれで知ったのかい?」


「そう、『本作』では明かされなかったマリオット様の過去とその後の復讐を止める話が追加されていたわ!なんだ、ルーベルト様は知っているじゃない。」


ええっ!?…確かマリオットの親友ニースが父親に殺されたと言う話よね?

この話はカムは知らなかった。

つまりこれが『追加こんてんつ』


「…いいや、僕たちはその話は聞いていない。ロザリア、これは恐らくカムもサラも知らない。その話を知っているのはアンジェラ嬢だけだよ。」


「…カムが知らない…。」


アンジェラの追加コンテンツの話にわたくしたちはつい黙ってしまう。

つまりマリオットだけじゃなく他にも話が追加されているという事だ。


「カムとサラ?誰、その人?…あ、…もしかしてクラベル先生?…サラという事は‥ファシアン国の第三王女、サラフィリア王女のことかしら?」


アンジェラはわたくしたちの少しの会話で当ててきた。

意外と鋭いわね。


「そうよ。さっきの“転生者”の回答してあげる。二人はアンジェラの言う“転生者”だわ。」


「ええぇー!?」


別邸にアンジェラの叫び声が響いた。


「う…煩いわよ…。」


ルーベルト様とわたくしは咄嗟に耳を塞いだが、遠くに居るアレスや侍女たち、護衛の兵士達が一斉に此方を見ている。


それでも耳が痛い…。

当の元凶はそれを知らんふりで狼狽えている。


「クラベル先生とサラフィリア王女が!?そんなに転生者っているの?クラベル先生はともかく、『悪役令嬢』のサラフィリア王女まで?」


アンジェラの何気ない一言にわたくしたちは驚いた。

亡くなったサラフィリア王女が『悪役令嬢』?


「っ!?それってどういう事だい?サラはもういないんだ!?」


いつも冷静なルーベルト様が狼狽する。

それをアンジェラは平然と答える。


「え?確かそうよ。だってサラフィリア王女は()()()()()もの。ファンディスクで追加されていたわ。」


…サラフィリア王女様が生きている?


「…アンジェラ、サラフィリア王女が生きているという事は、何処かに出てくることだよね?どこで会えるの?」


まずは内容を確認しないといけない。追加という事はこの話の中に出てくるのか?それとも『本編』が終わった後のことなのか。


「悪いけど、実はこの追加の話は記憶が曖昧なのよ。でも確か追加で王女が悪役令嬢なの?って驚いたのは覚えている。…でも、確か本編がクリア後で追加したのじゃなかったかしら?曖昧だけど…ルーベルト様のハッピーエンドルートのはずだったと思う。」


アンジェラの話が頭の中でぐるぐると回る。


つまり…わたくしが断罪された後の話…。


わたくしが断罪されればサラフィリア王女が出てくる?

ルーベルト様が愛した人を出すには、断罪イベントを起こさなければならない。


…でも待って…よく考えてみるとその方がいいかもしれない。


わたくしだけ断罪されれば、お父様に勘当して貰って公爵令嬢としてでは無くなる。

そうすればルーベルト様は王女に会えるし、わたくしも貴族ではなくなるから、カムが言う身分は気にしなくていい。


…そうすれば、またカムと一緒にいられる?


そう考えていると急に自分の手に温かいものが包まれる。

そこにはルーベルト様の手があった。


「ロザリアしっかりして。まだそうならないといけない訳じゃない。」


「…ルーベルト様。」


ルーベルト様がわたくしの手を強く握る。

手の温もりにわたくしは現実に返った。


「サラが本当に生きているかなんて分からない。それに僕の気持ちもサラが生きているからと言って、すぐ彼女に行く訳ではないんだ。だから馬鹿な事をしようとは思わないでくれ。」


ルーベルト様の手が熱い。

また、そうやってわたくしの顔を見て判断して…。


でも、どうしてか目元が熱くなる。

言い返せないじゃない…。

最近、泣きやすくなった…。


そんなわたくしたちにアンジェラはうんざりそうな顔になって見る。


「…何?二人ともラブラブで…私がお邪魔虫じゃない。」


「残念だが、僕の方が片思いなんだ。」


「ええっ、婚約者なのに!?」と驚くアンジェラにルーベルト様がため息を吐く。


「どうやら、アンジェラ嬢に一から聞く必要があるね。因みに今日のイベントは知っているかい?」


「知っているけど…二人っきりで馬に乗ってデートしている訳じゃないし、お茶会だって二人っきりではないし、イベントと同じじゃないわ。」


ルーベルト様の話にアンジェラも答えるけど、わたくしは分からない。


「どういうことですか?」


「今日のお茶会、本当は僕とアンジェラ嬢が二人でお茶会すると言うイベントらしい。」


「そう、ルーベルト様がわざわざフェルファ家まで来てくれて別邸に来るの。ここに来るまでに私を狙う者が襲ってくるのだけど、私はアレスと一緒に来たからイベントなんて無いわ。」


アンジェラを狙う者が現れるイベント…またブロッサムの名を使った間者が現れる?


「今日、マリアンとマリオットが兵を連れて襲われる周辺を見張って貰っている。だから本当に襲撃があったかは、マリアンたちから報告があがると思うよ。」


流石、ルーベルト様。

マリアンたちが後から来る理由はそういう理由だったのね?


「うわぁ、ルーベルト様ってなんか凄いんだけど…。本当は私が“歌”を使って改心させるのだけどなぁ…。」


不満そうな顔して頬をポリポリとかくアンジェラの言葉に気になる事があった。


歌…。そういえばあの歌には人の心を改心したり癒すことが出来ると言っていた。


「ルーベルト様、アンジェラに“歌って”もらえればファシアン国にいる組織を止めさせることが出来るのではないのですか?」


アンジェラを狙うのはその組織と考えられる。

だからそこを改心させて無くせばアンジェラも狙われることはないのではないか?


「ロザリア、気持ちは分かるがファシアンは国が広い。どこに居るか分からない相手を探るのは自国ならまだしも他国では出来ないよ。」


「いいえ、そうとは限らないわ。ねぇアンジェラ、物語を知っているなら貴女を狙う相手も知っているのではなくて?知っているなら教えて頂戴。」


カムはあくまで東のファシアン国の間者と言った。

恐らくゲームの本篇ではファシアン国の誰とは判明されていない。

でも、ファンディスクを知っているアンジェラなら狙う相手を知っているかもしれない。


「えー。確かに追加で隣国イベントあったわ。…でもそこを解決すると私が“聖女ルート”で嫌なんだよね。」


嫌な顔するアンジェラに詰め寄った。


「やっぱり知っているのね?教えて、貴女を狙うのは誰なの?」


言い辛そうにするアンジェラに問い詰めて聞くと、ごにょごにょと小さい声で話した。


「それ、今聞くとネタバレにならない?…まぁシナリオもあってないモノだからいいか…。ルーベルト様が知っている人が組織のリーダーだったわ。ほらっルーベルト様、サラフィリア王女の二番目の兄で側室の息子アランド・エル・ファシアン殿下よ。」


「‼?」


その名前にルーベルト様は酷く驚愕する。


「因みに、この人がサラフィリア王女に毒を飲ませたのよ。」


「…うそだ…。そんな、アラン兄さまが!?」


アンジェラの言葉にルーベルト様の手が震えていた。


いつも読んで頂き有難うございます。



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