執着の影
途中カム視点になります。
「そうよ?裏でコソコソしなくても堂々と表に出して説得すればいいのよ?」
皆の視線がわたくしに集まる。
「ロザリア…どういうことだい?」
「だって、彼はレベンスお爺様を求めているのでしょう?でもお爺様を再現させようとなんて誰でも無理よ。だから堂々と彼を呼んで素直に『出来ません』と突きつければいいわ?」
「「…。」」
そう、堂々と立ち向かえばいいのだわ。
そんな複雑にしなくてもいい。
「それにマーカス侯爵の執着にお父様も関係しているのでしょう?なら彼をブロッサム邸に呼んでお父様と良く話し合うの。謝罪が必要なら謝罪すればいい。とにかく蟠りを解いてあげればいいわ?」
お互いは幼馴染なのだから、腹を割って話せばいい。
「だから話が通じる相手ならこんなに悩むことはない…。やはり猪だな…?」
グレンは大袈裟にため息をつく。
何だろう?馬鹿にされている気がする。
「…。」
ほら、リリーを御覧なさい?
姉の話を真剣に受け止めてくれるわ。
「…どちらにしろ、ブロッサム公爵に一度話を聞かなければならないね?彼は今ここにいる?」
苦笑しながらルーベルト様はカムに父の来訪を確認する。
「はい。旦那様は来賓席で観覧しています。」
父はこの学園を支援しているから、来賓として呼ばれている。
会いに行きたければ会えるのだ。
「あいつも来賓として呼ばれているが、学園祭の最後に来ると報告があった。だから早めにリリーをマーカス領地に戻したかった。」
「…え?」
マーカス侯爵が来る?
「丁度いいじゃない!そこで話し合いましょう?」
「馬鹿すぎる!その話をした後、すぐ消されるぞ。少しは警戒しろ?」
こいつ…
「煩いわね?あんたがこの事を早く教えてくれればよかったのよ!」
こんな状況にならず、もっと違う形が出来たかもしれないのに!
それなのに、グレンは呆れた様にため息を吐く。
「リリーを連れてくるべきではなかったな?…リリーがロザリアに会いたがっていたから、少しだけでもと思ったのが馬鹿だった。」
危険と分かっていても、連れて来たのはリリーの事を思って。
優しいけど、わたくしには優しくないわね?
「時間がないからリリーをウェントの元に連れて行く。行こう?」
グレンがリリーを立ち上がらせる。
「では俺もご一緒してもいいですか?彼らにも一言謝っておきたいです。」
カムの要望にグレンは素直に頷いた。
随分カムに対して丸くなったじゃない?
「ロザリア、僕たちは今からブロッサム公爵に事情を聞くために行こうか?」
ルーベルト様が立ち上がるとわたくしも続く。
学園祭がどこまで行っているかを確認もしなければならない。
まだわたくしたちの演目は終わっていないから。
「…お姉様…。」
「リリーどうしたの?」
深刻な表情したリリーがわたくしを見つめる。
「本当はお姉様のダンスを見たかった。美男美女のお二人が踊る姿はさぞかし素敵でしょう?…とても残念です。」
急にガクッときた。
因みにルーベルト様も落ち込んでいる。
リリーは余程わたくしたちの仮装がお気に召したようだ。
「また機会があったら見せてあげるわよ?」
「…楽しみにしています。」
リリーは小さく微笑んでグレン達と共に去った。
まだ解決できないから仕方ない。
彼がグレンとリリーを狙っている以上、このままで行くしかない。
でも…必ず助けるから。
「…さあ行こうか?」
「そうですね。」
早く解決する為にも父の所に行かないと。
わたくしたちも温室を後にした。
・・・・・
医務室までの道を3人で歩く。
廊下に人はほとんどいない。
外では剣を重ねる音が響いた。
きっと武道会が行われているのだろう。
学園祭も丁度中頃で盛り上がっている様だ。
グレン様の横顔を見ると刺々しさが感じられない。
まだ問題は解決されないけど、少しだけ心の整理が出来たみたいだ。
でも、まだ話してくれていない事がある。
「グレン様。どうしてロザリア様とリリー様を引き離そうとしたのですか?巻き込みたくないと言っても、やり過ぎではないでしょうか?」
そう、如何にもリリー様が離れたいと思わせる様に、ロザリア様を突き離した。
グレン様は眉間に皺を寄せる。
少し間を空けた後、彼は口を開いた。
「…俺は今までリリーがいたから自分が保てた。だからどうしてもリリーだけは離したくない。だけどロザリアはリリーを返せと言う…それが許せなかった。俺が手に入れたものを奪うなど許せないんだ。例え相手がリリーの姉だろうとも…絶対に!」
感情的になるグレン様にため息が出る。
『それで攻撃的に過去の事を言って責めたのですね?』
リリー様が慕う者達はグレン様にとって敵に見えたのだろう。
「…悪い事をしたとは思っている。」
まさかの発言。
…どうやらグレン様はやり過ぎた事を反省している様だ。
「随分素直になりましたね?」
「!?」
バツが悪そうにグレン様は俺を睨むが全然怖くない。
つい笑みが出る。
こうして彼と肩を並べて歩くことが出来て一安心した。
一時はどうなるかと思ったが、グレン様の本質は素直で少し甘えん坊の様だ。
ただマーカス侯爵によって捻じ曲げられて育ったため固い殻に籠って自分を守っていたのだろう。
「グレンは一人じゃないですよ?お兄様たちがついているもの…。」
微笑むリリー様に少し違和感を覚える。
「リリー様どうかされましたか?さっきから何か気にしているようですが?」
「え?…そうですね。少し気になっていまして…。」
リリー様は立ち止まった。
「…グレン。確かウェントは昔、マーカス侯爵様に武術を教えて貰っていたのですよね?」
「ああ、ウェントは俺と一緒に父から武術を教えて貰った。だから普通の騎士より強い、それがどうした?」
「…そんな人がジュリに後れを取った…。いくらジュリが強くても少し様子がおかしいと思いませんか?そしてマーカス侯爵様が学園祭の最後に来るなんて…違和感があります。」
確かに違和感がある。
数分も立たずにジュリア様が二人を気絶させた。グレン様と一緒に鍛えられた人なら多少の抵抗があってもいいはず。
そしてマーカス侯爵も時間を指定している…。
リリー様の指摘にグレン様が険しい表情になる。
…つまり従者は味方ではない。
「もし…お兄様に引き止められなかったら、私は気づかずにマーカス侯爵様の元に行っていた…。」
マーカス侯爵が来るからリリー様を早く戻すつもりだった。
でもリリー様は領地に戻らずにそのまま…
そうなると彼の元に行くのは良くないのでは?
「ご名答。流石はレベンス様を受け継ぐ孫娘だ。」
突如、俺たちの後ろから声が届く。
振り返るとそこにはマーカス侯爵とリリー様についていた従者がいた。
俺達は固まって動けない。
気配が全くしなかった。
「リリー、私の妻にべったりで、一緒に帰ってくれなかったから寂しかった。ようやく王都に帰って来てくれて嬉しいよ?」
マーカス侯爵は優しく微笑むが、笑顔の中に狂気を滲ませた威圧を醸し出している。
グレン様と同じ威圧…いや、それ以上だ。
今までにない恐怖を覚える。
「リリー、我が家に帰ろう?…グレンお前もだ。このまま二人とも戻ってきてもらおう。」
リリー様を守る為、グレン様と一緒に前に出る。
そんな様子にマーカス侯爵は微笑んだまま目を鋭くし俺たちを嘲笑うように見た。
「…関係ない者がいるな?それもジオの補佐か…邪魔しないでくれないか?」
「関係ないわけありません。俺はリリー様の義理の兄になります。義妹を守るのは当然でしょう?」
さきほど狂気を纏ったグレン様と同じやり取りを繰り返している気がする。
ここまでそっくりだと相手をグレン様と思えてしまう。
ただ緊張感は彼の方がかなり上だが。
「…分かりました。ご一緒いたします。」
「リリー様!?」
「リリー!?」
リリー様が前に出て、マーカス侯爵の申し出を受け入れた。
信じられない。
一緒に行けば何が起きるか分からないのに、何故その申し出を受け入れるのか?
マーカス侯爵は嬉しそうに手を差し出す。
「…ですが、少し時間をくださいませんか?まだお姉様の演目が終わっていません。姉のダンスを観させてください。…それまで私とお話しましょう?丁度、話したいことがあります。」
「…時間稼ぎのつもりかい?」
マーカス侯爵は怪しく微笑んだ。
リリー様の思考を先読みしている。
「まさか?私は我儘を言っているだけです。…それに時間稼ぎなどしても意味をしません。」
リリー様も対抗する様に微笑んだ。
その様子にマーカス侯爵は仕方ないと言う様に軽く息を吐く。
「そうだね。グレンを大切にしている君なら無意味だ。…要望を聞こう。」
そうか、リリー様はグレン様を盾にされている事を分かって話をしている。
いくら俺たちが動いてもリリー様はグレン様の為に従うだろう。
「嬉しいです。でもここで立ち話するのは如何と思いますね。お兄様、何処か話せるところはありませんか?」
「…先ほどの温室なら人は来ないでしょう…リリー様…。」
「そうですか。ではマーカス侯爵様、一緒に参りましょう?」
リリー様はマーカス侯爵の元へ行こうとすると、グレン様が彼女の手を掴む。
「リリー、一人で行かせるわけがないだろう?俺も一緒に行く。」
「グレン様、貴方は別の用があります。私とご一緒して頂きましょう?」
リリー様の手を掴むグレン様の手を従者が振り払い、リリー様とグレン様の間に立つ。
「ウェント、裏切ったな!?」
「何のことでしょうか?私はもともとマーカス侯爵家に仕える者です。貴方に従う様、旦那様から言い遣わされています。」
睨み合うグレン様と従者を他所に、マーカス侯爵がリリー様を温室に向かう様に促している。
「…。」
「え?」
リリー様が俺の方へ振り向き、言葉を出さず口だけ動かした。
< グレンを守って >
最後に弱く微笑み、そのままマーカス侯爵と共に歩き出した。
「リリー!」
「いつもいつも、リリー、リリーと。煩いですよ?」
「ウェント!?」
ウェントが忌々し気に言い放つと突然グレン様の口に何かを入れようとする。
グレン様も辛うじて躱す。だが液状の薬の為か、不意打ちで少し口に入ったみたいだ。
「グレン様!?」
何を飲ませようとしたんだ!?
「ウェント…っこれは…っ」
「流石グレン様、直接対決では貴方に勝てませんので薬を用意しましたが、不意打ちも上手く躱しましたね?まぁ少し薬が入ったから良しとしますか?」
「何を飲ませたのですか!?」
俺たちが睨むと従者は怪しく微笑む。
「ただの睡眠薬ですよ?強めで即効性のものですから、すぐ効き目があるでしょう?多少は体の自由を奪えるぐらい効果があります。」
それを聞き彼を見ると、グレン様は床に膝をつき耐える様に身体を支えているではないか。
「貴方の分もありますが、できれば黙って引き下がって欲しいですね?後に困りたくなければ…。」
「…俺を消すつもりですか?」
「そんなことはしません。でも、もしかしたら事故に遭うかもしれない…あなたを大切にしている人はいるでしょう?悲しむのではないですか?」
従者は怪しく微笑む。
「…何故そこまで彼に従うのですか?」
「何を言っているのですか?私はマーカス侯爵家の使いの者。ですがそれだけじゃない。…彼は私の命の恩人です。彼のやることは正しい。だから従うのですよ。」
命の恩人…それで従うのか?
グレン様を庇う様に前に立ち彼を警戒する。
どうにかして彼を止めないといけない。
どうするかと悩んでいたら、廊下の先に見覚えのある人影が見えた。
「…下がってくれ?…ウェントはお前じゃ敵わない。」
「あはははっ!!格好いいですよグレン様。ただその状態で私に勝てると思っているのですか?」
グレン様が辛そうに立ち上がると従者は面白そうに笑い構える。
「グレン様が負けるわけがないでしょう?貴方みたいな相手に…第一、戦う相手が一人とは限らないですよ?」
「貴方も来ますか?こんな状態のグレン様と戦えない貴方が私に?笑い死にさせる気ですか?」
「じゃあ、そうなさって下さい。」
「!?」
俺たちを散々笑った従者の背後に忍び寄る女性の影…マリアン様だ。
マリアン様が気絶させる為に手刀で首を狙うが、従者は辛うじて気づき避ける。
「くっ!またですか!?」
従者は何度も邪魔されていた所為か忌々しそうに表情を歪め、体制を整えて反撃しようとするが、すかさずグレン様が現れて従者の腹を拳で強打した。
その身体で良く動けるものだ…?
ウェントは不意打ちの攻撃に呆気もなく倒れる。
「…マリアン様。」
「遅くなり申し訳ありません。違和感があったので戻ってきたのですが、まさかこうなっているとは思いませんでした。」
マリアン様も従者の違和感におかしいと思って戻って来たそうだ。
「グレン様、大丈夫ですか?」
「…俺は平気だ。早くリリーを…っ」
従者と共に倒れたグレン様も必死に身体を起こしリリー様の元に行こうとするが、体は動かない。
「リオ、グレン様とその従者を医務室に。グレン様その状態では動くのは無理です。カム様と一緒に医務室へ行ってください。」
マリアン様に呼ばれると少し離れたマリオット様がこちらに歩いてくる。
なぜマリオット様は隠れていたのですか?
「煩い!リアンから言われたから離れていたんだ。ほら、グレン行くぞ!」
「触るなっ…俺はこれで十分だ。」
マリオット様の手を振り払い、グレン様は剣を取り出して自分の手を剣で突き刺した。
「ば、馬鹿!?」
「何しているのですか!?」
グレン様はそのまま立ち上がった。
手から大量の血が出ている。
「…眠気を覚ましただけだ。痛みで身体が動く。そんな事より早くリリーの元に行く。」
「だからってお前、その手も手当てしないといかんだろう!?」
手負いのグレン様にマリオット様が叱る。
するとマリアン様はため息を吐き、燕尾服の胸ポケットからハンカチを取り出してグレン様の手をハンカチで巻いて止血する。
「貴方も馬鹿ですね?…こんな事をしてリリー様が喜びますか?」
「煩い。それはリリーに言ってくれ。あいつは一人で父を説得するつもりだ。さっきのロザリアの言葉を鵜呑みにして…リリー一人では父に敵わない。あいつが何かする前に行かないと!」
哀しそうに微笑むリリー様が脳裏に浮かぶ。
思いつめた表情に胸騒ぎがする。
「…マリアン様、この事をロザリア様に伝えてくれませんか?俺とグレン様は温室に向かいます。旦那様を連れて来てほしいとお伝えください。」
「…緊急事態ですね。承知いたしました。リオ、貴方はその人をお願いします。」
「…分かった。終わったらすぐに行く。」
二人はそう言い即座に動き出した。
「グレン様、俺たちも行きましょう。」
「ああ。」
俺たちは温室へと駆け出した。
読んで頂き有難うございます。
ロザリア視点やカム視点に切り替えが多くなります。
次はロザリア視点になります。
おまけ
「…あれ、クラベル先生達じゃあない?」
「本当た⁉︎…でも何が雰囲気悪くない?」
「…うん。何がここまで不穏な雰囲気が…」
「…見なかった事にしよう。」
「…そうだな。知らない方がいいよな?」
「…うん。これは知ってはいけないやつだ。」
とある生徒の話。
この出来事は噂になりませんでした。(我が身を守る為)




