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懐かしいモノ

途中閑話が入ります。


「アラン兄様が…?…嘘だ。何故、サラを…?」


ルーベルト様は狼狽しながらファシアン国の第二王子の名前を繰り返し呟く。


「ルーベルト様?」


凄い動揺。


ここまで動揺する程、アランド王子は一体?


『確か、婚約パーティーにアランド王子は来賓として来ていたわね?』


黒髪に濃い紅い瞳の色と一見陰険そうな感じだけど、相反する様にさわやかな笑顔をみせる青年。


わたくし達より8歳年上でまだ独身だ。


彼は外務官長を務めており殆ど城を空けているらしい。

その為、王子の公務を殆ど長兄に任せているそうだ。


王子なのに自由な人。

でも、優しく人当たりの良い人だった。


彼はルーベルト様とわたくしの婚約を喜んでいた。


今覚えば、アランド殿下と話しているルーベルト様は凄く少年らしい笑顔だった。


普段は儚げな王子様なのに珍しい。


「んー。理由は何だったけなぁ?正妃の娘サラフィリア王女と敵対国のルーベルト様を婚約させないために毒を飲ませたと説明書きがあったような気がする。…そうそう、側妃がバロンをすごく憎んでいて、アランド王子も側妃である母親の片棒を担いでいるの。」


「…つまり、裏で暗躍する組織は同盟反対派ということか!!?」


アンジェラの説明にルーベルト様は更に声を荒げた。


怒る彼にわたくしたちは目を張る。


いつも冷静なルーベルト様が凄い怒りに満ちている。

急な変化にわたくし達は戸惑いを隠せない。


「…いくら何でも、自分の妹に毒を飲ませるなんて…。」


ルーベルト様は項垂れた。


確かに腹違いとはいえ、兄が妹を殺すなんて残酷だ。

政略結婚を阻止するには過激すぎる。


でも王家一族は普通に命を狙われやすい。


特に兄弟。

第一子と第二子は次期王とスペアだ。


必ず派閥が出来る。


『でもおかしいわね?ファシアンの場合、第三王女を殺すメリットが無い。』


ファシアン王族の子供は5人。

正妃に3人、側妃に2人いる。


アランド殿下は側室の第一子で、サラフィリア王女は正室の第三子だ。


いくら敵対国のルーベルト様と婚約するからって、影響があるのだろうか?


『サラフィリア王女が正室側の第一子なら分かる。でも正室には第一子の長男がいる。』


殺すなら王太子なる長男を狙うだろう。


分からない事ばかりだ。


夏なのに、今の雰囲気で空気が冷えて少し肌寒い。



「…ねえ?ルーベルト様は大丈夫なの?…私、やっぱり余計な事を言ったんじゃない?」


黙り込むルーベルト様を横目にアンジェラはわたくしに耳打ちをする。


「…分からない。でも相手が分かるのは今後に必要な事だからアンジェラは悪くないわ?それに…サラフィリア王女は生きているのでしょう?」


そう、アランド殿下がサラフィリア王女を殺したという話で中断してしまったが、サラフィリア王女は生きている。


「ファンディスクではそうよ?でもどこで出るか分からないし…。今思えば、シナリオも違うから本当に生きているかなんてわからないわよ?」


急に弱気になるアンジェラは言うけど、わたくしの考えは彼女が生きていると思う。


ただし、マリオットの様に話が違うかもしれない。

こればかりは現実で確認しないと分からないわ?


「…すまない。取り乱してしまった。」


ようやくルーベルト様が落ち着いたようだ。


「ルーベルト様、大丈夫ですか?」


「…うん、大丈夫。まさかアランド殿下が関わっているとは思いもしなかった。今でも信じられないんだ。アンジェラ嬢の言うとおり、サラの生存を確認するにしろ、アランド殿下の周辺を調べる必要がありそうだ。組織についても何かわかるかもしれない。」


流石、ルーベルト様。取り乱しても次にやることを定めている。

すると一人の侍女がわたくし達の元に来て来客を告げた。


「遅くなり申し訳ありません。」


マリアンとマリオットだ。


二人が敬礼をすると、さっそく本題であるアンジェラを狙う者がいたかを話した。



結論から言うと、やはりアンジェラを狙う者はいたそうだ。

それも学園祭と同じ雇われた者。


「人数はわずかでしたので、そこまで手間を掛ける事はありませんでしたが、一人の間者からある物を渡されたものがあるので、安全を確認しておりました。」


これを王子にみせろ?


捕まえた間者が、そう言ったらしい。


それをマリオットがルーベルト様にみせた。


マリオットが持っている物、それは丸い小さな玉が重なった髪留めみたいなもの…。


「…これは子供が付ける髪飾り?」


丸い玉は一つ一つの色が違うカラフルな玉。

素材を見るとだだの硝子。宝石ではない。


見た目はとても綺麗だけど、貴族の子供がつける高価な髪飾りではなさそうだ。

これは平民の子供がつける髪飾りだろう。


「ああ…懐かしい。これ、私も持っていたわ。」


アンジェラが懐かしそうに見つめる。

市井では小さい子供に人気の品物らしい。


でも、わたくしも何故かこれが懐かしい気がした。


どこかでこれを見たことがある。


『…確か昔、誰かがつけていたような…?』


その髪飾りに吸い込まれるように見つめていると、頭の中で声が聞こえた。


< これ、綺麗でしょう? えへへ、おじいちゃんが作ってくれたの >


< べ、別に羨ましくないわよ!?何、そのダサいの。そんなの要らないわ! >



ズキンッ



「…痛!?」


声が聞こえた途端、頭に激しい痛みが走る。


痛い、痛い、痛い!


頭の中で聴こえる誰かの声が痛みに変わる。


「おい、大丈夫か!?」


「ロザリア様、大丈夫ですか?」


マリアンとマリオットの声の心配する声。

友の声を聴くと段々痛みが薄れる。


その代わり、さっきの幼い声が聞こえなくなった。


「ロザリア、しっかりしなさいよ!?」


「…もう、だい…じょうぶよ?」


心配するアンジェラに微笑んだ。


「…本当に大丈夫かい?」


「ええ。頭痛があっただけです。少し疲れてしまったみたい。」



ルーベルト様は心配そうに見てくるけど、痛みは一時的なものだったから問題ない。


だから大丈夫。


みんなに「最近寝不足気味だったから」と主張すると、何故か怪訝な顔をされてしまった。


そんな風に見ないで欲しい。

寝不足の原因は絶対カムの事だと思っている。


「…そろそろお開きにした方がいいみたいだね?僕も少し調べたい事がある。マリアン、マリオット、この後付き合ってくれるかい?」


「承知いたしました。」


「承知しました。…ですが先にロザリアを馬車まで見送っても、宜しいでしょか?」


ちゃんと馬車まで届けたいと言うマリオットに首を傾げる。


ルーベルト様の護衛であるマリオットがわたくしを馬車まで見送る?

アリアと従者がいるのに?


でもマリオットは「友人として心配だ。」ときっぱりと言った。


「そんな調子では絶対に何処かで倒れる。気が気でない。」


「そうですね?まだ顔色が良くないです。私も心配になりますから、少しだけお供させてください。」


二人が微笑むと、また少し目頭が熱くなる。


…本当に皆に心配かけてしまっているわ。


「そうだね?二人にお願いするよ。ロザリア、無理をしないで?」


ルーベルト様も心地よく承諾する。


「早く良くなりなさいよ?」


面白くなさそうな表情をするが、わたくしを心配するアンジェラ。


ついその顔が面白く感じる。


「皆…ありがとう。」


そして3人のお茶会はお開きになった。


わたくしはマリオット達と一緒に馬車乗り場まで向かった。


馬車の中でアリアがわたくしを休ませやすいようにしてくれたから、そのまま眠ろうとすると、何気なく先ほど見た髪飾りを思い出す。


「…あの少女は…一体…誰…?」


「お嬢様?どうかされましたか?」


アリアが声を掛けた時には、既にわたくしは夢の中だった。




夢の中の小さなわたくしは濡れた紅い絨毯の上に一人ポツンと立っている。




ただ自分の濡れた手を見つめて動くことはなかった…。




・・・・・


数日後、


「おはようリリー。何しているの?」


食事を取って部屋に戻ろうとすると、書類を持った仔兎がいるではないか?


「おはようございます、お姉様。本日はナージャ様とジュリがいらっしゃいますので、本日中に必要なお仕事の書類をハーンと手分けして片付けているところです。」


そして既にリリーの担当分は終わった様。

相変わらず早いわねぇ?


あれ?今日ナージャが来るなんて聞いていない。


「急ね?二人とも何しに来るのかしら?」


「それは、ジュリが“例の本”を手にいれたと連絡があったので、私がブロッサム家にお呼びしたのです。」


ジュリアが持ってくる本…『秘密探偵貴公子』シリーズの最終巻ね?


人気すぎて中々貴族でも手に入らない話題作。

わたくしもジュリアに貸してもらってから全シリーズを購入したけど、最終巻は手に入っていない。


初回盤は発行数が少ないのだ。

愛読者クラブでも抽選になり、手にすることが出来るのはごく僅か。


流石はジュリア。公爵家でも贔屓しない出版社相手にどう手に入れたのだろうか…?



「ジュリアが本で来るのは分かったけど、何でナージャも?」


ナージャは普段ジュリアみたいに本を嗜むより、お菓子やお裁縫を好んで嗜んでいる。


「ナージャ様もジュリから薦められて例の本を読んでいるので、ご一緒にお誘いしたのです。」


ナージャとジュリアは図書委員だから、良く放課後に委員会活動しながら好きな本を読んでいる。

そのお陰で読書も好きになり、好んだ本を今集めている様だ。


「そうなの…。」


確かに最近のナージャは、教室でも本を読んでいる。

あれはジュリアの紹介した本なのね。気づかなかったわ?



「お姉様は色々とありましたから仕方ないです。因みにマリアン様にも声を掛けましたが、マリアン様は騎士のお仕事があるので断られました。とても残念です。」


しょんぼりする仔兎の頭をよしよしと撫でる。


「そうね。最近忙しいと言っていたわ。今度時間があったら栗のお菓子を差し入れしましょうか?」


マリアンは学園でも休暇でも騎士として一所懸命だ。

マリオットもそうだけど、一生懸命頑張ってくれているから、何か疲れが取れるものをあげた方がいいわね?


「いい提案です。是非私もお手伝いさせてください。それでお姉様。女子会にお姉様も参加してくれるでしょう?一緒に本のお話をしませんか?」


「4人で女子会?いいわね。…でもリリー、またグレンに文句を言われないでしょうね?最初の女子会も嫌味を言われたのよ?寮の時もそうだわ。あの独占欲の塊、何とかならないの?」


そう、楽しく会を開くと必ずグレンが口を出す。


何でお前がリリーを拘束するのか?とか、勝手にリリーを連れて行くな?かと、それに…etc.…もうキリがないぐらいにうざい。


…執着2号め…誰が一番リリーを縛り付けているのか分かっているのかしら?


指摘するとリリーは苦虫を噛み潰したような表情になる。

しかも、ぶつぶつと「グレンはどうしても過剰反応をするので…。」と聞こえた。


二人が一緒になるのは認めるけど、躾け直してもらわないと困るわよ?


「今日はジュリ達が来ることはグレンも知っています。それにグレンは本日シリウス様とお二人でお出かけするので大丈夫ですよ?」


「ふーん。」


今日はグレンとシリウスは二人でお出かけか…ジュリアが聞いたら喜びそうな話だが、一体何をしているのやら…。



そう思っていたら、使用人の一人が来て来客を告げた。



・・・・・


「見てください!ついに『秘密探偵貴公子』の最新刊を手に入れました!」


ジュリアが『ジャジャーンッ』と効果音を付けて最終巻2冊(普段読み分+保存用)を持ち上げた。


「きゃあ!!ついに謎の怪盗仮面伯爵の正体が分かるわね!?」


「仮面伯爵は貴公子の従兄でしょう?」


「お姉様、私は貴公子の叔父だと思います。」


ジュリアが持ってきた本にナージャは興奮して、わたくしとリリーは推理を始める。


天気のいい日、テラスに4人で本の内容を予測しながら、和気あいあいと賑わった。

久しぶりの賑やかさだ。


「はぁー。これで完結なんて…寂しいわ?これ、結構楽しかったのよね…。」


「そんなロザリア様にお勧めの本を持ってきたので、是非読んでみてください。これも結構楽しかったですよ?」


ジュリアがゴソゴソと鞄から本を取り出してわたくしに差し出す。


「何かしら…何々?…『禁断!?義兄と義弟の愛の逃避行』…これって…」


ジュリはジャンル問わずに色んな本を読んで進めてくる。


でも、またあっちの話?


「ジュリ!!」


リリーがその本を見てジュリアを窘める。


リリーは何故、怒る?…ああ、そうか。


「…リリー大丈夫よ?これはただの本だもの。気にしないで?」


リリーにニッコリと優しく微笑む。


…義兄と聞くとカムをどうしても思い出す。


リリーはカムを連想する様な本を出したから怒ったのだろう。


でも、これとカムは関係ない。

いくら何でもリリーは過剰すぎる。


「お姉様、その意味も確かにありますが、私が言っている事は違います。本のタイトルをもう一度読んでください。」


ん?『禁断!?義兄と義弟の愛の逃避行』に何かあるの?


「あー。本当だわ?怖いもの知らずと言うか…流石にこれは怒られるわよ?」


ナージャも意味を理解したのか、ジュリアを止める。

でも当の本人はケロリとしていた。


「大丈夫です。因みにナージャ様にもありますよ?」


そう言って、また鞄から本を取り出した。


「何かしら?…『花の王子と宰相子息の秘密の公務』…これって…。」


唖然とするナージャが持つ本を見て、何となく理解した。


…成程、確かにこれはあの四人に見せれば不味いだろう。


内容は違うと思うけど、タイトルが4人を連想させるのだわ。


義兄と義弟…カムとグレンで、王子はルーベルト様、宰相子息はシリウスね…?

挿絵はなく字だけの本だから、あてはめて読めと?


カムはともかく、グレンとルーベルト様、シリウスはかなり怒りそうだ。


「是非、読んでくださいね?」


「内容は保証します!」と言いながら、とても爽やかな笑顔をするジュリアが怖い。


ジュリア…何か4人に怒りを持つことがあったのだろうか?


でも…どうしてだろう?

読んでみたい気もしない訳ではない。


隣を見るとナージャも同じ気持ちなのか、まじまじと本を見つめていた。


「…ジュリ…私、知らないわ…?」


先輩に自分のお勧めの本を押し付ける事が出来る親友に、仔兎はそっぽを向いて丸くなる。


これをあの4人が知れば何が起こるか、リリーは想像出来るからこそ現実逃避したくなったのだろう…。


不貞腐れる兎の背がそう語っていた。



それでも和やかな?お茶会は楽しく終わった。


そして悠々とお休みを満喫して学園に戻る日を迎える。




お読み頂きありがとうございます。


途中からの話が閑話としていれましたが、すみません。悪ふざけが過ぎました。

ジュリアが出てくると、どうしてもアレがでます。苦手な方、本当に申し訳ありません。


ジュリアがロザリアとナージャに例の本を貸したのは…浅くて狭い理由があるからです。



誤字報告有難う御座います。


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