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信じる心

マリアン様を想うマリオット様の傷つけたくない気持ち大切だと思う。

でもそれはマリアン様を信用していないと同じだ。

それが彼女を傷つける。


「マリオット様、気持ちは分かりました…だけど、それはマリアン様を苦しめます。」


「何故だ?」


俺の言葉にマリオット様は怪訝な表情をみせる。


「ニースさんの死の事実は哀しい事実です。取り返すことも出来ない。せめて彼の父親が生きている時に事実を知って父親を裁ければ少しは良かったかもしれません。それがニースさんが望んでなくても望んだとしても、貴方の心は晴れたかもしれない。」


裁ける相手が居ると居ないで違う。

相手に心の靄を擦り付けることが出来るのだから。


「後から知った真実は尚重くなって後悔として貴方を苦しめています。でもそれはもう一人の親友であるマリアン様も同じ事なのです。今のマリアン様は事実を知らない…もしそれをどこかで知ったらどうなります?貴方と同じように…いえ、貴方以上に苦しみます。」


ここまで親友の為に悔やむマリオット様。

ならマリアン様も同じ想いをする。いや、それ以上に悔やむだろう。



「それにそれだけではなく、もっと傷つくでしょう。マリアン様はマリオット様がそれを知っていた事に対して深く傷つくのですから。」


「…。」


もう一人は真実を知っていて苦しんでいたのに、何も知らずのうのうと暮らしていた。


それはマリアン様にとって耐えがたい事だ。


知らない方が良い事も確かにある。

だけど、自分の大切な者が一人で苦しみを背負っていたら?

その所為で信じていた道を外して居なくなってしまったら?


支えてあげることも、一緒に泣くこともできない。


もう一人の親友に背をむけられて一人で孤独の中に取り残される。

それこそマリアン様はマリオット様以上に傷つき苦しむだろう。


「だからこそ貴方はマリアン様に向き合って包み隠さず話し合う事が大切になります。貴方は無茶をするマリアン様を止めたいと言った。ならば向き合い傷つく彼女を寄り添う事がなにより彼女を守ることになるのです。大切なものを間違えないでください。貴方が一番大切なのは誰ですか?」


席を立ちあがり扉へ向かう。


「…俺の大切な者は…そんなの決まっている。マリアンだ。あいつを守りたい。」


「なら、ちゃんと向き合ってください。そう思いますよねマリアン様?」


ドアを開けると扉の前にはマリアン様がいる。


アレス様とアンジェラ嬢が出る時にチラッと姿が見えた。


マリオット様は気づいていなかったみたいだが…。


すぐに部屋に入ってこなかったという事はマリオット様の話を聞いていたのですよね?

だからこそ逃げてはいけない。


「り、リアン…。」


「…。」


話を聞かれてマリオット様は動揺している中、マリアン様は無言のまま憎らし気にマリオット様を睨んでいる。


…これは相当怒っていますね?


マリオット様の自業自得だから何とも言えないけど…この先が少し心配な気がする。


「マリアン様、どうぞ中に。」


マリアン様に部屋の中に入るよう促した。

取り敢えずこんなドアが開きっぱなしでは外に漏れる可能性が大だ。

流石にそれは不味い。


「…聞いていたのか?」


「…はい。」


二人の間に只ならぬ空気になる。


「あの、俺は出て行った方がいいですよね?」


二人で話しあった方がいいだろう?


逃げるわけではないが、(いや、ほぼ逃げている。)綺麗さっぱりに話した方が良い。

以前の病院と違って空気が尋常ないぐらいに重いが、逃げていたマリオット様が悪い。


「いいえ、私は構いません。リオも良いですよね?」


「あ、ああ。うん。是非いてくれ?」


素敵な笑顔で言うマリアン様の問いに冷や汗かきながらマリオット様も頷いた。


マリオット様、そんな縋るような目で見ないでください。


「勝手に盗み聞きしたのは謝ります。殿下より二人の様子を見て来てほしいと言われてこちらに来たのですが、気になるお話をされていたので…邪魔をしたくなくて外で聞いていました。」


成程、殿下がその後を気にしてマリアン様を向かわせたのだろう。

なにせアンジェラ嬢に釘を刺したとしても、もしかしたら強制力でマリオット様が護衛を望むかもしれない。


その為保険でマリアン様をこちらに寄こしヒロインと対面させて、彼女にマリオット様も攻略不可と分からせるために手を打った。


うん。本当に殿下は徹底的だ。

そしていいタイミング。


「リオ…カム様にお話しされていた事は本当ですか?」


「そ…それは……そうだ。」


「という事は、病院で話してくれていたことは全部では無かったのですね?」


「い、いや、確かに前に話したことは俺にとっては事実だ。だが、これだけはお前に言えなくて…。」


マリアン様の一つ一つ追い詰めていく問いにマリオット様はたじろぐ。


「黙っていた事は悪かった。でも言えなかったんだ。知らなかったとはいえ、これは俺にも罪がある。この罪をお前に知られたくなかった。…カムの言う通り逃げていたんだ。」


「だったら私も同じでしょう!?何故貴方はそうなんですかっ、どうして一人で勝手に決めるのです?大事だと言っても私に何も話してくれない…私だって貴方が思っているのと同じぐらいリオを大事だって思っているのに!」


掴みかかりマリオット様を睨む目は哀しみがあった。

罪の意識や劣等感に苛まれるマリオット様から置いてきぼりにされ一人取り残される孤独に苦しむマリアン様。

二人は互いの理由は違えど苦しんでした。でも親友を大切に想っているからこそ苦しむことになった。二人は似た者同士だ。

お互いを大切に想っているのに擦れ違う。

そんな悲しい事実をもう終わらせなければならない。


「マリオット様…これで分かったですよね?貴方がマリアン様が大切に想っていると同じマリアン様も貴方を大切に想っている。…どうかマリアン様を信じてあげて下さい。」


傷つけることを恐れず二人で痛みを分かちあってほしい。


マリオット様は俺を一瞥しマリアン様を抱き締める。


「…俺は間違ってばかりだな…なぁリアン、どうしたらお前に償える?」


「…その前に私からも言いたいことがあります。」


抱きしめる腕を少し放しマリアン様の顔を覗き込むと神妙な表情をするマリアン様


「貴方に一人背負わせて済みませんでした。」


「な、何でお前か謝る?」


まさかの謝罪にマリオット様はたじろぐ。


「ニースの事、辛かったでしょう?…いくら教えて貰えなかったとしても私にも罪はある。あの当時、私も事件の事を調べていました。でも目撃も少なく助けた子供すら見つけられなかった。私ももっと視野を広げて深く探れば何かが分かったかも知れないのに、何もしなかった…。」


「違う!リアンは何も悪くない!俺だって調べたけど、分からなかった。たまたまニースの従兄弟と知り合っていたから分かったんだ。…それまであいつの父親を疑うなんて思いつかなかった…。俺が悪いんだ。」


「…リオ。誰が悪いなんてきっとありません。でもお互い信じていなかった。ちゃんと話し合っていれば、こんなに悔しい思いもしなかったかも知れない。でもそれも結果です。だから…これからは私は貴方に向き合いたい。一緒に痛みを抱えニースの想いを繋いでいきたい。貴方と一緒に…。」


「リアン…。」


その言葉に感動したのかマリオット様も決意する。


「…俺ももう二度と間違いたく無い。俺もお前を置いていかない。何かあったら必ず伝える…それがお前を傷つける事であっても必ず伝える。だけど例え傷つける結果になっても必ずリアンを守る。約束するよ。だから俺の側にいてくれ。」


そう言いマリオット様はマリアン様を抱きしめ直した。



・・・。



何という熱い空気に俺は途方にくれた。


流石に一番俺がお邪魔虫ではないかな?


アハハ…若いって、いいな?…俺、席を外させてもらいます。


そう思いながらそっと部屋を出ようとすると、突然マリアン様がケホンッと咳払いする。


「とりあえず、リオ…いくら私達が反省したからとは言って、私はまだ貴方に怒っています。」


「え?」


え?


二人同時に言葉が被る。


俺は何事?と言わんばかりにマリアン様の方へ眼を向けた。


目の前のマリオット様は固まっている。


「だから、一発殴らせてください。」


「え?あ、ああ…」


にこやかなマリアン様の表情にマリオット様は意味もわからず頷いた。

その様子にマリアン様は更に素敵な笑顔になる。


これは…怖いぞ…!?


俺はさっと逃げ出した。


もう大丈夫でしょう。うん、解決。


ドアを閉めて歩くと応接室からガタンっと大きな音がした。


自業自得ですよ?マリオット様…


心の中で合掌した。



・・・・・




「という事がありました。」


「なんか大量にケーキを食べたら、更に追加でケーキが来たわね?」


「そうだね。もう当分甘いものは遠慮したいかな?」



ようやくカムが帰ってきて事の顛末を聞きながら思った事は只々甘い。


シリウスの時と同様、もう甘い話でお腹一杯である。


中々カムが帰ってこないなと思ったら案の定、ひと悶着があったみたいね?

マリオットがそんな事実を隠していたとは…やはりあいつは駄犬だ。


でもあいつがアンジェラの手を取らなかったのはホッとした。

これでマリオットとマリアンも大丈夫。

ルーベルト様もアンジェラに対して徹底的な態度で距離を空けているし、

あとは一人…。

でも、これなら大丈夫かもしれない。


「これでシナリオ通りには行かなかった。アレスに任せてアンジェラ嬢の傍にいる様に伝えてあるし、易々とちょっかいも出せない。これでロザリアの噂も少ししたら収まると思う。」


ルーベルト様はアンジェラとアンジェラに近寄る男子生徒、アンジェラに嫌がらせをする女子生徒達に釘を打った。


アレスがアンジェラの傍にいるという事は易々攻略対象者に寄りつけない。

そして可愛らしく目麗しいアレスが傍にいることによって男子生徒もアンジェラに手が出せない。


そして男子生徒がアンジェラを構う理由がなくなるから女子生徒も嫉妬する事はない。


その上、アンジェラを狙う者に対しても牽制できる。


「流石はルーベルト様ですね?あまりの徹底的ぶりに少し怖いですが、これで少しは安心してお嬢様の学園生活を見守れそうです。」


「それどういう事よ?」


「まだ何か起こるか分からないからだよ?釘を刺したとしても彼女ではない者が動くかもしれない。僕たちはその者を見つけ捕らえるのが目的だ。」


カムの代わりにルーベルト様が答える。


そうか、ルーベルト様とカムはアンジェラが何かしているとは思って無いのだ。


アンジェラはただの駒、裏でシナリオを動かそうとする者を炙り出す為に徹底的にシナリオを潰している。


これからアンジェラはシナリオどおりにはいかなくなった現実をどう動く?

わたくしとしてはもう大人しくしていて欲しいけど…。


「とりあえずお二人は学園生活を頑張って下さい。」


カムはにっこり微笑み、私たちを送り出した。


気づけば夜に近づいている。

そろそろ部屋に戻らないとアリアも心配しているだろう。


学生の場合、中々時間の融通はきかない。

だからカムと全然話せなくてもどかしい…仕方ないと分かっているけど、少し寂しいわ。

でも、もうすぐ長い休みがある。



そういえば、これでゲームどおりにいかなくなった場合、わたくしはルーベルト様と婚約を続けるのだろう。その時はカムどうするのかしら?


カムの顔を見ると今回の件で安心したのか笑顔だ。


…わたくしの婚約が解消されない事をカムが分かっているのだろうか?


何故だろう…知りたいようで知ることが怖い…。


そう思いながらわたくしは部屋を出て自室へと戻った。




夏の長期休みまで平和に学園生活を送っていたが、ある日生徒会から指名される。


それはシナリオどおりルーベルト様、シリウス、グレン、アンジェラ 4名が生徒会に入る事だった。


誤字報告有難う御座います。


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