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愛する覚悟

この話は追加しています。


リリーは顔を赤らめてあたふたする。


「リリー。」


名を呼ばれた途端、リリーは跳ねる様にカウチから立ち上がった。

グレンがリリーに近づいてくる。


とても気まずい。


「グ、グレン様、勝手な事を言って、ごめんなさい!」


シルヴィアにあれこれとグレンの話をした事にリリーは謝った。


「…でも私の気持ちは嘘ではないの。」


リリーがモジモジとすると、グレンは嬉しそうにリリーを包む。


「リリーの気持ちを知れて嬉しいよ?呼び捨ても、君と対等になったようで嬉しい。俺達は両想いだ。」


二人の想いは繋がっている。

リリーは嬉しくてグレンを抱き返した。


「いつ戻られたのですか?」


「君が母に何故もっと早く言わなかったのかと聞いていた時だ。リリー、俺が後ろに居るのに全然気づかなかったね?」


「そんな、結構前ではありませんか?…もう、グレンの意地悪…。」


頬を膨らませて抗議をするが、逆に笑われてしまう。

惚れた相手に敵わない、そう思うリリーだった。


「ふふっ。…愛し合う二人は素敵だわ?」


揶揄うシルヴィアに二人は現実に戻った。


「…グレン。私が何をしようとしているか、聞いていたわね?」


グレンは母親に鋭い目で見つめる。


「…罠ではないのか?」


グレンは母親を疑っている。


「それは貴方が判断しなさい。でもね、グレイスを負かすには相当な手の込んだことしなければならない。相手は今の英雄よ?…それも最強の英雄の弟子。知識と武術は誰よりも上回る。普通に抵抗しても勝ち目はない。」


最強の英雄レベンスの弟子だったグレイス。

彼の功績は英雄と呼ばれる程のもの。


「…私達はどうすればいいのですか?」



「先ほども言ったように、グレイスに対する王家の信頼を薄める必要があるの。…特にグレイスの言葉を鵜呑みして、次の英雄誕生を心待ちしている国王ね…。」


英雄だけではなく、この国の王が相手。

かなり手強い。


「グレイスの評判を落とすにも無理がある。でも彼は長年無理をしてきたのか、身体は昔の様に強くない。だからグレン、貴方が彼に引導を渡すの。世代交代、いい方法でしょ?」


「…馬鹿いうな?俺はあいつに一度も勝ったことがない。」


グレンが悔しそうに異議を訴えると、シルヴィアは大きくため息を吐く。


「そこは努力して頂戴。でもね、大丈夫よ?私の伝手にレベンス様と縁があった家があるの。その家にも協力して貰うわ?それに私と実家の兄が別で彼に罠を張るわ。貴方は怒ると思うけど、リリーを囮にすればあの人を油断させられる。」


“リリーを囮に”


これはグレイスに絶対的な効果がある。

勿論、グレンにも。


「ふざけるな!!」


当然怒った。

でもリリーはグレンを止める。


「グレン、私は囮になっても大丈夫です。」


「リリー!?」


「これは私しか出来ません。寧ろ、グレンが勝つにはそうするしか方法はないでしょう?」


グレイスが崇拝するレベンスに似るリリーが一番効果的だ。


グレンも嫌でも納得するしかない。

だが、リリーの表情が曇る。


「ですが…それでもマーカス侯爵様相手に難しいかもしれません。」


リリーの懸念にシルヴィアは頷いた。


英雄相手に勝つにはそれを上回る力が必要だ。上回らなければ確実の敗北が待つ。


「ええ、リリーの言う通り。勝率は50%あればいい所よ?状況次第で私は貴方達をこの国ではないどこかに隠そうと思う。その準備をするにも時間が掛かるわ。…本当は話し合いで済めば誰も傷つかないで一番の最良だけど、これはほぼ望めない。だから戦うしかないの。」


説得に応じてくれるなら一番良い。


でも応じないなら英雄という座を揺るがす為に戦うしかない。


最悪の場合は二人を国外に逃がす。


「どう?貴方達の覚悟を教えて頂戴。」


シルヴィアは二人に覚悟を問う。


暫く沈黙が続いたが、グレンとリリーは同時に頷いた。


「何もしないまま、あいつの思い通りになりたくない。どんなに小さい事でも抗ってやる。」


「はい。いつまでも弱い私達と思われたくありません。抵抗して見せます。」


覚悟を決める二人にシルヴィアは頷く。



「分かったわ。では今後の事を話しましょう?リリー、貴女は当分の間ここに居なさい。ブロッサム家に帰ると危険だわ。ここなら私が居る限り監視はない。」


ブロッサム邸の使用人は、半分ほどリリーを監視する為に送ったグレイスの駒。

マーカス邸はグレイスの包囲網だけど、ここにはシルヴィアがいる。

監視は出来ない。


「そしてレベンス様の振る舞いを知っている限り教えるから覚えなさい。元々貴女はグレイスに反発してか弱いふりをしていたのだから、すぐに身につくわ?」


リリーが複雑そうに唸る。


「…シルヴィア様は見抜いていたのですね?」


今までグレンの為にリリーが抵抗していた事はシルヴィアにお見通しだ。


「グレンは今以上に鍛錬して貰う。すぐに師になる相手を手配して貴方の従者としてつけるわ。これなら学園に行っても継続して鍛錬が出来るでしょう。それ以外はグレイスに悟られぬように気を付けて行動しなさい。」


「…それは問題ないが、このままでいいのか?もうあいつの計画どおりにリリーをこの家に入れている。」


リリーを手籠める。

それがこの領地に連れて来た理由だ。


グレンの懸念にシルヴィアは問題ないという。


「グレイスには偽って報告するわ。勿論、グラジオにも報告して二人の婚姻を早めて貰う様に手続きするつもりよ?」


「この状況で婚姻手続きをするのですか?」


それは早いのでは?とリリーは疑念を持つ。


「ええ。とは言っても、先に婚姻証明証を作るだけだから問題ないわ?グレイスが教会側に提出したとしても、新婦側の父であるグラジオがリリーの成人まで許可をしないと言えば、教会は受理しない。」


「…ブロッサム公爵にどう説明するつもりだ?」


今の状況をブロッサム公爵が知った場合、彼はリリーを守るために婚約を破棄するだろう。


「心配しないで?グラジオは絶対に私達の味方になるわ。だってグレイスがこうなったのも彼に責任があるの。」


シルヴィアは言い切るとリリーは俯く。


「それは父がお爺様の様になれなかった事でしょうか?」


英雄の息子だから、英雄を継ぐ。それが出来なかった。


そうリリーは思ったが、シルヴィアは首を振る。


「違う…別の理由があるの。でもこれは私も詳しく知らないわ。直接グラジオに聞きなさい。とりあえず彼にも近いうちにここに来て貰います。私も義兄に連絡して罠を準備しないといけないからやる事は多いわね。あの狂信者をどう料理してやろうかしら?」


シルヴィア気迫は凄い。

元女王蜘蛛と呼ばれただけあって、狂気の笑みは恐怖を感じさせる。


「母様は何するんだ?」


グレンが表情を引きつらせて問う。


「それは秘密よ?でも心配しないで?私は貴方を守りたい。…今まで貴方に辛く厳しい教育をさせた愚母だから信じられないかもしれないけど、貴方をずっと愛しているの。子供の幸せの為に全力で夫婦喧嘩に挑むわ。」


突然振り落ちる母の愛にグレンは驚く。


そんな息子にシルヴィアは苦笑する。


「大事な息子を託せるかどうか確かめたくて、リリーの心をちゃんと知りたかった。良かったわ?万が一、貴方達を外に逃がすとしても二人は夫婦として歩んでいける。」


「シルヴィア様…。」


リリーはシルヴィアの意図を理解した。


この作戦はリリーの意志次第で変わる。


『シルヴィア様はグレンの為に他の作戦を用意している。私の意志が弱ければ簡単に切り捨てたでしょう…。』


息子への愛が真実か否かを確かめていた。


全ては息子の為に。


嫌な気持ちになるか?と思えば、そうじゃない。

リリーの心は安堵している。


『良かった…。グレンは愛して貰えないと言っていたけど、そうじゃない。』


母の愛に動揺するグレンを見てリリーは微笑んだ。

その笑みはシルヴィアにも安堵を与える。


「やはりリリーに託して正解ね?…とにかく、近いうちにグラジオを呼ぶわ。その時にこの話をします。」


話を切りかえるとグレンとリリーは頷いた。


「それまでは二人ともここで色々と心積もりしておいて?…最悪の場合を考えて出来るだけ貴方達は親しい人から離れて欲しいの。グレイスに悟られない様に…お願いね?」


「…っ。」


親しい人と聞いてグレンとリリーの表情は曇った。


この状況を知られると自分達の足元が危うい。

それだけではなく、親しい人達にも危険を与えてしまう。


それだけグレイスは恐ろしい。


二人は頷く。


そうして三人だけの作戦会議を終わらした。


その後、ブロッサム公爵が来てマーカス邸まで来て話し合う。

色々と揉めたが、最終的に協力することになった。


それからグレンとリリーは不自然ないように隠しながら各々と準備を行う。




そしてグレンが学園に戻る前日。



二人は庭に出て景色を眺めている。



「…グレン。何度も考えたのですが、やはりこの事をお姉様たちに知らせたほうがいいのでは…?」


「それは駄目だ。あいつらが動くと余計な事を起こす。少しでも探ればあいつは直ぐに気付くだろう。…それに今あいつらは別の件で忙しそうだ。…邪魔したくない。」


“邪魔したくない”と言うが、“心配かけたくない”とリリーは聞こえた。


グレンは姉達を大切にしているから、敢えて危険な目に遭わせたくなくて冷たいふりをしている。


とても優しい。

でも優しいだけでは何も守れないから、冷徹な仮面を被る。


「リリーもロザリア達と別れる事を覚悟して?この先どうなるか分からない…。」


状況次第でグレンとリリーはこの国を離れる。


「私達が利用されない為としても…辛いですね…?」


英雄の容姿と血を引く孫娘。


英雄の力を継いだ父の息子。


利用される前に死んだことにして皆の前から去るのだ。


哀しそうに俯くリリーをグレンは抱きしめる。


「それでも俺は君が傍に居てくれればいい。リリー約束してほしい。俺から絶対に離れないで?俺以外を求めないで?」


どうなろうとリリーが居ればいい。


切なく訴えるグレンにリリーは抵抗せず受け止める。


「…はい。私はずっと貴方の傍にいます。」


どんな結果でもリリーはグレンについて行く。


だから未練を持ってはいけないのだ。



リリーがそう思と手首のブレスレットが重く感じた。


まるで、これで良いのか?と責められている様に。


リリーがブレスレットを触ると、それに気づいたグレンはリリーの手を取りブレスレットを外し、外した手首ごと再び包んだ。


「俺が君の家族だ。」


「…うん。」


罪悪感を隠すようにグレンを強く抱き締め返した。




※※※


「話は以上です。」


リリーの話が終わった。


「…それでリリーが帰らなかったのね…。」


頭の中がまだ混乱している。

リリーがグレンを守るためにブロッサム家を去ろうとした。


怒りは無いわけではない。

でも、そこまでリリー達を追いつめていた元凶は、グレイス・マーカスだ。


彼の過去に何があったのかは知らないが、その所為でグレンとリリーはわたくし達から離れようとしている。


彼を何とかしなければならない。


「自分に代わる英雄を求めていて今回の事が起きたという事か…でも、何故マーカス侯爵はそんなに英雄を求めているのだろう?繁栄の為なら別に英雄に拘らなくてもよいはず…。」


「そうですね?ブロッサム公爵様も原因があるのが気になります。マーカス侯爵様が求めているのがレベンス様なら、過去に原因なものがあったのかもしれません。彼が亡くなったのは確か隣国との戦の半ばですよね?」


「そう、大怪我の後遺症で亡くなっていると聞いたよ?…先代王が初めて焦る姿を見たと父から聞いたことがある。」


ルーベルト様とカムは冷静にあれこれと分析するけどわたくしにはよくわからない。


「原因はどうこうと言え、このまま見過ごせないわ?マーカス侯爵をどうにかしないといけないでしょう?」


過去の事よりも今を心配しなければならない。


「ねえ、これはいつ決着がつくの?まだリリーが領地に居なければいけないなら、まだ準備はおわってないのでしょう?」


「ああ。でもそう掛からない。あいつの計画通りなら、近いうち俺はこの学園を離れて本格的に目的を遂行させるつもりだ。その時に俺はあいつに引導を渡す。」


ああ…。ここで何とかグレン達を引き留めてよった。


何も知らないまま、二人は居なくなる。

それだけは絶対に止めなくてはならない。


「ですが、マーカス侯爵様は侮れません。先ほど申し上げましたが、あの人はルーベルト殿下とお父様のお力を合わせても太刀打ちが出来ないほど、全てにおいての力をお持ちです。彼の考えを変えない限り私達は戦うしかない。…貶めるしか方法はないのです。」



リリーの訴えに頭を悩ませる。


権力・武力・名声を持つ英雄に勝てる程甘くない。


「考え方を変えると言っても説得するしかないですよね?」


「ブロッサム公爵がそれを試みようしているが、対話する機会がないそうだ。…最近あいつは国王の依頼で多忙らしい。」


ワザとらしい仕事が重なって説得ができない。

グレンの話にカムも頭を悩ます。


そう彼に諦めさせることが出来ればこの問題は解決する。レベンスお爺様を崇拝する狂信者であるグレイス・マーカスを何とか説得できれば…説得?


「説得はできるのではないの?」



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